第114話 27.コルネリア城へ
レオンハルト王国の外れにあるマルゲリータ邸へ帰ってきた。
次の日、早速レオンハルト王様に報告に行った。
最低2ヶ月に一度の報告を義務付けられていた。
給料も出てるし、真面目に働いてる事を伝えないといけない場と言うわけだ。
今回は報告する事があって本当に良かった。
ネタがない時はマジで困る。
僕はマルゲリータからもらった呪いの魔術書と、マルゲリータの杖の両方に、ヴァルプルギスと書いてあった事を報告し、ヴァルプルギス村に行こうと思っている事を伝えた。
その報告の内容に何か問題があるのか、今日の王様は疲れているように見えた。
いつもはどこか野獣のような怖さも兼ね備えたオーラを放っているのだが…。
弱っている?そんな雰囲気すら感じる。
王様も人間だし、疲れている時もあるよな…。
「マルゲリータの杖を見せてもらえるか?」
王様はその杖を繁々と観察し、マリアンネの名前を見つけた。
すると、僕の気のせいか、目にうっすらと涙が滲んだように見え、クルッと後ろを向いてしまった。
回転する椅子だったので、座ったまま後ろを向いてしまった。
背もたれで王様の様子は分からない。
マルゲリータが死んだのが、そんなに悲しかったのだろうか。
マルゲリータは参謀だったらしいから、よほど信頼していた部下だったのだろう…。
王様はすぐにこちらを向き、何事もなかったかのように言った。
「ヴァルプルギス村の者が、今もこの魔術を使い続けていると思うか?」
「今のところは全く分かりません。
ただ、ヴァルプルギス村はこの魔術となんらかの関係がある事には間違いないと思います。」
「よくやっているな。ベルギウス。
コルネリア王に謁見しろ。
ヴァルプルギス村は危険な地域にある。
出没するモンスターの情報を収集し、十分な準備をしてから向かうが良い。
ついでに、コルネリアでもこの呪いによる被害を受けていると聞いている。
その状況も把握して欲しい。」
「承知致しました。我王よ。」
コルネリア王か…。
コルネリア王に会うためには、コルネリア城に行かなければならない。
つまり、ティアナの住んでいるところに行くことになる。
正直、もうティアナには会いたくない。
会ったら、また好きだという気持ちに歯止めがかからなくなってしまいそうで、辛くなるのはわかっていたからだ。
分かっている。
ティアナの事は好きになってはいけない。
種族も違えば、身分も違う。
それに、僕はずっと異世界にいるわけじゃない。
今は帰り方が分からないだけだが、僕の生きて行くべき世界は、この世界じゃない。
いつかは現実世界に帰らなければならないのだから。
◆◆◆
次の日、コルネリア王国に向かった。
レオンハルト王国からコルネリア王国は徒歩で数時間ほどなの距離だが、街の様子が全く違う。
コルネリアは緑、緑、緑だ。
蔦と藻の間に人、じゃなくてエルフが住んでいるという感じだ。
家らしき建物はあるが、一瞬廃墟かと思うくらい蔦や藻が家の外側にびっしり生えていた。
道には石が敷いてあり、人が通りやすいように植物が生えないようにしてあったが、ところどころから雑草がちらほら生えていた。
城に近づくほど人通りが増える。
家も平屋建てから2階建が増えてきた。
赤い髪、赤い瞳、とんがり耳のエルフが行き交っている。
人間の国であるレオンハルト王国では、ズボンを履いている人がほとんどだが、ここでは男も女のワンピースの衣を来ている。
僕からすればヒラヒラしていて、邪魔そうに見える。
エルフには戦士や剣士といった職業が少ないからそうなのかもしれない。
コルネリア城は、世界樹と呼ばれる巨大な木の間に建てられていた。
木は100メートルはあるだろうか。
巨大なビルのようだ。
その2本の周りに、いくつかの塔が立っていて、王族の住まいや、大臣たちの執務室、会議室のようなものがあると聞いた事がある。
高い塔なので、3階おきくらいに連結路があり、塔と塔を行ったり来たりできるようになっているようだった。
この城も、他の家と変わらず緑に覆われていた。
雨が降った後なのか、葉についた水が太陽の光を反射してキラキラしていた。
窓から部屋の中で使っているであろうロウソクの灯りもキラキラしていて、城はとても美しく輝いていた。
レオンハルト王の紹介状があったので、すぐにコルネリア王の元へ案内される。
城の内部も緑だらけだ。
床は緑の絨毯かと思ったが、よく見ると草だ。
細かい草が絨毯のように生えている。
所々、虫がいるが、この際見ないふりをするしかない。
でも歩き心地はふわふわしていて心地よい。
可能な事なら裸足で歩きたい。
コルネリア王の執務室に連れて行かれるようなのだが、一つ階段を上がると様子が様変わりした。
緑の絨毯は変わらないが、色とりどりの花が廊下に飾られている。
ちょうど南側にあいた大きな窓から気持ちよく太陽の光が入り込み、花々を照らしていた。
ここが室内である事を忘れさせるような空間だった。
レオンハルト城との違いに圧倒されている間にコルネリア王の部屋にたどり着いた。
ドアを開けると、眩しくて目を閉じた。
部屋のはずなのに、屋根がないかのように太陽の光が降り注いでいる。
天井が透明なんだ!
天井があるらしきところに、木の葉が乗っているので、天井の位置がわかる。
部屋の奥には、室内なのに大きな木が生えていて、枝から豊かな葉が茂り、ちょうどよく日陰を作っていた。
その下に王様の机と椅子があり、真っ赤な髪をしたコルネリア王アクセル16世が涼しそうに座っていた。
「ベルギウスか。よく来た。
ディートから話は聞いているよ。」
ディートと言われて一瞬悩んだが、話の流れ的にレオンハルト王だと思った。
レオンハルト王の名前は、ディートリッヒ3世だから、短くディートと呼んでいるのか。
あだ名で呼び合うほど仲なのだろう。
「初めてお目にかかります。
本日はお会いできて大変光栄に思います。」
僕はコルネリア王の前でひざまづき答えた。
こんな挨拶が自然にできてしまうなんて、この異世界での振る舞いにもかなり慣れたものだ。
自分自身にびっくりだ。
「例の呪いの調査のためヴァルプルギスに行くと聞いている。
ところで、呪いの調査は進んでいるのか?」
僕は呪いの魔術書と、マルゲリータの杖にヴァルプルギスと書いてあったことを王様に話した。
「そうか。レオンハルトでの呪いの被害はどのようなものだ。」
「マルゲリータの資料を全て読んで把握しているわけではないのですが、昨年度は7人ほどの被害があったようです。」
「1年で7人か。」
レオンハルト王は、そういうと立ち上がり、バルコニーの方に歩いた。
僕は黙ってついていった。
建物の構造上、ここに壁があるだろうなという所に、透明な何かがあった。
バルコニーに出る前に、ねっとりと僕の体にまとわりつき、出た瞬間にはすっぽりと抜けた、そんな感じがした。
粘度の高い透明な壁を通り抜けたようだった。
バルコニーに出ると、眼下には中庭が広がっていた。そこで、明らかに庶民とは違う衣を来ているエルフが3人、遊んでいた。
一目で王族とわかった。
「ティアナは知っているね。
あとは我が娘、第2王女のテレジアと、その息子のエンリコだ。」
ティアナは、5歳くらいのエンリコと楽しそうにボール遊びをしていた。
やはりここに来れば、ティアナを避けてることはできないのか。
今日のティアナも太陽の光をいっぱいに浴びて、赤い美しい髪を輝かせながら、満面の笑みで遊んでいる。
遠くから見ても、相変わらず綺麗で可愛い。
そして僕の心の安定を乱す。
僕は目をそらそうと思った。
でも、少し距離があるので、ティアナは僕に気がついてない。
今だけ、君が気づいていない今だけ、少しの間見つめる事を許してほしい。
「やはり孫は可愛くてな。」
王様は、僕をここに連れて来て、いったいなにを見ろというのだろう。
何を話そうとしているのだろうか。
王様は3人を笑顔で見つめている。
僕はまた視線をティアナに戻す。
5歳児でも取れるように、優しくボールを投げてあげる。
そしてエンリコはそのボールをキャッチした…と思ったのだが、ボールは手をすり抜けた。
「王様!まさか!」
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