【エピソード4 第4話】

「……流空くん。ちょっと。はいはい起きて。起きて」


 パンパン手を叩く不快な音で目が覚めた。

 目の前には女が立っていた。金髪で、白いドレスを纏った女。


 初めて見る。……ような、二度目のような。


「最悪。最悪よ。」


 面倒臭そうに顔を歪めて女が言う。普通にしていたらきっと美人なのだろうが、今の表情はお世辞にも綺麗とは言えない。なぜそんなにイラついているのだろう。


「手違いだったんですけど。マジ。面倒臭いわぁ」


 頭をかいて舌打ち一つ。腕を組んで、右足は貧乏ゆすり。せっかくの美人もこうでは台無しだ。


「異世界に送るの。あんたじゃなかったわ。マジとちったわ。最悪。始末書じゃ済まないかもしんないんですけど」


 何を言っているのかわからなかったので、戸惑っていると、彼女はそれを批判と捉えたようだ。


「だって、しょうがないじゃん。一緒だったんだもん。普通下半身丸出しで死ぬ奴が同じ時間に何人もいると思う? そりゃ間違える可能性もあるじゃん」


「は……?」


「まあ正確に言えば、あなたは気絶してるだけで、死んじゃいなかったんだけど、間違えて魂を引っ張ってきちゃったんだもん。もうどうしようもないわ」


 ……あ。思い出した。

 なんとなく、いや、はっきりと、ばっちりと、だんだん思い出してきた!

 こいつ! あったことある! 俺をヘンテコな世界に連れ出したやつだ! そうだ、俺は彼女とイチャイチャしてる最中だったんだ!

 なんでわけのわからん世界に飛ばされて、あんなワニの化け物に襲われなきゃいけないんだ! 


「テメェ!! あの時の女だな! 間違いってどういうことだよ! おい!」


「きゃっ! 急に態度が変わった!」


「思い出したんだよ! どうしてくれんだよ! 間違いってなんだ!?」


「いや、だから。ブルースカイルに送る人を間違えたって話よ。あなたじゃなくて、別人を送り込むはずだったのに、間違えちゃったってこと。あんたも悪いんだからね。下半身丸出しで気を失ってたらこっちだって間違えるわよ!」


「なんで俺が悪いんだよ!」


「私だって困ってんのよ。異世界転生の予定で書類も揃えて、チート能力も準備してたのに、生きてる人間を転移させちゃったんだもん。そうなると、転生じゃなくて召喚の手続きが必要で、持ってきたチート能力は転生人用だからあなたには使えないから、変更手続きを済ませて、召喚用の特殊能力を持ってこなきゃいけないけど、書類審査に一週間も時間がかかるのよ」


「どーゆーことだ! わかんねーぞ」


「だから、あなたは勇者として召喚されるけど、特別な能力はないってこと! ぱんぴー! 一般ぴーぽーとして転移するってこと!」


「なーんだーとー!!」


「だから、とりあえず、魔力容量だけ増量させるためにこれ持ってきたから。とりあえず飲んどいて」


 そう言って栄養ドリンクみたいな小瓶を差し出してくる。


「なんだ、これ」


「魔力増強ドリンク。『一本ファイトV』」


「市販してんのか?」


 滋養強壮魔力増強と書かれたラベルを見る。


「高いんだから。それあげるから、とりあえず一週間は頑張って生き抜いて。魔力さえあれば、一応なんとかなる。光の剣とか出せるようにオプション無理くりつけといたから。だから、頑張って。その間に書類を揃えてあなた用の特殊能力を持ってくるから」


「帰らせてはくれねえのかよ!」


「元々死人を転生させる予定だったから片道切符なの! 召喚先の世界で、人を別の世界に転送させる施設とかがあれば、それを使って帰ってはこれるけど、帰ってこないで。とりあえず魔王は倒して。倒してから、帰って。マジ。お願い」


「しらねーよ! お前のミスなんだろ! 帰らせろ! 早く帰らせろよ!」


 カチンときた俺は女につかみかかった。


「きゃー! 暴力反対!!」


 すると、女は背中から金色の巨大ハンマーを取り出して、俺の脳天に打ち下ろした。


 ガツンっと頭蓋骨あたりからヤバイ音が聞こえて目の前が真っ暗になった。


「……あ、またやっちゃった。だ、大丈夫よね。えーっと。とりあえず、一本ファイトVだけは口に流し込んでおきましょ。……よし、よし。ちょっと鼻に入っちゃったけどまあいいか。

 じゃあ流空くん。頑張ってねえ〜……」


 声が遠くぼやけていき、そして、俺は意識を失った……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る