第168話 04.マルゲの部屋で

 王宮学校に通うようになって3年半がたった。


 あと半年で卒業だなんて、信じられない。 



 最初に会った時は本当にひどかったディートリッヒ王子も、今は落ち着いた。


 変に威張らなくなったし、私以外のクラスメートとも仲良くなってきた。


 クラスメートの男の子となにやら楽しそうに話していたので、今日は一人で家に向かった。


「マルゲ!」


 ディートが追いかけてきた。


「なんで一人で先に行っちゃうんだよ。」


「最近、アクセル以外のクラスメートとも仲良くなってきたじゃないか。


 そんなあんたの姿見てるのが嬉しくてな、邪魔したくなかったんだ。」


「家まで送るよ。」


「人間が王都を歩いたら目立ってしまうだろ?


 それにあんたは王子じゃないか。


 私一人で十分帰れるさ。」


「いつもの通り、フードかぶれば分からないだろう?


 今日こそは部屋にあげてくれよ。」


「あんたね、女の子の部屋にあがるって意味、分かって言ってる?


 そんなはしたない事できる訳ないだろ?」


「別に深い意味はないよ。


 マルゲの部屋ってどんな部屋なのかを見たいだけなんだよ。」


「ダーメ!あはは」


 まぁ、そうは言ったものの、ディートが私に何かするって事もないだろうし、何にもない部屋だから、ちょっと見せるだけならいいかも。


 毎回、部屋を見せろって言われて面倒だし。



「うわぁ、ここがマルゲの部屋かー。」


「何もない狭い部屋だろ?」


「うん、まぁ狭いね。


 今度、俺の部屋も見せてやるよ。」


「俺のって、コルネリア王国が用意した客室だろ?


 前に行ったじゃないか。」


「レオンハルトの俺の私室だよ。


 あ、これ何の本?魔術書?」


 クローゼットの上の方に隠しておいた大事な魔術書!


 黒魔術の魔術書で、怖くて隠しておいたのに、そんな魔術書を目ざとく見つけるディートが信じられない!


「それは大事な魔術書なんだ!


 勝手に見るな!


 筆箱の事、覚えてる?


 あんたとって大事でなくても、私にとってはすごく大事だったり、触られたくないものがあるんだ!返せ!!!」


 ディートは背が高いので、手を上に伸ばされると届かない。


 ジャンプして取り返そうとするが、それでも届かない。


 すると、ディートが片手を私の背中にまわして、抱きしめられるような形になった。


「ディート!ちょっと!」


 両手でディートの胸を押して、少しでも体が離れるように手に力を入れるけど、男の人の力にはかなわない。


「マルゲ、あと半年で王宮学校が終わるだろ?


 そしたら会えなくなるな。」


「まだ半年あるじゃないか。放せ!」


「少しだけ、少しだけ許してくれよ。マルゲ。


 俺、王子だからさ、卒業したら、知らない女の人と結婚しないといけないんだよ。」


 いつもと違ってなんだか神妙だな…。


 ディートの胸を押す両手の力は入ったままだけど、暴れるのをやめて話を聞いてやることにした。

 

「ディート、それは王子なんだから、仕方のない事だろ?


 王子としての定めだし、子供頃から知っていただろ?」


「マルゲ。俺、ずっと君の側にいたいよ。」


「ディート!」


 ディートの目をみると、いつものふざけた目じゃない。


 真剣なのか?


「じゃぁ、王になったら、私に大臣の役職をどれかひとつ与えてくれよ。」


「父さんはまだまだ元気で亡くならないよ。


 それに、君をレオンハルト王宮で働かせるほど、王子に力はないよ。」


 マルゲ…。君と離れたくない…。」


「ディート、しっかりするんだ。


 私がレオンハルトの大臣になれるわけもないし、あんたと結婚もできないのは分かるだろ?」



★★★


 ベルギウスは日記から目を離した。


 あのマルゲリータと王様が昔そんな仲だったとは!


 だから王宮での部屋も隣で信頼も厚かったのか?


 

 でも、マルゲリータといえど、やっぱり女の子。


 こういう事、日記に書くんだなぁ。


 人の日記を読むのは、ちょっと後ろめたい気持ちもあるけど、ちょっと楽しい。


 あのマルゲリータがねぇ。


 ウヒヒ。


 マリアンネさんは、そういえばまだ出てこないなぁ。

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