第11話 勝海舟という女

1791年(寛政3年)、風紀の乱れを危惧した幕府は、 寛政の改革の中で混浴を禁止する旨の条例を制定した。


混浴が禁止されると、銭湯経営者は一日おきに男性の日、女性の日と分けて入浴させるようになったが、それでは客が少なくなるため、湯船の上に板をはり、男女別々にして営業するようになった。


一応仕切りがあるため男湯、女湯の区別はあるが、区切られているのは湯の上だけ。浴槽内には仕切りがないため、のぞくのは簡単。しかし覗く者はいない。

覗けば社会的な制裁が待っていると、皆知っているからだ。

しかし、それでも、板一枚隔てた向こうから聞こえてくる男たちの入浴音は女たちにとって癒しの一時でもあった。


「ふぃー。一仕事終えた後の湯屋はたまんねぇなぁ」

「ああ、まったくさ。しかも隣にゃ、鉄さんがいるとくりゃ、なんかこうソソルもんがあるよな」

湯船に肩まで使って美星が呟いた。

「パーカーの爺様もくりゃあいいのになぁ」

それに対して、茶化したのはお珠だった。

「無茶言うなぃ。あの爺様はこんなとこにこれねぇさ。今頃は自分の家の専用の風呂だよ」

桶町の近くにある銭湯で、鉄の護衛を務めたふたりは休憩をとることにした。

パーカー氏は自分の家にある専用風呂で良いと言ったため、鉄とお珠、美星の3人でここにいた。

「ご改革さえなけりゃぁなぁ…鉄さんの体を見れんのになぁ」

「まったくじゃきに。こん板が…こん板がなけりゃぁのう」

お珠が言った言葉に、湯気の向こうから土佐訛りが返って来た。

「ん?」

湯気の向こうを見ると、浴槽に寄りかかったままの坂本龍女がいた。大きな胸が湯船に浮かんでいる。

「よ。またあったが。おんしら」

「出たな。土佐訛り」

「おい。知り合いか?」

「この間話した、痴女よ」

「痴女じゃないがじゃき。龍女。坂本龍女じゃ」

「名前なんかどうでもいいんでぃ。てめぇ又、着けて来やがったのか?」

「先に入ったのはワシじゃき。おんしらがあとからきたがじゃ」

龍女はフフンと笑って見せた。そして

「おおーい。男湯にいる、この間の旦那ぁ!聞こえちゅうか?」

大きな声で、男湯に呼びかけて見せた。



「おおーい。男湯にいる、この間の旦那ぁ!聞こえちゅうか?」

「ひっ!」

声を聴いた鉄と隣の男が背中に寒気を感じて、一瞬びくついた。

声はまだ続く。

「わしじゃぁ。龍女じゃ。おるんじゃろ?あとで話があるがじゃぁ。ちくと時間を――――」

「ばっかやろう!入浴中の男に声なんてかけやがって!このすっとこどっこいが!」

「何がいかんがじゃ!」

「風呂は古今東西、静かにへぇるもんなんだ!母ちゃんに教わんなかったか!」

「ワシは乙女姉ちゃんにそんなこと言われたこと無いがじゃ。離しとうせ!」

ぎゃいのぎゃいの。

隣から聞こえてくるやかましい声に鉄はあえて無言を押し通すことにした。



「で――――話ってのはなんですか?」

はぁとため息をついて茶屋の二階にで向かい合わせに座った坂本龍女と鉄之助。そして鉄之助の両隣りにはガードマンの様にお珠と美星がすわっていた。

「そうでぃ。とっとと話しやがれ」

美星がすごんでみせた。

「おんしに聞きたい。日の本は開国するべきか?それとも敵を追い払うのどちらとと考えちゅうがか?」

(随分突っ込んだ事を聞いてくるな)

この年、龍女は千葉重と共に開国論者の海舟を斬るために訪れた年でもある。しかし

勝から、世界情勢と海軍の必要性を説かれた龍女が大いに感服して勝の弟子になっていた。

「まぁ、そうですね。日本は海軍を強化する必要があるとはおもいます。でも、すぐに開国に踏み切るべきじゃない。ぼくはそう思いますよ」

「では攘夷派かや?」

「いいえ。それも違います。分かりやすく言えばゆっくり開国派ですよ。いいですか?日本とアメリカ、イギリス、西欧諸国はあまりにも日本とくらべて力に差がありすぎます。まずは志那に手を出しているイギリスとロシアに負けない地力を付けなけばならない。これには早くて10年くらいは居るかと思いますよ」

(勝先生もおんなじようなことをいっちょったが。そんなに西欧諸国と力の差があるがか?)

「鉄さん、何の話をしてんだい?」

「ああ、お二人にも分かる様に言うと、浦賀に来た黒船。あれはアメリカというとてつもないデカい国からの使者で、ほかにもイギリス、ロシア、ほかの国が志那を経由して日本を狙ってる状態にあるってことです。でも、問題がありましてね。残念ながら日本はほかの国よりはるかに国の力の差がありすぎて喧嘩をしたら負けてしまうんです」

「そんなこと」

「あるわけがない?ですか?ですがね。でも、実際はそうなんです。国土の広さ、人の多さ、資源の豊富さ、考えの多様さ、どれをとっても今は負けています。ですが、この国には民衆のちからがある。

僕の持論ですが、日本は外貨を稼ぎ、互いの国と喧嘩をせずに、国力を伸ばすべきだ。と思います」

「そん通りだ。全く踊れえたね。男なのにしっかりした考え。その考えあたしゃ好きだぜ」

隣の席に座っていた武家風の侍がつぶやいた。

「おおっと、イケねえ。オイラは勝、勝海舟てもんだ。あんたの考えはオイラと全く一緒だ。びっくりしたよ」

その侍こそ、海軍奉行、勝海舟であったのだ。


4


「家に来ねえか?」

勝海舟の第一声の江戸弁は、一概に行ってしまえば、はすっぱな感じの女性だと鉄は感じた。

潔い、物事に頓着があまりない。しかし、一本芯が通っていて、さらりとした感じのこの時代には珍しいタイプの女性だと感じる。

髪は短く、ボブな程度、現代で言えば出来るキャリアウーマンにも見えた。

「?」

鉄は一瞬理解ができずにいると

「家に来て、色々お話できたら嬉しい。あんたの意見を是非聞きたいねぇ」

「まぁ行ってもいいですけど、もう一度名乗ってもらっても?」

ここで勝は驚いたように目を開いた。

(フレメンス効果みたい)

その光景に鉄はそんなことを考えていた。

ちなみにフレメンス効果とは猫が驚いた顔をする動作の事を言う。

逆に勝は、龍女に考えを仕込んだことをバレやしないかと後悔していた。

(てぇへんだぁ…男があたしを邪険にしないヨ。なんてぇこった)

「あっ…あたしゃ勝海舟。幕府の海軍奉行さ」

「役人かい。鉄さんをしょっぴこうってのか」

「チゲえよ。あたしの家でお茶でも飲まねえかいってことさ。他意はねぇよ」

「てやんでぃ。役人のところで茶なんか飲んだら、難癖つけられんのが落ちさ。鉄さん出よう」

美星は席を立とうとした。しかし

「良いですよ。しかし条件が有ります。それを飲んでもらえるなら」

「へ?」

「美星さんとお珠さん、それにあと一人僕のクライアントを同行させて下さい」

「クライ?」

「クライアント、お客様の事です。外国人居留地にいるパーカーと言うイギリス人です」

「エゲレスかぁ。てことはアンタやっぱり外の言葉が分かるんだね?」

海舟が嗤った気がした。

「ええ。言葉は武器ですからね。特にこのご時世では」

「わかった。場所については、またここに来てくれ。」

そういうことになり、いったんその場は解散になった。


4


「Naval magistrate(海軍奉行か)」

「yes」

「it will be OK. but I wary about participants which only 2 people. And I recommend you should add 1 parson who is rosary. (行っても構わんが、この二人だけでは心配だ。そうだなロザリーを同行させてはどうかな)」

「it might go chaos.( 場が乱れそうですね)」

「And I will lend the guns for yours but you shouldn't arm a sword. (3人にはワシから銃を貸し与える。帯刀は無しだ)」

「I doubt they can't use the gun(二人には銃の扱いは無理では?)」

「the gun easy to handle than sword and I will ask her that with regards to how to use the gun (扱いは刀よりよほど楽だ。取り扱いはロザリーに頼んでおくよ)」

「I got it(わかりました)」



「I will go that definitely(いくわ。絶対にいくわ)」

ミスタ、パーカーからの手紙を読んだロザリーは目をぎらつかせていった。

「why ?なんで、そんな乗り気なんですか」

「due to protect you. and I never slender from them (あなたを守る為よ。あの二人には負けられないわ)」

(これ以上、彼の周りに女は要らない。いきなりお茶に誘うような手の速い奴は特によ)

「could you teach that how to use the gun for them?(お珠さんと美星さんに銃の使い方を教えられます?)」

「I handle it.And I can be able to complete by in five days (任せて。5日で仕上げてあげる)」

「but if you going to get strong competition form them(反抗されるかもしれませんよ?)」

「my purpose is protect to you and Mr. Parker. it will be exciting ( 大丈夫よ。目的はあなたとパーカーさんを守ること。興奮する)」



5


吉原のロザリーの工房内には試射用の的があり、数日前から、工房は緊急の休業をして、内部で、美星とお珠が銃の教練を受けて居た。

「NO NO You need to open the safety 1st.(チガウ チガウ。最初にセーフティーを外す!)」

「あん? あんだって?」

「セイフティー ハズス!」

「あいよ。コイツだろ。よいせ」

ぱちりとセイフティーが外される。

「and than next, the gun muzzle aiming to target(銃を的へ向ける)」

「はぁ?」

「的に向けル!」

「おうよ!」

目の前で行われる銃の使い方講座は鉄の目から見ても厳しいものだった。

「なんていうか悪意が見えそうな気が……」

対応が刺々しい。

「Isn’t it too harsh?(厳しすぎやしませんか?)」

「I won't be able to cry or laugh(泣いたり笑ったりできなくしてやるわ)」

(アンタはハートマンか何かかよ)

鉄はそう思ったが言わないで置く事にした。


それから一週間ほどたって、ようやくロザリーの教練は終わりとなり、その結果、

「Ready…」

「fire!」

ダダン!

ほぼ同時にお珠と美星の銃口から玉が吐き出され的を射抜く。

「あたしの方が速かったね!」

「てやんでぃ!中心からすれてるじゃねぇか」

二人の女ガンマンが二人誕生する事になった。

速さではみ星。正確さではお珠が上である。

「ストップ」

「今からアンタラはウジ虫を卒業して、一人前のガン使いよ。でも、忘れないで。あたし達の仕事は何かしら?レディース?」

「好きな男を守る事!」

「敵に対しては?」

「殺す!」

「よし!合格よ!」

彼女らの眼光はより一層鋭い。

それを見て、

「ああ、なんてこった…」

鉄は頭を抱えていた。

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