第39話 キャロライン グラバー
※英語はあとから付け足しします
1864~1866年頃,長州には武器がなかった。
同時に薩摩には飢饉で米がない。
亀山社中は金は無いが、コネはあった。
そして、パーカーと商会には資本があった。
(グラバー商会は、ボッタクリじゃし、薩摩からいくつか銃を分けてもらえんろぉか)
亀山社中が商いしている銃は、グラバー商会から買った最新型。しかし雪代屋が取り扱いしている銃は、グラバー商会のものよりも品質がいいらしいと聞く。
長州曰く、何発撃っても的から外れることがないと言う。
通常、集弾率は、弾数が増えると、減る(外れる)傾向にあるはずだったが、性能で補うというのは、かなりの製鉄の技術があるということの証左かもしれない。
もちろん、龍女は実物を見て取引を決めるつもりでいる。
才谷屋で商売はわかっている。先物買いなど大分博打だということは解った上で、それでも、龍女は買うつもりだった。
2
キャロライン グラバーは、後世の文献では、トーマス グラバーと記されている。
彼女がなぜトーマスを名乗ったのかは不明だが、商売は旨かったのだろう。
売れる理由はある。どこの藩も銃はほしい。
それも、性能が良いものが、大量に。
結果として、グラバーが男性偽装をしなくとも銃はあっという間に売れていった。
イギリス製の銃を売るグラバーと、イギリスからの別ルートで新型銃を売る鉄之助たち。日本というマーケットにいる時点でいづれぶつかるのは分かっていた。
「今日も、売れ行きは順調かしら」
キャロライン・グラバーは長崎の自室で帳簿を眺めていた。
(……?……先々月くらいから、売れ行きが鈍いわね……)
売り上げが伸び悩んでいるのをキャロライン・グラバーは見つけた。
(マーケットの需要はまだあるし、買い手が鈍っているのは謎だわ)
キャロラインは一旦は悩んだが、すぐに頭を切り替えた。
(まずは、マーケットの動向と不安要素の洗いだしよね)
数ヶ月前にはない要素が売り上げを妨げる要因かも知れないと彼女は考えた。
3
「グラバーは女子じゃ」
「まことで?」
茶室のなか、坂本龍女は答えた。
お玉が念を押す。
「嘘じゃないきに。こん目で見た。金髪の異人じゃ」
茶会で聞いた情報ではグラバーは女だという。
男が少なくなっている変な世界なのだ。グラバーが女でも、鉄之助は仕方ないと割りきる事ができた。
しかし、他の4人の意見は違っていた。
特にパーカーは茶会が終わって鉄之助に疑問を提示して見せた。
「なぜ男の振りをする必要があったのかね?」
「身分を偽る必要があったんじゃないの?」
「そこが引っ掛かるのだ。男を演じる利点……宣伝目的かね?」
「宣伝は大事だよな」
「そうヨネ。男だもの。男が取り扱ったかもしれないというだけで話題になるわ」
「雪代屋万兵衛の利用理由も同じですよ。誰でも考えつくのでは?」
鉄之助はまだ疑っていた。
「思いつく事は可能だろうねぇ……でもさぁ、男を手配出来るかは難しいねぇ」
「まずは、経営ができねぇとならねぇ。地頭の良さもいる。そんだけの要件を満たすのは無茶ってもんだ。それなら」
「そうさ。自分で男を詐称して、演じる方が速いし、恐らく金も掛からんわな」
美星が言った。
(なるほど、そう言うロジックか……やっぱり異世界にいるんだな。頭ではわかったつもりだったが、まだ慣れないな)
鉄之助はここで、まだ自分の考えが甘いのだと考え直した。
認識が甘かったというだけで、計画には少しもブレがない。
リスクが顕在化しただけだと鉄之助は考えを改めた。
幾日かあと鉄之助は新たにパーカーと打ち合わせを行っていた。
「グラバーは強豪他社に過ぎません。なら、相手の内情を探り、弱味をつきましょう」
「そうだな。まずはどこから銃を仕入れているのか。そして、その銃を解析。必要があれば、販路を乗っ取るぞ」
パーカーが静かに道を示した。
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