ボクの世界が終わった日
ぬべアメ
プロローグ
今日も良く晴れた青空が広場に投影され、人々が談笑している。
噴水の周りでは子供達が遊んでいて、人工知能を携えたロボットが見守っている。 そんないつもと何も変わらない日だったのに。
スピーカーから流れていた鳥の声が突如途切れ、噴水の立体映像も止まった。
広場にいた全員が不自然な静寂に疑問を持っていると、偉そうな大人が映った緊急用のモニターが現れた。
あの髭のおじさんも、後ろに並んでいる白や黒の服を着た人達も、誰だっけ?
思い出せないでいるボクに構うはずもなく、髭のおじさんは重々しそうに喋り始めた。
「我々は生命維持装置のお陰で今日まで大変健やかに、死という恐ろしい存在を遮断して生きてくることができました。そしてこの生活は我々の発明の功績だけで成し得たものでは決してなく、市民の皆様の協力と労働があってのものです」
言い方は嫌に重々しいが、教科書に書いてある「ねぎらい」と一緒だ。
今日はお祭りの日でもないはずなのにこんな内容の放送を流してどうしたのだろうか。
そんな疑問を持ったのはボクだけではなかったようで、大人も子供もざわついている。
「だから、そんな善良な協力者であった市民の皆様に、大変申し上げにくいのですが、お知らせがあります」
ざわざわとした広場の空気に、スピーカー越しで髭のおじさんの落ち着かない息遣いが響く。
煩いし、不快だ。
段々イライラしてきていると、髭のおじさんはついに意を決したようで深呼吸を1つし、顔を上げた。
「今まで200年以上研究してきましたが、どうしてもダメだった!動力源が変わらない限り耐久年数を伸ばす事は叶わず、かと言って、他の動力源に交換しては現在のような効果には遠く及ばず、装置そのものの目覚ましい進化を遂げさせることも出来ず!!!」
そう言って髭のおじさんが机を力いっぱい殴ると、コップが転がり落ちて水がこぼれた。
きれいな女の人が駆け寄ってきておじさんをなだめ、座らせた。
でもいくらなだめてももう、おじさんの震えは止まらない。震えはおじさんだけではなく後ろに並んでいる人達にも伝播し、泣き始める人さえいた。
「努力はしました。けれど、限界がきてしまったのです。我々の生命維持装置の耐久年数は、長くてもあと30年程です。今まで隠してきて、大変申し訳ございませんでした。謹んで、お詫び申し上げます」
髭のおじさんは震えながらそう言って、震えた手をポケットに入れて、震えたまま何かを左胸に当てて、大きな音がいくつも続いて空気を震わせた。
「……」
そしてモニターの中の偉そうな人達が一斉に崩れ落ちて、震えなくなった。
「……な、なによこれ!!??」
「おい、何で、何で死んでっ、動かなくなってるんだよ!!」
「お医者様は、メディカルロボは、どうして誰も助けないの!?」
「それよりどうして拳銃なんて、あれはずっとずっと前に規制してもう」
「こんなの嘘よ!!嘘に決まってる!!おかしい!!死ぬなんておかしい!!!」
モニターの中が静かになったのと入れ替わりで、広場は騒然とした。
いや、広場だけではない。この街全体から叫び声が、怒号が、悲鳴が、鳴き声が聞こえてくる。
静かにしているのは、必死で端末を操作して検索している者ぐらいだ。
ボクはそれらの人々をどこか遠い存在であるように感じながらふと、思い出した。
モニターに映って動かなくなっているのは確か、この町の長と、機械技師。それから医師達だ。
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