What is your wish?
宇曽井 誠
お前の敵が報復を受けるなら____北沢 葵の場合
第1話
風が強かった。
フェンスの向こう側も同じ場所の筈なのに、なぜかこちらの方が風が強く感じる。本当は、何か理由があるんだろうけど、化学だとかは分からないし、分かった所で興味もない。
だって、今から死ぬのだもの。
笑いがこみ上げてきた。十云年生きた結果がこれか。悲しい。あまりにも
でも、それ以上に生きるのが辛いのだもの。生きる事を楽しいと、感じられなくなってしまったのだもの。仕方ないじゃない。
「はは……あははははは!!」
心の底からの笑い、気持ちが楽になる。だけど、死ぬのをやめるわけじゃない。何が何でも、自分__
さて、一歩を踏み出そう。これで終わりにしてしまおう。そう思った時だった。彼の声が聞こえたのは。
最初は幻聴かと思った。走馬灯が先にやってきたとか、そういう物だと思った。
でも、声はずっと聞こえる。振り返ってみると、フェンスの向こう側に彼は立っていた。目元を仮面で隠し、物語の中の悪人魔術師のような格好で、面白可笑しそうに笑っていた。
思わず「何ですか」と言ってしまう。そう言いたくなるくらい、彼のその笑みに腹が立ったのだもの。
「いやいや。人間とは、どうも馬鹿らしい生物だ。他の生物を殺したくせに、罪を逃れようとする……イジメも事故も安楽死も、結局は全部殺人なのに。別の名をつけて、それを隠そうとする」
おかしい人だ。微妙に会話が噛み合ってない。こんなのに絡まれるなんて……これから死ぬのに気分が悪くなった。どうせなら、さっきの幸せな気持ちで死にたかったのに。
彼はその後も言葉を続ける。
「そう思わないか、死にたがりよ。この世は殺人に溢れているんだ」
「…どうでも良いですね。だって、今から死ぬのだもの」
「へぇ、勿体ない。お仲間はみぃんな言ってる筈だろ? あなたが生きているのは奇跡だ、ってな。なぜ奇跡かは多種多様だが」
それがどうしたと言うのだろう。
黙っていると、彼は呆れたように肩をすくめた。とてもイライラする。
「言わねぇと分かんねぇか。最近の人間はやっぱり阿呆だなぁ」
「っ……それなら、早く言ってくださいよ。勿体ぶらずに」
「へいへい…………お前の敵が報復を受けるなら。お前は、生きたいと思うか?」
心が揺れる。
彼らが、彼女らが報復を受ける……とても魅力的で、とても素晴らしい提案。
でも、また生きる事を楽しめると思えない。前のように生きるなんて、到底無理に決まってる。きっと……サイコパスとまではいかないが、それなりに狂った人間になってしまう。社会から外れた人間なんて、死んでいるに等しいと思うの。
それでも、それでも。彼、彼女らに、報復を受けさせれるのなら。
「生きたい……あなたが要求する物、何でもあげるから!」
「そうかい。んじゃあ、お前の大切な物を一つ、貰ってくぜ」
フェンスの向こうから手が伸ばされ、彼によって安全地帯へ招かれる。
「安心しな。お前の敵は、全員報復を受けるぜ。明日中にはな」
去り際に彼はそう言うと、屋上から消えていった。
____彼は、どこから来たのだろう。
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