悪魔のキスは復讐の味

奏 舞音

プロローグ

 レミーア暦九九九年、四月四日。

 ブロッキア王国処刑場にて、女王クリスティアンの処刑が執り行われようとしていた。

 彼女の罪状は、国王暗殺と敵国との内通。

 心優しい女王に期待し、胸を躍らせていた国民たちは皆、女王処刑の報を聞いて絶望に沈んだ。

 春の陽光を遮るように振り上げられた、黒く重い大きな斧。処刑人は、罪人の首を落とすことには慣れているはずなのに、同情の心は捨てていたはずなのに、躊躇っていた。こんなにも若く、かわいらしい無垢な少女の命を何故奪わなければならないのか。

 しかし、少女はただの少女ではなく、女王だった。たった四日間の在位期間ではあったが、確かにこの国の女王であった。

 齢十六の女王は、目前に迫った死に恐怖するでなく、毅然とした態度で真っ直ぐ前を見据えていた。その瞳には、暗く血生臭い処刑場には不釣合な若い女性が映っていた。きらきらと輝く宝石で自らを飾り立て、その真っ赤な唇にはきれいな笑みが浮かんでいる。

「私は、お姉様にされたことを忘れません。絶対に許さない。お姉様は、私が地獄に落とします」

 クリスティアンの声は震えていた。それは恐怖からではなく、小さな身体の内に抑えきれないほどの強い憎悪のためだった。

「ふふふ、そんなに睨んでも、あなたの人生はもうおしまいよ、クリスティアン」

 クリスティアン女王の腹違いの姉、シュリーロッドは笑いながら処刑人に首を刎ねるよう命じた。

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