女将軍の実力
「……遅い」
松明の明かりと兵士の視線を浴びながら、俺は門の付近で待機していた。
セレネ将軍がちょっとした用事を済ませると風呂場で別れて、かれこれ二十分。
一足先に指定された場所まで来たが、未だ誘った当人の姿はなかった。
門番に話をしたらコチラの予定を知っている様子なので、無駄足でないと踏んで留まっていたが、それも我慢の限界だ。
……というタイミングで、声が掛かる。
「待たせました、クローくん」
謝罪もない短い言葉に、不満を隠さず顔を向ける。
そこには最初に出会った時と同様、白銀の鎧を着て二振りの剣を帯刀したセレネ将軍の姿があった。
「おや。少し不満そうな顔で自分を睨んでいますね。何故?」
「それに気付かないとは大した図太さです。なんでこんなに遅かったんですか。準備は万端という口ぶりだったのに、俺の湿った髪は夜風と松明で乾き切りましたよ」
「あれは嘘です。ようやく手配を完了させて、ここに来たというわけです」
「は?」
驚きで目が点になる。
セレネ将軍は悪びれる様子もなく、言葉を続けた。
「まぁ約束は破っていないので大目に見てください。では、出発です」
何の躊躇いもなく言い放った後、スタスタと目的地に向かって歩き始める。
置いて行かれないよう後に続くが、歩行と同時に文句を出す事も忘れない。
「ちょっと自分勝手すぎませんか」
「失礼な、自分は気の利く上司として部下から慕われているというのに」
「断言します、それは社交辞令です」
「なるほど。素敵な冗談だ、聞き逃すとしましょう」
少し、頭を抱える。
嫌味や抗議は無意味なのだと飲み込むのに、時間が欲しかったのだ。
「……せめて、遅れることを連絡して欲しかったのですが。離間工作はしているとは聞いていますが、神様達と鉢合わせする可能性は充分にあったんですよ」
「気配り上手な自分ですが、たまには失念することもあります。しかし、次からは気を付けましょう」
いや多分、次の機会はない。
野暮なので口には出さないが、この人は苦手なタイプだ。
「さて、出立しましょうか。とはいえ、大して時間は掛かりませんが」
というセレネ将軍の言葉通り、あっという間に墓地へと辿り着く。
曰く、基地と離れすぎた場所に墓地などあっても面倒なだけ、と。
なるほど道理だなと頷いて、俺は目の前に広がる光景を眺めた。
「驚きました。危険な森の中とは思えないくらい洗煉された弔い方だ」
月明かりしか光源のない森の中、規則的に並べられた墓石の数は優に五十を超え、その存在感を示しているくせに、ただ静かに佇んでいる。
そして例外なくどれもが真新しい。美術品のようにさえ感じた。
「……とはいえ数が多すぎる。数ヶ月の間にコレだけの人が死んだと言う事ですか」
「えぇ、その通り。土の中とは言え、狭い場所に五十名以上も居合わせながら尚、この沈黙ぶりだ、素敵でしょう? まさに永眠と言えます。一部、例外がありますが」
セレネ将軍の言葉通り、ただ一つ真新しい墓石の周囲だけがカタカタと揺れていた。
まるで警戒音のように騒がしくなっているソレに、だがまったく構う様子もなくセレネ将軍は墓の前に立つ。
「どうやら、自分たちの魔力に反応しているようですね。食事の香りで目を覚ますような物でしょうか。まだ完全に魔物として覚醒し切れていないが、ソレも僅か。たたき起こせばすぐに起き上がる」
「なるほど、俺達は餌扱いですか、嫌ですね。でも魔物ってすぐには発生しないというのは理解できました。帰るなら今のうち、と言う事ですね。それとも完全に目覚めるまで見守るんですか?」
「いえ、自分は逃げるのも待つのも嫌いです。なので、強制敵に覚醒して貰います」
明るい口調で剣を抜くセレネ将軍は、躊躇うこと無く騒がしい箇所に向かう。
……両手に握る二つの切っ先を、墓前に向けながら。
「まさか」
という嫌な予感は当たった。
双剣をハサミのように扱って、目の前の石碑をザクリと切り裂いたのだ。
「震えていないで、早く起きなさい。それとも今更、二度目の処分が怖いとでも?」
じつに最低な挑発だが、効果は抜群だった。
ドカン、と。
墓石が崩れると同時、セレネ将軍の足元が爆散した。
だがソレは火薬ではなく、地面から一斉に生えた石の槍が原因だ。
太さは人の腕、長さは二メートルを超えた岩が次々と突き出て、将軍を狙う。
たった一つでも当たれば、焼き鳥のように串刺しだろう。
……まぁ刺されば、という話だが。
「元上司に対して、とても良い殺気だ。えぇ、遠慮は要りませんとも」
足元を攻撃されたセレネ将軍は絶妙なタイミングで隣の墓石に飛び乗ると、義経の八艘飛びの如く墓石から墓石へと渡り移る。
ソレを追うようにザクザクザクと剣山が出来上がるが、その全てが空振りに終わる。
「さて、いよいよ人より産まれた魔物の登場ですよ。楽しみですね?」
合計六回の攻撃から逃れたセレネ将軍は、墓上に立ったまま自分が切り裂いた場所を剣で示す。
……そこから、土から這い出た右手が垣間見えた。
ただし。
「骨?」
ジッと凝視して浮き出た光景は、肉片さえない標本のような骸骨が、土の中から這い出てくる姿だった。
「衛生面を考えて、火葬するのは当たり前です。しかし、たとえ骨であっても魔物にとっては充分です。ほら、あのように」
白骨化した死体の周囲から、夜闇よりなお昏い暗黒の霧が包み込む。
そして暗黒の霧は鎧や剣といった武具に変化して、瞬く間に骨の魔物を剣士の風体へと作り替えていく。
「ほぅ、死してなおクリティアスの勇士として奮いますか」
セレネ将軍の言葉通り、その武装は帝国兵のソレである。
骨の身でありながら、分厚い装甲や剣と盾を身に纏う光景は一見すると滑稽だ。
だが、その愚かな認識は直ぐさま消え去った。
「――――」
無音の咆哮が放たれ、骸の剣士がセレネ将軍の前まで突進するとガキィン、という鉄の火花が闇を照らす。
「……速い」
そう、まさに電光石火の素早さだ。
最初の不意撃ちから六度の攻撃を躱したセレネ将軍と骸骨の騎士の間合いは、一瞬で詰めるには不可能なほど遠く離れていた。
その距離を一瞬で詰める技量は、まさに魔法の領域である。
同様の現象を近接線で発揮されれば、俺では対処できないと確信できた。
しかし、目で追うことさえ困難な剣筋をセレネ将軍は余裕の表情で捌き、魔物と剣撃を交わし続けている。
「ふむ、武器以外は小枝のような軽さだ。重力の操作でしょうか」
セレネ将軍の分析するような物言いから、僅か五秒後。
剣と剣の鬩ぎ合いは、まず彼女によって変化した。
「では次の展開に移りましょうか」
セレネ将軍は右の剣で攻撃を受け、左の剣で魔物の首を狙う。
対して骸の剣士は盾で殴るように防ぐと、先程と同じ石の槍でドカン、と相手の足場を崩しにかかった。
それは落とし穴に掛かったに等しい、致命的な隙を生んだに違いない。
しかもセレネ将軍が壊れた地面に足を着ける前に、骸の剣士が追撃する。
防ぐか避けるか反撃するかで混乱する上に、刹那の迷いでも死に直結する状況。
だが、それも予測の範囲内であったかのように双剣がガキン、と阻んだ。
「まぁ生きていた頃よりはマシですね。ですが、魔物としては弱すぎる」
笑いながらの挑発に、骸の剣士は全身をカタカタと揺らしながら、敵に目掛けて攻勢を仕掛ける。
ただしそれは剣技ではなく、魔物の特権行使であった。
「――――」
詠唱無しの魔法効果は、魔物の背後から夜に輝く暗黒の炎を出現させた。
代償としてピシリ、と骸骨の顔に亀裂が広がる。
それでも魔物の身体を燃料に、暗黒の炎の成長は止まらない。
「まさか、これが奥の手だと」
セレネ将軍が言い終わる前に、その声が掻き消える。
人を完全に飲み込む大きさとなったソレは何の躊躇いも無く、防御で両手の塞がったセレネ将軍へと突っ込んだ。
バクン、と。
まるで捕食するようにセレネ将軍を飲み込む炎を見て、勝負は決まったと認識する。
避けることも逃げる個も不可能。魔法が当たった時点で反撃も無理だ。
至近距離で火炎放射器を浴びせたように、セレネ将軍は一瞬で業火に包まれている。
さらにトドメとばかりに、骸の剣士は横薙ぎの一閃を振るった。
武器と魔法による同時攻撃は人体破壊にしては過剰すぎる威力を持って、
ガキィンと防がれた。
「失望です。ここまで期待はずれとは」
酷く不機嫌そうな声で、肉体どころか髪さえ焦がさずに、セレネ将軍は平然と剣を受け止めている。
「……有り得ない」
そう呟かずには居られなかった。
魔法という存在を知ってなお、その光景は異様だったからだ。
燃え盛る炎が、ワックスで弾かれる水のようにボタボタと滑り落ちていく。
「まったく嘆かわしい。どこまで楽しませられるか様子見していましたが、人間を捨てて魔物に成り上がった癖に程度が低すぎる」
どちらが化け物なのか判らない発言を口にしながら、セレネ将軍は両手に持った剣で骸の剣士を斬りつけた。
再び、剣と剣が切り結ばれて弾け合う……事は無かった。
骸の剣士の身体は武装ごと、まるでバターのような滑らかさでスライスされる。
「貴方では見世物にもならない。こんな役立たずは要りません。故に、このまま再び朽ちなさい」
まるで鞭を打つように双剣を操って、骸の剣士を細切れにしていくセレネ将軍。
骸の剣士も必死に応戦しようとするが、紙の人形がハサミに挑むようなものだった。
一方的に身体を刻まれ、為す術もなく塵と化す骸の剣士は声なき断末魔を上げる。
惨劇を作った本人は、目の前の相手をゴミのように見下した。
「さぁ、この地に眠る同胞のように無価値な存在として散りなさい」
恐らく、それは引き金だったのだ。
もはや崩壊寸前、骸骨に表情なんて作れないのに、魔物の顔に浮かんだのは間違いなく怒りだった。
「――――」
骸骨の剣士は残りの力を振り絞って、最後の魔法を放った。
――瞬間、夜空が焦げる。
先程の炎とは比べものにならない、上空からの一点集中。
隕石が落下したのかと錯覚するほどの破壊を持った火柱を、セレネ将軍の頭上へと振り落としたのだ。
その余りにも絶大な威力は、観戦していた俺にまで牙を剥いた。
「あ、がッ、熱、あつつつ、喉、痛ッ」
思わず倒れ込むほどの余波と熱気が俺の全身を襲う。
火の粉さえ当たっていないのに、肺の中がドライヤーを吹かせたように焼ける。
冷ますように身体を転がしている最中、地面の雑草が急激に枯れていく様子が目に焼き付いてしまった。
それでも何とか無事なのは、おそらくソフィア姫に貰った服のおかげだろう。
「く、自爆攻撃じゃなかったら、俺が死んでましたよ、これ」
そう。骸の剣士が自分を燃料にして放った魔法の発動時間は、一秒も無かった。
しかし、たとえ刹那であっても魔法の威力は果てしなく強大だった。
……周囲は熱帯夜よりも蒸し暑くなって、物の焦げた匂いで鼻が痛い。
綺麗に並んでいた墓石は将棋のコマのように倒れ、爆心地にあった物体は風が吹けば粉のようにサラサラと消えていく。
……ただ一人、セレネ将軍を除いて無事な物は何一つ無かった。
「まったく最後まで面白味のないやつでした。せめて十倍の威力で挑んできて貰わないと話になりません」
そう不満そうに語る姿は、まったくの無傷だった。
どんなコーティングなのか、服さえ汚れず平然と俺の所まで戻ってくる。
「なぜ倒れ込んでいるかは不明ですが、大丈夫ですか。もし良ければ手を貸しますが」
「いえ、結構です。熱気に晒されただけなので、自分で立てます」
パンパンと埃を払い、座って休みたい欲求を抑えながら背筋を伸ばす。
しかし、やせ我慢で得られた報酬は涼しそうな顔をしたセレネ将軍を間近で観察し、自分との対比で余計に落ち込む事ができる権利くらいなものだった。
「……いったいどんな魔法を使えば、そこまで頑丈になれるんですか?」
墓場の幽霊よりも怖い存在を前にして、俺はそう尋ねずにはいられなかった。
たとえばゾンビよりも不死身になれる魔法なのだ、と言われても納得できる。
だがセレネ将軍は俺の質問を聞いて、不思議そうに首を傾げる。
「魔法? あんな雑魚相手に、そんな上等なものは使用していませんが」
「――は」
有り得ない、とは言えない。
だってセレネ将軍はここに来るまで、呪文なんて唱えていない。
「ちなみに、既に魔法を唱えていた訳でもありません。自分は才能が乏しいので」
「じゃあ、どうやってッ」
喉を痛めているのに、あまりにも理不尽な言葉を聞いて叫んでしまう。
なにしろ魔法は俺にとっての強さだ。人助けの為の、最強の手段だ。
強さに憧れた俺が、人助けに飢えていた俺が、無価値な俺が、寿命を減らしてでも欲しかった自尊心を持てる唯一の象徴だ。
……なのに。
あれだけの強さを見せつけた相手が、魔法を使っていないなんて言い始めたら、魔法とは何だったのか、と少しだけ芽吹いた戦いの自信が根本から揺らいでしまう。
「いっそ、貴方の正体は魔物だったという方が納得できる」
「それは余りにも酷い侮辱だ。わざとらしい挑発行為は止めて欲しい」
動揺する俺に対し、セレネ将軍は呆れたように溜息を吐く。
そして仕方なさそうな態度で空を仰ぐと、まるで駄々をこねる子供をあやすような口調で俺に喋りかけた。
「そこまで驚く話でもありません。単純に、相手が弱すぎたと言うだけのこと。耐魔力の服や自分の防御力に、魔物の攻撃が及ばなかったのです」
「――――」
ショックすぎて言葉を失う。
この世界の人間は魔法がなくても強いのか、という衝撃と何より。
……あの火炎魔法は間違いなく、上級魔法の威力だった。
つまり、こと火炎魔法において俺は、セレネ将軍に有効な手段が無いと言うことだ。
「しかし貴方には、申し訳ない事をした」
「え?」
あまりにも意外な言葉を聞いて、思わず自分の耳を疑ってしまう。
どれだけ失礼な態度と行動をしても、ついぞ謝罪しなかった人が一体、どんな理由で頭を下げるというのか。
ソレを早く知りたくて、何のことか聞き返さず固唾を飲んでいると、
「あの程度の余興では、さぞや退屈だったでしょう? 次の機会があれば、もう少しマトモな相手を用意しておきます。あぁ、その時は貴方に戦いを譲っても良い」
立ち眩みのように、意識がフッと遠くなった。
生身で魔物を凌駕した攻防は、この人にとっては戦いでさえないという。
あれだけ優位に盤面を制しておきながら、満足そうな態度など微塵も見せない。
……俺だったら、これで何人分の命を救えたのか計算しながら、子供みたいに喜んで自分の強さを再確認するだろう。
――あぁ、そうだ。
この違和感は、子供と大人の差を見せつけられた状況に近い。
それを自覚した時、本当に目の前の相手が人の皮を被った魔物に思えてきた。
しかし、そんな俺の心情に気づくことなくセレネ将軍は言葉を続ける。
「今回の件は、自分としても不本意です。同郷の死体が魔物になった事で少しは楽しめると思ったのですが、見込み違いでした。やはり、この国の魔物は弱くて困る」
「なんですか、そのまるで地域によって魔物の強さに差があるみたいな言い方」
「無論、環境による実力差はあるに決まっていますが。特にティマイオスの魔物は大陸最弱であるというのが通説です」
「え」
「知らないのですか? 過剰な神の守護によって、この国の魔物が弱体化していたというのは常識です。実際、貴方も魔物を倒すのに苦労したことなど無いでしょう?」
「――――」
ガラガラ、と少しだけ芽生えていた自信が音を立てて崩れていく。
強くなったという認識が根底から覆り、無力な自分を思い出す。
「……確かに、魔物を倒す事に苦労は感じなかったですけど」
だが危険がなかった訳じゃない。だからこそ強さに飢えていても、充足感は確かにあったのだ。それが、なんだ。
「今までの戦いはゲームにおける最初の町で、雑魚モンスターを倒して良い気になっていただけ、と言われたような気分です」
此処に来て初めて、異世界に居ることを後悔しそうになる。
命を削ってまで手に入れた強さが、他の誰かにとっては『弱い』という衝撃。
「……なるほど。教えて貰ってありがとうございます、セレネ将軍」
「はい?」
「身に染みました。まだ、足りないんですね。誰かを助けたいのなら、俺はもっと強くならなければいけない。ソフィア姫達には凄いと言われていましたが、貴方と比べれば実力不足にも程がある。先程の戦闘を見なければ、そんな自分にさえ気付けなかった」
「ふむ。てっきり退屈すぎて、不機嫌に口を閉ざしているのかと思っていましたが、そうでないなら安心です。親睦会としては成功だったようだ」
セレネ将軍は見当外れの杞憂に胸を撫で下ろすと、剣を納めて戦闘態勢を解いた。
さきほどの鬼気迫る雰囲気から一転、気分良く鼻歌を嗜んでいる。
「……随分と余裕ですね。これだけの墓の数です。次の魔物が墓から出てきたら、どうするんですか。少なくとも俺は戦えませんし」
「ただの死体は魔物化しません。アレは生前からあった執念を糧にして、魔物となって襲いかかってきたのです。ここに眠る者達は倒したアレを除いて既に未練を失っていますから、クローくんが襲われる心配もありません」
「……ああ。言われてみれば確かに、あの魔物は俺に全く興味を示しませんでしたが。もしかして初めから、セレネ将軍しか狙わないと知っていたのですか?」
「当然です。たとえば普通の魔物なら、武器を持たない貴方を襲っていたでしょう。しかし、この墓場から産まれる魔物ならば自分以外は狙われないのです」
「随分と確信的ですね。アレですか。貴方に殺された恨み、ですか?」
「ふふ。人聞きの悪い」
しかしセレネ将軍は否定せず、むしろ嬉しそうな笑顔を向けてくる。
その時点で察するが、弾劾する気など毛頭無い。
……あえて問題にするとすれば。
「それにしても貴方の戦い方は派手すぎましたね。せっかく内緒で来たのに、先程の爆発音は異常を知らせる警報と言っても良い。たとえ寝ていても飛び起きて、すぐ様子を確認するに決まってる」
耳を澄ませば、基地の方から複数の足音と、呼びかけるような声が聞こえてる。
十中八九、神様達だろう。
「もし見られて困るのなら、いますぐ部屋に戻り、無関係を装っては如何です。今から帰れば騙し通せるかも知れない」
「残念ながら、さっきから俺を呼ぶ声が聞こえています。心配してくれる相手を無視する訳にもいきません。説教を喰らいそうですが、コチラの安否を教えに行ってきます」
「ほう、そうなると此処に来た経緯を説明する事になるでしょうね。対応を誤れば背中の傷まで知られてしまうのでは?」
「まさか。貴方が黙っていれば幾らでも誤魔化せます。なので同行して口裏を合わせて貰えませんか」
「いえ、自分は付き合いませんので悪しからず」
キッパリと。
いっそ清々しいほどにセレネ将軍は即座に拒絶した。
「……俺との仲を深めたいというなら、今は絶好のチャンスですよ」
「魔物の気配を感じますので狩りが優先です。どうやら、月夜の騒音で目を覚ましたのは人間だけではないようだ」
そう言うとセレネ将軍は納めた双剣を再び抜いて、基地とは反対方向へと進む。
部下を呼んで一緒に倒せば済むのに、単騎で挑もうとする理由は恐らく。
「アレじゃ、物足りないんですね。誰にも手伝わせず、独占しようとするくらいに」
「――おっと、分かってしまいますか。それはいけませんね、気をしっかり引き締めなくては。冷静沈着を心がけねば。えぇ、貴方に教えて貰えて良かった」
まるで人に指摘されてから落とし物に気付いたような、感心と感謝を含んだその声は既に小さくなっていた。
もう、俺の視界からは人影にしか見えない。
「……怖い人だ。出来れば、敵に回したくないけれど」
けれど、きっと彼女と俺は戦う事になる。
そんな根拠の無い未来を思い浮かべながら、俺を探す声の方へと歩き始めた。
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