31話 高潔なる少女
一週間後――
「ん〜! 今日も絶好調です♪」
「ホントにゃ! アリアちゃんもどんどん成長してるし、連携もバッチリにゃん!」
商業区の大通りを歩きながら。
アリアが伸びをして上機嫌に言う。
ヴァルカンもそれに元気よく応え。
ガッツポーズを取る。
その際にアリアのメロンは、ぽよんっ! と上下し。
ヴァルカンのリンゴも、ぷるんっ! と震える。
道行く男どもは彼女たちの谷間や、横乳に目を奪われること必至だった。
ただ、1人……いや、1匹だけ違った楽しみ方をしている存在がいた。
(ふむ、実に壮観なり……)
そう、タマだ。
タマは珍しくアリアに抱かれることなく、そのすぐ後ろを歩いていた。
そして今、タマの瞳は斜め上に向けられている。
つまり……タマからは、アリアの短いスカートの中が丸見えなのだ。
白く、程よくムッチリとした内ももはもちろん。
アリアはいつもどおり、黒のTバックを履いているので、魅惑の食い込みや、白と黒のコントラストがつくりだす芸術的な景色を堪能できる。
(我が輩、まさに高みの――否、低みの見物である)
タマはしょうもない優越感に浸っていた。
ところで……
アリアがイヤに上機嫌な理由だが、それは彼女の胸もとに下がった冒険者タグの色にある。
タグの色は一週間前と違い、銅から銀色へと変わっていた。
つまりDランクからCランクへと上がったのだ。
先日の決闘で、アリアはタマと一緒ではあったがCランクであるカスマンを降した。
動物とパートナーを組んだ冒険者は、パートナー込みで実力を測られることになっている。
加えて、ここ数日でミノタウロスを始めとしたモンスターの数々をヴァルカンと討伐して来た。
その実績がギルドに認められ、つい昨日、ランク昇格となったのだ。
今も迷宮でクエストを終え、ギルドへ報告に行く途中だ。
「んにゃ? なんにゃあれは……?」
「すごい人だかりですね?」
ギルドへ入ってすぐ。
アリアとヴァルカンが不思議そうな声を上げる。
依頼票の貼ってある掲示板の前に冒険者たちが集まり、揃って視線を向けていたからだ。
朝であれば、一斉に新たなクエストが貼り出されるため、このような光景も珍しくないのだが、今は昼過ぎ……いったい何事だというのだろうか。
「あら、アリアちゃんにヴァルカンちゃんじゃない、お帰りなさい♪」
「アナさん、ただいまです」
「いったいあれはなんなのにゃ?」
通りがかったアーナルドが声をかけると。
ヴァルカンが早速、群がる冒険者たちを指差す。
下から見上げる形になってしまったタマは、アーナルドのボンデージの食い込みをモロに見てしまい、精神に大きなダメージを負う。
「近隣の町の近くで行方不明者が多発しているっていう噂があるのは知っているかしら?」
「そういえば……」
「そんな噂を店に来たお客さんから聞いた気がするにゃ」
アーナルドの言う噂に。
アリアもヴァルカンも聞き覚えがあった。
この迷宮都市から馬車で数日ほど行ったところにある、“レナード”という町で、少なくない数の行方不明者が出ていると……
「ということは、依頼内容は行方不明者の捜索ですか?」
「いいえ、違うわアリアちゃん。実は……レナードの近くにある遺跡で複数のモンスターと、それを従えた“魔族”の目撃情報があったの」
「「――ッ!!」」
アリアとヴァルカンが、目を見開き息を飲む。
(なに、魔族だと!? ということは……)
驚いたのはタマも同じ。
そして、これである仮説が立った。
魔族とは、モンスターを祖とする種族だ。
ある程度のモンスターであれば、思いのままにコントロールする力を持ち、その主食は人間だ。
それすなわち――
「レナードの行方不明者は魔族の手によって……」
「ええ、ほぼ確実に攫われた――そして、今頃は……そういうことだと思うわ、アリアちゃん」
アーナルドが目を伏せ、悲痛な面持ちで答える。
「おい、この依頼……誰か受けねーのか?」
「バカ言え、敵は魔族だぞ? レナードのヤツらには気の毒だが、俺はごめんだぜ」
掲示板の前で、どの冒険者も同じような会話を交わす。
やはり、依頼の内容は魔族とそれを従えるモンスターの討伐のようだ。
魔族はモンスターを従える力を持つ以外に、生まれついて強力なスキルを持っている者が多い。
それだけの強敵が相手では、たとえ報酬がよかろうと普通の冒険者であれば、尻込みしてしまうのも当然だ。
だが、そんな中……
「アナさん、依頼の詳細を教えてください――」
アリアが静かに呟いた。
「にゃ!? アリアちゃんまさか……!」
「本気なの? アリアちゃん」
「はい、私では力不足かもしれません。でも、魔族を放っておけばこの先も被害が……。そんなの許せません……ッ!」
(ご主人……!! そうであったな。ご主人の夢は、あの剣聖のように強く高潔な人物になることであったな……。危険なクエストになるだろうが、ご主人が受けると言うのなら、我が輩は騎士としての務めを果たすまでだ!)
凛とした表情で言い放ったアリア。
それを見て、タマも決意する。
そして改めて思い出す。
自分が仕えると決めた少女の高潔さを――
「んにゃ〜、そういうことなら私も依頼を受けるにゃん♪」
「ヴァルカンさん! いいんですか!?」
「仲間が根性見せた時に自分だけ退くなんて女が廃るにゃ。それに、こういう時こそ協力し合うのが仲間ってもんにゃん!」
言い切るヴァルカン。
彼女もまた高潔な心の持ち主だったようだ。
「分かったわ。それじゃ依頼の内容だけど、今回は事が事だから騎士隊が同行することに――」
「それについては僕から説明するよ」
内容の説明をしようとするアーナルド。
しかし、その声を途中で遮る者が現れた。
「やぁアナ。ヴァルカンさんは久しぶりだね。そして初めましてアリアさん。僕の名は“セドリック・リューイン”。今回のクエストに同行する騎士の1人だ。よろしくね?」
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