第13話 デート


 食事、特に酒は不思議なもので、人と人の距離を縮めるものだと思った。


 エルフ達は、最初は人獣達を怖がっているようだったが、どんな失礼なことをいっても、大爆笑でかわしてしまう人獣達に、心を許し始めていた。


 俺は特に人獣のリーダー的役割を果たしている、副隊長のアドルノと話をした。


 会社でいうと、工場長と言った感じだろうか。


 実直で、心が広く、そして何より、ほかの人獣達から、とても尊敬されている事が伝わって来た。


 俺よりもアドルノの方が隊長に向いているのではと思ったくらいだ。


 俺もレオンハルト王国では、かなり知名度を上げた。


 でもそれは、正直母の七光りある事は分かっている。


 それからベルギウスのサポートもかなり大きい。


 そんな俺と違って、アドルノは実力だけで有名なったに違いない。



 食事時、アドルノだけでなく、俺はいろんな人と話すようにした。



 俺のような戦士タイプは一番人数が多く、俺が親の七光りだけで隊長になったことを、妬ましく思っている奴もいるようだった。


 それでも、勇気をもって話してみると打ち解けて、互いの溝が埋まったような感じもする。


 ツークシュ山まで3日もかかるが、その3日間はお互いを知るための大切な時間だと思った。



 メンバーのことを知ることも大事だが、俺はティファニーと話す機会を狙っていた。


 ベルギウスは後方支援型という共通点を使って、戦略の打ち合わせをしているのか、ティファニーとよく一緒にいて、すごく羨ましい。



 ある日、休憩時間中にティファニーが少し部隊から離れたのが見えた。


 時間以内に戻ってくれば、基本どこに行っても良いわけだが、俺は追いかけた。


「ティファニー!」


 聞こえているはずなのに、ティファニーは振り向かなかった。


 おかしいと思い、肩を掴みこちらを振り向かせると、ティファニーの大きな目から、真っ赤な液体がこぼれ落ちた。


 一瞬、出血しているのかと思い、度肝を抜かれたが、血よりは色が薄く、すぐにこれがエルフの涙だとわかった。



 泣いている女の子を慰めたことなんて、俺の人生にはあるわけがなかった。


 こんな時、なんと声をかけて良いかわからない。



 でも、そんな涙さえも、俺は美しいと思ってしまった。


 頬に手をあて、親指でティファニーの涙を拭った。


 とても柔らかい頬は、風に当たり続けたせいで、冷たくなっていた。



 どうして泣いているのか、何があったのか、聞ければ良いのに、声が出ない自分が情けない。


 ティファニーはじっと俺のことを見つめていた。

 胸の奥底がじんわりする。


 ふと唇を見てしまった。

 キスできる距離にいる事に気がつき、動揺して手を離してしまった。


「びっくりさせてごめなんさい。私、最近失恋しちゃって。」


 こんなキレイな人でも失恋するんだと、俺は驚いた。


 なんとか慰める方法はないかと、あたりを見渡すと、すぐそばに黄色い花が群生してる場所があった。


「気分転換に、あっちの方に行ってみないか。」


 女の人は花が好きはなはずだから、そばに行こうと、短絡的だけどそう思った。



 花畑のそばに二人で腰をかけた。


 ティファニーはキレイだと、喜んでいた。


 少しでも気分転換になってくれればと思う。


 黄色い花達は言葉を喋る花達だった。

 小さい声でか細く話しかけてくる。


「どうしてここに来たのー?」

「お姉さんキレイー。」


「ふふ。ありがとう。とても嬉しい。」


「お姉さん達付き合ってるのー?」


「えっと、そういうわけじゃないの。」


「ここでよく、カップルがチューしていくよー。お姉さん達はしないのー?」


「ちゅ、ちゅー?。し、しないよ。私が悲しんでたから、この人は慰めてくれてるだけなの。」


 たかが小さい花々相手に動揺しているティファニーが可愛くて、俺は声を上げて笑った。


 そういえば、俺って最後に笑ったのはいつだったけ。


 そんな俺を見て、ティファニーもつられて笑った。


「ちゅーしないのー?しないのー?」


 と黄色い花達に促されて、ティファニーはふざけて


「じゃぁ、あなたにしてあげる。」と、黄色い花にキスをした。


「お兄さんのポッケに何か入っているー。」

「なんかポッケから見えてるー。」


「お、お前らなんでもお見通しなんだな。」


 俺は動揺した。


 でも、黄色い花のお陰で、逆にチャンスをもらったと思おう。


「これ、偶然見つけたんだけど、君に似合いそうだと思って買ったんだ。」


 よく行く鍛冶屋の隣に、女性用の防具店があり、偶然目に付いたネックレスだった。


 真紅の宝石がついたそのネックレスを見た瞬間に、ティファニーの瞳を思い出した。


 ティファニーはすごく喜んでくれた。


「こんな素敵なプレゼント、男の人からもらうの始めて!すごく嬉しい。」


 ティファニーが元気になってくれたようで、ティファニーの笑顔がみれて、俺も嬉しくなった。


 俺は、ティファニーの横に座り、勇気を出して肩に手を置いた。


 ティファニーは嫌そうにはしていなかったと思う。


 集合時間ギリギリまでその場にいた。


 黄色い花達がいろいろ話しかけてくれたおかげで、話に困る事なく、泣いていたティファニーも笑顔に変わり、すごく幸せな時間だった。


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