第126話 39.紫マント

 僕はウーリとウルリヒと、オレンジの調達に精を出し、少し余裕が出てきたら、オレンジの果汁を絞るのを手伝ったり、その日も自分のできることを、みんなが効率よく働けるように、一生懸命働いていた。


 エルフの人たちを心を通わせながら、汗を流しながら、仕事をするのは楽しかった。


 一度だけだったが、握ったと思ったオレンジが、僕の手をすり抜けるかのように落ちたことがあった。


 僕はまさかと自分の手を見た。 

 透明になってはいない。


 解呪の薬を飲んだのだから、大丈夫なはずなんだ。


 気のせいに違いない。



 数日間、僕はエルフたちと必死にオレンジを撒き続けた。


 そろそろ終わりが見えてきたその日、コルネリア王に呼び出された。



 そうだった。


 僕はすぐにでもこの国かから出ていくように言われていたのだった。


 しかしオレンジの調達という大きな役目ができてしまい、出ていくことができなくなってしまった。


 不可抗力とは言え、王様の命令を背いたことになる。


 怒られるだけでは終わらないかもしれないな…。


◆◆◆


 びくつきながらコルネリア城につくと、僕は大広間に案内された。

 

 大理石のような白く冷たい床の上に緑の絨毯がまっすぐに王座に向かって敷かれていた。


 その周りを紫のマントをつけた大臣たちが20人くらい入るだろうか、並んでいた。


 

 僕は大臣の横に並ぶように指示された。


 シーンと静まり返り、誰も口を開かないのに、急に、全員の緊張が張り詰めたと思ったら、コルネリア王と王妃が一緒に王座に現れた。


 僕は名前を呼ばれて、緑のじゅうたんを歩き、王様の前に跪く。


「レオンハルト王国のベルギウスよ。リバーオートなる強大なモンスターを倒し、また我が国に蔓延していた茶色苔の退治し、多大なる功績に感謝する。


 我が国を危機から救った勇者として、ここに栄誉を称える。」


 あぁ、良かった!怒られるどころか、褒められたんだ。


 よくよく考えれば、王女様と恋愛したり、別の王女様は殴ったり、王様の命令は無視したり、今回のコルネリアの滞在では、いろいろやらかしたな。


 まぁ、終わりよければ全てよしだ。

 僕は胸をなでおろした。


 王様は祝辞だけ述べると、すぐに立ち去った。

 

 すると大臣たちが僕の周りに集まり、挨拶やら、お礼の言葉やら、握手などをして帰っていった。



 最後に残ったのは、王妃様だった。


 つまりこの人がティアナかティファニーのお母さんという訳だ。


「はじめまして、ベルギウス。


 あなたの噂はよく聞いているわ。今、専らの話題の人ね。」


 とクスクス笑うその姿は、ティアナにそっくりだった。


「今夜は王宮でおもてなしさせて欲しいの。


 3日間かしら?オレンジ散布で疲れたでしょう?」


「お言葉は嬉しいのですが、僕は一刻も早くコルネリアから出るようにと王様に言われています。


 今まではオレンジを調達するという大事な役目があったので離れられなかったのですが、その役目が終わった今、コルネリアを早めに出ないといけないと思うのですが…。」

 

「あら、ずいぶん鈍いわね。


 ビーバーモンスターやリバーオートも倒して、エンリコも救って、茶色苔も退治したわけでしょ。


 あなたは立派なコルネリアの勇者。


 王様も認めないわけにはいかないわ。


 さっきは、太々しく祝辞だけ上げて去ったけど、恥ずかしくて何も言えないだけなのよ。ウフフ。」


 王妃様はついてくるように言い、歩き始めた。



 僕たちが今いる大広間は、真ん中の塔の一番下だった。


その上の階には、大臣たちが働くための執務部屋などがあり、さらにその上が王妃や王女様の部屋、一番上が王様の部屋と階級が高くなればなるほど、上の階になっている。


 僕が案内されたのは、王女様たちの真下の階あたりだった。

 

 つまり、結構地位の高い人だ。

 おそらく大臣クラス。

 誰がいるのだろう。


「さぁ、ベルギウス、どうぞこの部屋に入って。」


 コルネリア独特の緑の藻でできたふかふかの絨毯。

 部屋の隅には大きな机。


 本棚もあったが、全ては空だった。


 主はいないが、紫のマントだけはかかっていた。

 部屋の主は留守のようだった。


 ここで待てという事なのかな?


 僕がキョトンとしていると、王妃様は紫のマントを手に取り、僕の肩にかけた。


 さすがの僕でも知っている。


 紫のマントは、大臣クラスだけしか纏ってはいけない物なのだ。


「王妃様!おやめください!僕が紫マントなど!」


「フフ、まだ分からないの?


 これは王様からの褒美よ。


 是非、コルネリアで仕事をしてほしいって事。」


 僕が紫マント、大臣級?!


 すると、ドアが勢いよく開き、ティアナが入ってきた。


「ベルギウス!」


 そして僕の首に抱きついた。


「ティアナ、王妃様の前で…。」


「王様が、あなたと会って良いって言うの!」


 僕は女王様とティアナの両方の顔を見た。

 二人の笑顔をみて、僕はやっと実感した。


 そしてティアナを強く抱きしめた。



 あぁ、今まで頑張ってきた甲斐があった。


 これでティアナのそばにいれるし、コルネリアで仕事ができれば、多くの人を助ける事ができる。


 そうだ、フローマーもコルネリアに連れてきて手伝ってもらおう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る