第158話 27.秘密の共有

 夕方になり、月を観察する。


 風の強い日で、雲一つ無く、月がはっきり見える。


「今日はまちがいなくシングルムーンだな。」


 ドミニクさんが声をかけてくれた。


 以前シングルムーンの日に、人間から猫になる瞬間を見られてしまった。


「まだ姿が変わることはベルギウスに言ってないのか。」


「言ってないのです…。


 ベルギウスは夜はぐっすり眠ってしまうので、たぶん大丈夫かとは思っているのですが…。」


 秘密がばれてしまった一方で、分かってくれる人がいるのは、とても心強い。


 私たちはいつもと同じように結界石を地面に置き、焚き火の準備を始めた。


●●●


 今夜は風が強い。


 野営の場所は、風があたらないような崖の麓を選んだ。


 なので、焚き火も消えることなく、私たちを温めてくれている。


 壮太君はぐっすり眠っている。


 私の体は変化し始めた。


 うっ、うぅっ、く…。


「…2回目だけどすごく不思議だな…猫から人に代わる姿は…」


「はぁ、はぁ、痛くはないんですけど、結構苦しんですよ。」


 こんな事もあろうかと、大き目のマントを着てきたの。


 前回、旅の途中で猫から人間に戻った時は、森の中で素っ裸になってしまい、人に見られて精神的な苦痛を味わった。


 18歳の女の子が、人前で裸をさらすなんて、ありえないでしょ?!


 マントはとってもとてもとっても大事。


 これなら人間になってもドミニクさんに裸を見られる事は無い。


 ドミニクさんはクルっとまるまって横になった。


 人間の姿で、土の上で横になると体が痛くなるけど、ドミニクさんにくっついて寝たとき、とても寝心地がよくて暖かかったのを思い出した。


「くるか?そのマントと俺の尻尾で隠せば、万が一ベルギウスが起きてもばれないだろう。」


 それもそうだと思うので、遠慮なく、ドミニクさんの胸の中で眠らせてもらう事にする。


「猫の姿の君はとても愛らしいが、人間の姿の君はとても美しい。」


「そう言ってくれるのはドミニクさんだけです。でも、嬉しい…。」


 ドミニクさんのモフモフ尻尾が暖かくて、いっぱい歩いて疲れていたから、あっという間に眠りについた。


◆◆◆


 ドミニクさんが動いたので、目が覚める。


 寝返りかな。


 自分の手を見ると、肉球ではなく毛のない手だった。


 私の姿はまだ人間のままだった。


 ドミニクさんの顔をみると、歯をむき出しにして怖い顔をしている。


 どうしたんだろう。


 視線の先をみると、雷獣が結界の近くまで来ていた。


 結界があるので、モンスターには私たちの姿も見えないし、匂いすらも分からないはず。


 偶然、モンスターが近くに来てしまう事は今までに何回かあったけど、そのまま何もしなければ、自然と去っていく。


 さすがに近いと少しドキドキするけど、やっぱりちょっと息をのんで潜んでしまう。




 風もまだ収まっておらず、強い風が吹いているようで、少し離れた木は大きく揺れている。


 コロ、コロコロコロ…


 崖の上の方にあった小石が、風で押されて上からからころがってきた。


 その石が…結界石にあたって…倒れてしまった!!!!



 結界が崩れた!!!



 モンスター雷獣にエンカウントした!!!!

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