【ブルースカイル英雄譚】
ボンゴレ☆ビガンゴ
【エピソード4 ルークズ・アドベンチャー】
【エピソード4 第1話】
【還元歴2097年】
『三人目の勇者も失ったアルトウィア連盟は苦境に立たされていた。
魔王ゴトー率いる魔群合衆の進撃に領土を奪われ敗戦を重ねる日々。
慌てた議会は黒騎士団の反対を押し切り、新たなる勇者の召喚を決定。
召喚術に明るいアバリール王国フィリス王女に異界から勇者を召喚することを命じた……。
襲い来る暗殺者の追撃を乗り越えたフィリス王女は、戦友の死に心を痛めながらも『異界の橋』ダゴール神殿へとたどり着く。
そして、物語はフィリス王女が宝具アルケルストを解放し異世界から勇者を召喚したところより始まる。
……って感じなんだけど、どう?』
パタンっと分厚い本を閉じて、目の前の女は言った。
白い肌。金色の波打つ髪。ひらひらした純白の一枚布をまとった美人である。
だが、美人だろうが何だろうが俺にはどうでもよくて、というかそんなことよりも、この空間自体がわけがわかんないので、女の言葉なんか右耳から左耳へするする通り抜けていくわけで、そんなんだから、間抜けヅラでぽかんとしていたんだ。
『感情移入できないと中々、力も入らないかなーって思って、一応プロローグ的な感じを醸し出してみたんだけ、どー? ちなみに既に三人の勇者がちょっとあの世界で《アレ》しちゃったもんで、難易度的にはちょっち厳しめなんだけど、まあ、頑張ってみる価値はあるかなーなんて私も思って転移先を決めたんだけど……。まあこれ以上、あの世界を救えないとなると、私のボーナス査定にも響いて。……っとこりゃこっちの話だったわ。って、聞いてる? えーっと
女は俺の名前を呼ぶと、必死に手を振ったりしてこちらの反応をうかがっている。
だが俺はこの異様な空間に圧倒されてしまっていて、女が何を言おうと言葉なんか耳に入っていなかった。
目の前には、なんにもない空間が広がっている。
何もないというのは、本当に何もないってことだ。
空も大地もない。地平線も壁もない。地面がないから自分が立っているかどうかもわからないし、なんなら、俺は空中に浮かんでいるのかもしれない。
なんにもない空間に、俺はいて、目の前には金髪の女がいる。女以外はなにもない。
そんな空間だ。
『あれー。おっかしいなー。ニホンゴで良いはずなんだけどなー』
女は首を傾げて、パラパラと分厚い本をめくっている。
『ちょっち、まだ混乱してる感じかなぁ? あ、それともニホンゴわかんない系男子かな? ハロー? ボンジュール? ニイハオ? うーん。あっ、こっちか。ガチャラモクレンアッパピア?』
ガチャ……? えっ? 何語?
『あ、反応した。ガチャラモクレンアッパピアに反応した! ……ってことは、木星人かぁ。よかったよかった。では、ごほん。ガチュモラクレンパジロモレッチア? テビンジョレーン』
「わかるかー! 何語だ!!」
我に返って叫ぶ。
『きゃあ! びっくりしたぁ。なによ。やっぱり日本語でいいんじゃないの! もう、驚かさないでよ』
「人が突然の出来事に茫然自失となってるってのに、耳元でガチャガチャうるさいんだよ!」
『なによ、この子、さっきまでアホヅラでポカーンって口開けてたくせに、急に怒鳴りだして。キレやすい子! もう最近の若者ってこれだから困るわぁ!』
眉間にしわを寄せて面倒臭そうに身を引く女。
「ってか、何ここ! なんで俺こんなところにいるの!? 気持ち悪いよ、この空間! やめてくれ!」
怒りに任せて叫んではいるが、地面もないので、こう、なんか力も入らない。ふわふわしていて気持ち悪い。下手に動くのも怖いので、体は強張ったままだ。
『ああん、もう。取り乱しちゃって可愛いのね。まあとりあえず、説明するわね。私はララ。数多の世界を束ねる多元神アーエビーに仕える12女神の一人で、この第六多元世界群の監視を担当する女神よ。あなたラッキーね。私は12女神の中でも一番の美人で優しいって評判だから。ちなみに12女神で一番陰湿で嫌な奴はアルダミス。ネチネチネチネチ嫌みばっか言ってきて、もう本当に嫌な奴でね。この前も__』
「だー! 知らん知らん! あんたの話なんてどーでもいい! やめてくれ! ここから出してくれ! 夢なら覚めてくれ! 俺はこんなところにいる暇はないんだ!! 最悪だぁ!! ようやく俺にも春が来たというのに!! ぬおお!!」
頭を抱えて叫ぶ。
『もう! うるさい!!』
女は叫ぶと、背後から(どうやって隠していたのかはわからんが)黄金色に輝く巨大なハンマーを取り出して、頭を抱えてイヤイヤをする俺の頭に叩き落とした。
「はうっ!!」
ガシンっと鈍い音がして、目の前に星が舞った。
なにもない空間なもんで、倒れたのか、その場で力を失って浮かんだままなのかはわからんのだけど、朦朧としたまま脱力してしまったわけだ。
『……あ、ヤバ。やっちゃった。ま、まあ私、悪くないし……。あははは」
暗闇の中で女の引きつった笑い声がかすかに聞こえている。
「えーっと。……じゃ、とりあえず、転送作業に入っちゃおーっと。 なんも説明できてないけど、大丈夫だよね? うん、そうよ。最近どうも転生者を甘やかしすぎなのよ。80年代だったら、こんなに丁寧に説明しなくても、勝手に世界を救ってくれたんだから。うんうん』
自分に言い聞かすようにボソボソ言って、勝手に納得している。
『まあ、形式だけはやっとくけどね。あとでなんか言われて降格させられるのもバカバカしいし。ごほん。じゃあさっきのところからもう一回読むね』
パラパラとページをめくる音。
『えーっと、還元世界、還元世界っと。あった、あった。じゃ、ごほん。
__還元歴2097年
三人目の勇者も失ったアルトウィア連盟は苦境に立たされていた。
魔王ゴトー率いる魔群合衆の進撃に領土を奪われ敗戦を重ねる日々。
慌てた議会は黒騎士団の反対を押し切り、新たなる勇者の召喚を決定。
召喚術に明るいアバリール王国フィリス王女に異界から勇者を召喚することを命じた。
襲い来る暗殺者の追撃を乗り越えたフィリス王女は、戦友の死に心を痛めながらも『異界の橋』ダゴール神殿へとたどり着いた。
そして、物語はフィリス王女が宝具アルケルストを解放し異世界から勇者を召喚したところより始まる……。
第6世界群。還元修復作業・登録名、【ブルースカイル英雄譚 エピソード4 】
スタートー!!
パラパパッパー! 頑張ってね! 流空くん!』
まばゆい光が目をつぶっていても俺を包むのがわかる。
そして、俺の体は溶けていった。
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