第7話 突然の復帰


 目が覚めた。


 昭和の雰囲気が残る小さい家の天井だった。

 何年も見続けた見慣れた光景だった。


 すごく久しぶりに実家に帰って来たような気がする。


 ベルギウスやフローマーと過ごしたあの日々は夢だったのだろうか。


 ティファニーの笑顔が思い浮かぶ。


 あんな美人と食卓を共にするなんて二度と出来ないだろう。


 時間を見ると朝の7時だった。

 会社に行かなくては。


 今日も村田ハゲ課長は相変わらずのパワハラだった。

 しかし今日のターゲットは風祭だった。


 ざまみろ。


 俺は助け舟を出すわけでもなく、自分の仕事に集中する事にする。


 でないと次は俺がハゲのターゲットにされてしまう。


 席に風祭が帰ってくるとすぐに小鳥遊たかなしさんが小声で話しかけた。



「村田課長、機嫌悪そうだね。大丈夫?」


「ま、いつもの事だよ。悔しいけど、俺のミスはミスだから。


 それよりさ、今晩、飯でも行かね?愚痴でも聞いてくれよ。」


「うん!いいよ!いつもの所で待ってるね!」



 すみません。席が近いので、全て聞こえてますけどー涙


 なんだ二人でデートってやつか?


 いつもの所で待ってるって、いつも二人で会ってるのか?!


 かーざーまーつーりーっ!!!!!


 なんて手の早いやつ。許せんっ。


 許せんと思うだけで、現実世界の俺は何もできない。

 できるのは僻むことだけだ。


 仕方ない。

 男としてのレベルでは、風祭に勝てる要素が一つも見当たらない。


 小鳥遊さんが隣の席に来たけど、俺には全く影響はない。

 まるでいつもと変わらない日々だ。


 だけど、ひとつだけ不可解な事があった。

 小鳥遊さんが声をかけて来たのだ。


「あのー、鈴木さん?」


 不思議そうに俺の目を覗き込んで来た。


「あ、いえ、なんでもないんです。すみません。」


 あれはいったいなんだったのだろう。

 若い子の考える事はよく分からない。



 俺はいつもの通り、帰宅した。


 小鳥遊さんは風祭といまごろイチャイチャしているんだろうか。



 この現実世界になにか良い事があるんだろうか。


 何もない。


 異世界の方がまだ俺に可能性があるんじゃないか。


 ティファニーの顔がちらついた。


 またお香をつけたら異世界に帰れるのだろうか。


 俺は母の部屋で、お香の束から一本を取り出し、また火をつけた。


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