1分で読める短編集。

虚蟬

或る歌手の咄

ああ……

暇だなぁ………。

セミ鳴く夏の午後3時

冷房完備の涼しい楽屋に俺はいた。

今日の休憩はこれだけだ。

午前はライブがあり後1時間後には雑誌に載せるためのインタビューを受けることになっている。そのあとは新曲の練習。休む暇もなく仕事、仕事、仕事だ。

可笑しい話だ。

俺はこうなることを望んでこの職についたはずなのに。

気づけばどの仕事にも嫌気がさしてる。

歌って

踊って

笑顔見せて。

たくさんの人の前で演技をすることに俺は憧れていたのだ。

でも今俺が感じているのはあの頃の憧憬とは違う。

もう俺は売れっ子になってしまったので引き返すことができない。

大学にも行ってない。

やめても俺に他に職はないのだ。

コンコン

部屋のドアがノックされた。

「そろそろ〇〇の方が到着されます。ご準備を。」

マネージャーの乾いた声。

ふぅと一つため息をつくと俺は準備をする。

今からまた人を騙す。

とびっきりの笑顔でインタビューを受けよう。

もう、慣れっこだ。

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