Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます
銀翼のぞみ
一章
プロローグ 我輩は猫(ベヒーモス)である、名はまだ無い
仄暗い空間。
岩肌の地面や壁がどこまでも続く。
辺りには様々な“モンスター”が徘徊している。
ここは“迷宮”。
その名の通り、迷路のような空間がどこまでも広がり、どこからともなくモンスターを生み出す不思議な空間だ。
そんな迷宮の中間辺りだろうか。
「にゃお〜……?」
今日も一匹のモンスターが産声を上げた。
だが、どういうことだろうか。
上げた産声が不思議そうな声色をしている。
(ここはどこだ? たしか我輩は
モンスターの記憶では、自分は騎士だった。
そして人類の敵、“魔族”との戦いの最中に強力な斬撃の前に敗れ、その命を落としたはずだった。
(考えても仕方あるまい。とにかく今は現状を把握しなければ……なんだこれは!?)
途中まで考えたところで、モンスターは驚愕する。
歩き出そうとしたその瞬間、自分の足――否、
茶トラ模様の毛皮に覆われた4つの指と、そこから生える鋭い爪。
恐る恐る裏を確認してみると、そこにはピンク色をしたプニプニの肉球があるではないか。
モンスターは急いで駆け出した。
自分の体、その全貌を確認できるものがないか確かめる為だ。
あった。
駆け出した先に水溜りがあるではないか。
「にゃお〜〜ッ!!??」
そして驚愕の声を上げる。
そこには、クリクリとした目で自分を見つめる
(《ステータス》!)
胸中でその名を叫ぶ。
するとモンスターの瞳の中に、いくつもの文字が羅列される。
自己解析魔法、《ステータス》。
騎士だったはずのモンスターが、生前使っていた自分の状態を見ることのできる魔法だ。
記載されていた内容は以下の通りだった。
==============================
名前:なし
種族:ベヒーモス(幼体)
固有スキル:《属性咆哮》、《スキル喰奪》
通常スキル:なし
==============================
(べッ……ベヒーモスだと!?)
モンスター……否、ベヒーモスはまたもや驚愕する。
ベヒーモスとは、“Sランク”のモンスターだ。
モンスターはその危険度により、S〜Eに階級分けがされている。
つまりベヒーモスとは、その頂点の一角。
天災級とも呼ばれる超弩級モンスターなのだ。
(死んだはずがモンスター……そうか、これが噂に聞く“転生”というやつか……!)
この世界の生物は、死後、転生することがある。
そして自分の身にもそれが起きたのだとベヒーモスは悟る。
ベヒーモスの胸中は複雑だ。
二度目の命を与えられたのは喜ぶべきだ。
しかし、転生先が今まで自分が守ってきた人類の敵、モンスターであろうとは……
だが、落胆している暇はないようだ。
何故なら――
『グギャッ』
『ギャギャギャッ!』
そんな声とともに敵が現れたのだ。
現れた敵の名は“ゴブリン”。
緑の肌と子供程度の身長を持つ下級の――ランクで言えばEランクのモンスターだ。
数は二体。
どちらの口からも唾液が滴り落ちている。
ベヒーモスは察する。
(こいつら、我輩を食う気だな)
と――
これは窮地だ。
最強クラスのベヒーモスとはいえ、今は幼体。
身体能力は大きく劣り、強力な固有スキルを使う為の知識すらない。
このままで、身を引き裂かれ肉を喰われてしまうだろう。
……通常であればだが。
「にゃあ〜(ゴブリン風情が舐めるなよ)!」
ベヒーモスは可愛らしい声を上げると、これまた可愛らしい瞳でゴブリンを睨みつける。
その姿を見て、心底おかしいといった様子でゴブリンどもが耳障りな笑い声を上げる。
ゴブリンたちがベヒーモスへと駆けてくる。
二体の得物は短剣だ。
『グギャ!』
片方が短剣を振り下ろす。
ただの幼体ベヒーモスであれば、今の一撃で命を刈り取られてしまっていただろう。
だが、幼体ではあるがベヒーモスの中身は歴戦の騎士。
そう簡単にやられはしない。
短剣の軌道を瞬時に読み取り、横に小さくステップすることでなんなくそれを回避。
着地と同時に、今度は前に勢いよくステップ。
空振ったゴブリンの脛に向かって渾身の頭突きを喰らわせる。
『グギャァッ!?』
予想外の反撃。
そして脛に走る鈍い痛みでゴブリンは思わず声を上げ蹲る。
(ぐ……なかなかに痛い。打撃技はあまり使わぬようにしよう)
頭突きの反動でベヒーモスの頭部も痛む。
だが、動くのに支障はない。
『グギャァァァァ!!』
仲間をやられ、もう一体のゴブリンが怒り叫ぶ。
縦に横に基本の“き”の字もなってない剣捌きで、ベヒーモスを切り裂こうと迫る。
「にゃ〜〜(ここだ)!」
剣筋を見切ったベヒーモスが宙に向かって跳躍する。
綺麗な放物線を描きゴブリンへと向かって飛んでいく。
その直ぐ真下を短剣が通り過ぎていく。
そして――
グサリッ!!
可愛い前足。
その先端から飛び出た鋭い爪が、ゴブリンの両目に突き刺さった。
絶叫が響き渡る。
激痛と視力を奪われたことによる混乱を考えれば当然と言えよう。
「にゃん(どれ、ひとつ固有スキルとやらを試してみるか)」
二体のゴブリンが戦闘不能に陥ったところで、ベヒーモスは気になっていた自身のスキルを使ってみることにする。
選択したのは《属性咆哮》。
いったいどんなスキルなのか。
スキル名を意識し、咆哮しようとしたところで、視界の端にいくつかの文字が羅列される。
==============================
《属性咆哮》:《フレイム・ハウリング》、《ウォーター・ハウリング》、《エーテル・ハウリング》、《ロック・ハウリング》
==============================
(ふむ。どうやらその名のとおり、属性にちなんだスキルを繰り出せるようだな。名前から察するにそれぞれ、炎・水・風・土といったところか。よし、ここは《フレイム・ハウリング》だ。どの程度のものか分からぬが一番威力があると見た)
「にゃん(《フレイム・ハウリング》)!!」
咆哮――と言うにはあまりに可愛すぎる声だ。
だが、スキルは発動した。
轟――ッッ!!
凄まじい音とともに、灼熱の咆哮がベヒーモスの口から飛び出した。
猛る炎の咆哮がゴブリン二体の体を包む。
すると僅かな時間で灰塵と化してしまったではないか。
「に゛ゃッ!?(幼体であるというのに、この威力だと!?)」
それはベヒーモスにとっても予想外の威力だった。
さすがはSランクモンスターであると言えよう。
(目的はない。だが生き抜こう。きっと我輩がこの体に産まれたのには、何か理由があるはずだ)
モンスターに産まれ、落胆したベヒーモスだったが、覚悟を決める。
「にゃ〜〜〜〜ん!!」
そして鳴き声を上げる。
それは咆哮――
後の世に語り継がれる、“最強の猫”による無双譚の始まりの咆哮だ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます