世界で一番冷酷な魔女

夜水 凪(なぎさ)

ある村に冷酷な魔女の言い伝えがありました。その村の村人たちが崇めている森に何百年も昔から魔女が住んでいるというのです。村人は誰もその魔女に会ったことがないのに、「魔女は酷く冷淡で、恐ろしい」と口々に言います。その村の子供らは魔女の話を親から聞き、また自分の子供に語り継いでいくようになっていました。だからその村に住む者は誰一人として森の中に入ろうとはしなかったのです。


そんな中、ある時一人の少年が魔女に会いに行くと言い出しました。魔女は危険だ恐ろしいと日々口にしていた村人達ですが、誰一人としてその少年を止める者はいませんでした。何故ならばその少年は人の心を理解できず、村人達から嫌われていたからです。村の子供達はその少年が魔女に捕まってしまえばいいと思っていました。


そんなことを気にもせず、少年はとうとう森の中に入っていきました。森は人が手を全く加えていないので、鬱蒼とし、日の光が届かず、じめじめとしていました。それでも少年は進んでいきます。しばらく歩いていくと、大きな木の裏側に明かりの灯った小屋を見つけました。きっとここに魔女がいるのだろうと思い、少年は小屋に近づきました。窓から中を覗いてみると、そこはとても綺麗に片付けられているようです。

(話に聞いていたことから考えると、魔女の家というのは薄暗く、物で溢れ、実験で使った動物や人間の子供の死体がそのまま放置されているようなものだと思っていたがそうではないのか。)と少年は少し驚きました。


しかし、肝心の魔女が見当たりません。このままでは折角ここまで来た意味がない。目的を果たさなければ。そんな思いから少年は小屋のドアを叩きました。


「すみません。誰かいませんか?」


しかし中からは何の反応もありません。けれども少年もここで引き下がる訳にはいきません。もう一度戸を叩きました。


「すみません。迷ってしまい困っているのです。どうか助けていただけないでしょうか?」


すると暫くして扉が少しだけ開きました。中から女の人の声がします。


「…何もなく助けにならないかもしれませんが、どうぞ…。」


「いえいえ、きっと大丈夫です。ありがとうございます。それではお邪魔します。」


そうして少年は小屋の中に入っていきました。

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