第64話06. 消えたアガサ 〜行かないでくれ。可愛いアガサ。お前はそれで幸せだったのか〜

「ごめんね。お兄ちゃん。」


 アガサの姿が霞がかったように薄くなっていた。


 体の実体が無くなってきている!


「アガサ!どうしたんだ!?」


「お香を何度もつかったな!アガサ!」


「うん。だって、現実世界で起きていれば、パパとママに殴れるだけなんだもん。


 マルゲリータ様とお兄ちゃんとフローマーと一緒にいるのが幸せだったの。」


「体がかなり透けてしまっている!よくない状態だ!」


 マルゲリータはそう言うと走り出した。


「フローマー!アガサをちゃんと見張っているんだ!」


「ニャー!」


 走りながらアガサに向かって叫んだ。


「アガサ、今から急いで解呪の薬を作る!いいかい。頑張るんだ!まだ頑張るんだよ!」



 マルゲリータは自分の部屋に向かっていた。


 あのおばさんが、こんなにも素早く動けるのかと驚くほどの速さだ。


 僕も何か手助けできるのではと、あとを追った。



 マルゲリータは黒魔術の棚を横から思いっきり押した。


 すると、棚全体が横にスライドし、後ろに小さい本棚が現れた。



 そこには本が一冊だけ置いてあり、明らかに、僕からその本を隠していた。


 その本を急いで取り出し、ページをめくった。


「ベルギウス、薬草庫からアルゲンの藻と、バゼットの実と、猫の髭と、マンダラの根を持って来ておくれ!はやく!!!!」


 僕は僕が出せる最速の速さで倉庫まで走り、マルゲリータに指示された薬草瓶を探し出し、マルゲリータの部屋まで猛ダッシュで戻った。


 マルゲリータはなんらかの液体を煮込み沸騰させ、台の上には必要な道具を全て並べて準備していた。


 僕から材料を受け取りと、ものすごい速さで実をすりつぶしたり、根を包丁で刻んだりした。


 そして全てを混ぜ合わせ、沸騰した液体をほんの少しだけ入れて練りこみ、錠剤のような薬を作った。


「ニャーニャー!」


 フローマーの悲痛な声が聞こえて来た。


 アガサがの状態が良くないと、知らせている。



 マルゲリータと僕はアガサの元に走った。


「アガサ!解呪の薬を持ってきた。いいかい!これを現実世界で必ず飲むんだ!」



 アガサの体は向こうが見えるくらい薄くなっていた。


 今にも本当に消えそうだった。


 アガサはマルゲリータの手から薬をつかもうとした。


 でも、もう体はほとんど無くなっていて、薬をつかむ事が出来なかった。



 マルゲリータは必死に薬を作ったのだが、間に合わなかったのだ。


「マルゲリータ様。今まで本当にありがとうございました。」


「ごめんよ。助けてあげられなくて。ごめんよアガサ…」


 マルゲリータはその場にうずくまり、涙を流していた。


 アガサを抱きしめたいのに抱きしめられない…。


「いいえ。マルゲリータ様。私、マルゲリータ様に会えて本当に幸せでした。


 次に生まれるときは、マルゲリータ様の子供に生まれたい。」


 もうほとんど消え入りそうになったとき、アガサは僕の方を向いた。


 てっきり泣いているのかと思ったが、アガサは、今で見た事ないくらい幸せそうな顔をしていた。


 そして満面の笑みで僕に言った。


「お兄ちゃん。いっぱい遊んでくれてありがとう。大好きだよ。」


「アガサ!待て!行くな!アガサ!」


 ついさっき、一緒に、バカ話をしながら、大爆笑しながら楽しく夕飯を食べたばかりなのに。


アガサはプツンと消えた。




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