第34話 大量発注

高杉晋子は魔王である。

イギリス人通訳アーネスト・サトウは

連合軍の旗艦ユーリアラス号に乗り込んできた高杉をそう評した。


イギリスのキューパー司令官との談判に臨んだ高杉は、終始傲然とした姿勢を崩さなかった。


そんな高杉晋子も人の子。

食事も睡眠も疲れもある。

フィジカル面でいえば、ひ弱な部類かもしれない。

しかし頭は冴えている。

相手の嫌がることにかけてはすぐに思いつき、実行することが出来る。

彼女はそんな女なのだ。


「薩摩に銃の売り込みがきたらしいじゃない」

高杉晋子は藩邸の応接間で、部下の一人と向き合っていた。

部下は間諜の一人で、目立たぬ背格好でどこにでもいそうな中年の女性だった。

「はい」

「薩摩は買ったのかしら?」

「いえ。どうも追い返したらしいですが」

「へぇ。買わなかったんだぁ…」


(どういう事かしらね?売り手が下手だったのか…薩摩が強情を張ったのかしら)


「…売り手はどこの店かは分かってる?」

「はい。京都の雪代屋です」

「確か、この間試しで買ったハズよね?」

「ええ。3丁ほどですが」

「試し撃ちはしたことなかったわね。試しで撃ってみようじゃない 面白そうだわ」


高杉晋子は、長州藩邸の庭で的を立てて、それも死体に鎧を着せたものを使用して、銃の貫通力がどれほどなのかをみる頃にした。


「面白いわ」


すでに何発か売ったあとにもかかわらず、命中制度は変わらない。

後込式の銃はいまだに触ったことがなく晋子の興味をひいた。


「薩摩に嫌がらせで先に軍備を整えとくのも悪くないわ」


晋子はニタニタと笑う。

その顔は傍目からは魔王に見えなくもない。そんなひどい笑いだった


2


長州藩邸から、雪代屋へ正式に350丁の注文が届いたのは、噂をながしはじめて3ヶ月後だった

「大量注文だってね」

「ええ。まずは成功でしょう」


1両=現在の貨幣価値で13万円。

銃1丁の値段35両であるから、

粗利は約12250両。


ここから経費(輸送費、調達費、人件費、その他等)を抜いても約5、000両は儲けられる見込みで、現在の貨幣価値で換算すれば約6500万円ほどとなる。

難点と言えば、経費が高いこと。

「輸送費が高くつくねぇ」

「エゲレスからだからなぁ。油、船、食費、水夫の雇い賃……いろいろかかるぜ」

「これを他藩、幕府にも売り付ければ、3倍の売り上げは行けるでしょうね」

「ミブロにも、お上にも、維新バカにも売るわけか……」

「ある程度儲かったら、儲けはパーカーさんは6割、4割は僕らの手に入ります」

「 My profit is also a calculation that is discounted by 2 from that( わしの儲けも、そこから2割り引かれる計算じゃがな)」

「It's something like a payment for an inquiry or a margin. (商会への上納金とか、マージンってやつですね)」

「 Well it can't be helped (まぁ仕方あるまい)」

三倍の儲けとして、うまくいけば全体で1億9500万円。

そのうち40%( 約7800万 )が、日本側の取り分で、さらにそれを鉄、お珠、みほし、ロザリーで4等分。

1千950万円が一人頭の金額だ。


(まずは350丁を確実に長州に納入だな)


鉄も、ほかの仲間もまずはこのビッグビジネスを成功させて、生き残らなければならない。

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