第167話 03.友達

 コルネリア王国の王宮は、巨大な木と共存しているような不思議な外観だった。


 端の方には木の実のような球状の物がぶら下がっていて、何かと思っていたのだが、一つ一つの球が部屋になっているのだった。


 アクセル王子はその一つの部屋に案内してくれた。

 

 中は真っ白な壁紙にライトグリーンで模様が描かれいて、窓は金色で縁取られいていた。


 大きな窓からは、暖かい日差しが入り込んでいて、ポカポカ暖かい。


 10人ぐらい座れるような長いソファーが壁に沿って置いてあり、窓と同じ金色で縁取られたテーブルの上にはハーブティーが置いてあり、良い香りが部屋に充満している。


 そんなロマンチックな部屋に招待してくれて、すっごい嬉しいはずなのに、ソファーの真ん中に偉そうにすわっているディートリッヒくそ王子を見て、すっごい残念な気持ちになる。


「まぁ、座れよ。」


 どういう事?!


 と、アクセル王子を睨みつける。


「大丈夫、悪いようにはしないから、座ってくれない?」


 アクセル王子もくそ王子とグルなんじゃないのかと不安になるけど、アクセル王子のピュアな可愛い笑顔に負けて、しぶしぶソファーに座ることにした。


「ここは王族専用のサロンなんだ。招待されて光栄だろ?」


「あんたレオンハルトの人だろ?


 アクセル王子が言うならまだしも、何自分の物みたいに偉そうに言ってるんだ?」


 私の言葉が聞こえてないのか、くそ王子は続けた。


「なんか、飲むか?」


 無視していると、くそ王子は勝手に注文した。


「じゃぁ、カモマイルティーをマルゲに。」


 側にいたゲールノートが、だまってお茶の準備をしはじめた。


 しばらく沈黙が続く。


「こ、これ…。」


 くそ王子は恥ずかしそうに、テーブルに筆箱を置いた。

 

 お母さんの刺繍よりも、ずっと洗練されたデザインで、キラキラ光る宝石までついていて、すごい高価な物だと一目でわかる。


 どういう事?


「どうだ。すごいだろ。お前にくれてやるよ。


 喜べ。あっはっは」


「……どんなに高価な筆箱だったとしても、私の筆箱より価値のあるものなんてないんだ。


 あんたには分からないだろうけど、あれは私のお母さんの手作りだったんだ!


 それをあんたの汚い足で泥だけにして…。


 こんなもの、もらったって全然嬉しくないんだ!」


 ひどい。


 馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。


 あんなのが、将来本当に王になるの?


 もうレオンハルト王国は終わりだっ。



 私は素敵な部屋を満喫することなく、カモマイルティーに口付けることなく飛び出した。



 アクセル王子が追いかけてきた。


「マルゲ!待って!」


 王子に肩をつかまれて、私は止まらざるを得なくなった。


「ディートの事だけど、分かってやってくれないか。


 俺ら王子は、すごい孤独んだんだよ。


 子供のころから、周りはハイって言う者しかいなくて、どんなに意地悪しても、怒られなくて…。


 だから、昨日の君はすごく刺激的で、俺たち本当にびっくりしたんだ。


 ディートも不器用な奴だけど、仲直りしたいんだよ。」


「アクセル王子、あなたはすごくいい人だ。


 よくあんなのと一緒にいられるな。」


「俺もディートもそうなんだけど、友達がいないんだ。


 王子だからさ、みんな家来でしかないんだよね。


 だから、君みたいに俺たちに正直に気持ちをぶつけてくれる子なんて、今までいなくてさ。


 友達になってほしいんだよ。」


 

 王子だから、友達ができない…。


 そうか、対等な人がいないのか。家来しかいないのか…。


 なんて可愛そう。


 出世はもう難しいかもだけど、友達くらいにはなってあげてもいいかも…。


 

 私はしぶしぶ、サロンに戻った。


「ディート王子。


 この筆箱のプレゼント、ありがとう。今回は受け取ろう。


 でも、今のままじゃ、あなたと友達になるのは難しいよ。


 わかるよね。」



 しぶしぶだけど、ディートリッヒ王子、アクセル王子、ゲールノートと友達になった。

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