第79話21.嘘 〜僕は幸せな二人を引き裂いた。〜

 僕の嫌な予感は当たった。


 数日後、ティファニーとシルヴィオがマルゲリータ邸にいないと思ったら、二人で手を繋いで帰ってきたのを見てしまった。


 シルヴィオなんて、いなくなってしまえばいい。



 ティファニーは、シルヴィオの元気な姿を見ると、一旦コルネリア王国に帰らねければならないと言った。


 すぐに帰ってくると言い残して、マルゲリータ邸を去った。


 とうとう自分の口から告白する事は出来なかったけど、僕の手紙が届いているはずだ。


 鳩がちゃんと仕事をしてくれたと信じるしかない。



 僕とシルヴィオは、去っていくティファニーの後ろ姿をずっと眺めていた。


 ティファニーには早く帰ってきてほしいけど、シルヴィオじゃなくて、僕を見てほしい。


 胸の奥が締め付けられるようで、苦しい。



 シルヴィオなんていなくなってしまえばいいのに。


 現実世界に行って、帰って来なければいいのに。



 ティファニーの後ろ姿を見ながら、突然シルヴィオが聞いてきた。


「そういえば、お香が少なくなってきたんだ。お香ってどうやって手に入れたらいいんだ?」


 お香がなくなってきただって?


 もしや、現実世界に戻れなくなるほど呪われているのか?



 こいつが異世界に居続けるなんて、想像するだけで嫌だった。


「後何本くらいですか?」


「んー20本はないと思うけど。」


「現実世界での体調はいかがです?」


「まぁ気のせいか少しだるいけど、なんて事ない。


 大丈夫だが、現実世界の体調が何か関係あるのか?」



 残り20本で、少しだるいはずがなかった。


 だるくてたまらないはずだ。



 シルビィオは、お香は間隔をあけて使っているとか言っていた。



 僕やアガサのように連続で使わなければ…


 マルゲリータのアドバイス通り、一週間に一度くらいなら…、


 上手に付き合える代物なのかもしれない。



 お香の入手の仕方。


 僕は知っている。



 マルゲリータが隠していた魔術書に作り方が書いてあった。


 僕の魔力があれば十分に作れる物だった。



 シルヴィオなら、お香を渡しても、ちゃんとコントロールして、現実世界と異世界の両方で上手に生きていけそうだ。


 でも、そんな事したら、ティファニーと末永く幸せに暮らしそうだ。


 それだけは、絶対に耐えられない…。


「あのお香は、まだマルゲリータ様も解明していない黒魔術の一種なんです。簡単に言うと、呪いのようなものなんです。


 僕はマルゲリータ様の忠告を破って、お香を使いすぎたため、もう現実世界に戻れなくなってしまったのです。


 僕は時々、目が覚めて現実世界に戻るのですが、病院のベッドにいて、おそらく寝たきりの状態なのです。


 現実世界で目が覚めているのは、1秒くらいでしょうか。


 すぐにこちらに引き戻されてしまうのです。


 残りが20本程度ということは、これ以上はシルヴィオ様も危ないかもしれません。


 もうこちらの世界には来ない方が良いと思います。」


 僕は、嘘をついた。


 お香は作れるけど、知らないふりをした。


 そして、こちらの世界に来るなと言った。


 ティファニーに二度と会わないでほしい。

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