第3話 留まるな
傷心旅行、というものとは少し違う。なぜなら町内をグルグル歩き回っているだけだから。
私は失意の中にあった。それゆえ、何かしらの手段で我が心を癒やしてやる必要に迫られていたのである。何によって? 一箇所に留まらないことによってである。
坂を登り、階段を下る。坂を登り、階段を下る。坂を登り、階段を下る。
本当に私の住む町は平坦な所がない。それはそれでいい。肉体的苦痛が精神的苦痛にまされば、それに越したことはない。だが先程からどこかで見たような景色ばかり見せつけられている。これでは一所に封じ込められたようではないか。留まるまいと決めておきながら、実際の行動は決意に反している。
「おのれ!」
大声で罵りつつも、坂を登り、階段を下る。坂を登り、階段を下る。坂を登り、階段を下る。
違うルートを取ろうとした。立ち止まる。と、背後に誰かがいることに気づいた。
「留まりおったな」
振り返る。それは、私だった。憤怒の表情を浮かべた、私だったのだ。
「貴様はもう癒えなどしない。貴様の傷は治りなどしないのだ!」
それ以来、私の自己治癒能力は無くなり、傷まみれのまま暮らしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます