駆け引きと甘い蜜
カゲトモ
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静かな店内に至福のため息が零れた。
「はぁ、やっぱり花菱君の作るカクテルは美味いなぁ」
「お褒めに与り光栄です」
文字通り静かな店内。席に座っているのはたった一人。そう、仕事初めは大体いつもこんな感じだ。
だってまだ仕事初めじゃないビジネスマンも多かったりするし、住宅街の人が新年早々飲みに来るってこともあまりないから。それにまだ店を開けていない所も商店街には多いし。
まぁ俺としても、仕事初めで超満員だったら嬉しいやら忙しいやらだし、これくらいスロースタートの方が良い気もする。
売り上げの心配は明日から本気出す。なんて。
「この辺のバーで一番の腕じゃないかな」
「ふふ、お上手ですね」
「本心からの言葉だよ。僕の言葉は信じてもらえないかな?」
と余裕たっぷりに微笑むのは、商店街で靴屋を営む相葉さんだ。この人はこの辺で有名なゲーマー。
「相葉さんは隠すのが上手いですから」
「おや、人聞きが悪いね」
「いい意味で、ですよ。プレイヤーの鑑、ですから」
ゲームと言ってもポーカーやブラックジャックと言ったトランプゲームだ。
商店街の集まりなんかでよくみんなでゲームをするのだが、この人はとにかく強い。ポーカーフェイスもさることながら、どんなカードを持っているのか、少しも表情に出さないのだ。
だからそう言ったカジノゲームだけでなく、ババヌキとか大富豪とか、トランプゲームはなんでも強いのだ。パチンコやスロットはからっきしダメって言ってたけど。
「嬉しいねぇ。かれこれトランプゲームにはまって四十年以上経つからね」
「そんなに長いのですね」
「まぁね、酒を覚える前にブラックジャックのルールを覚えたよ」
そう言って傾けたグラスの中身は“ブラックジャック”だ。相葉さんはいつもそれを頼む。ゲームも酒も、美味しくて好きなのだとか。
「花菱君、少し付き合ってよ」
店内はジャズが心持大きく聞こえるくらいに静かだ。もちろん、付き合いますとも。
「家では誰も相手にしてくれなくてね」
「お強いですから。負けるのはみんな、嫌でしょう?」
「楽しませてくれよ?」
「努力します」
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