異世界ハードモーズ!
小林歩夢
異世界に召喚された俺がチート過ぎてハーレムを作るお話……だったらいいのにな
第1話 変態とポニ子ちゃん
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 異世界転移キタァァァァァァァッ!」
草が風で靡くだけの高原で、俺は拳を固めながら中腰姿勢で雄叫びを上げた。
別に現在戦闘シーンの山場を再現しているのではない。心の底から喜んでいるのだ。だから背景に覇気とかは出ないのでご了承ください。
なぜそんなに喜んでいるのか。
それは――たった今異世界転移をしたからだ。遠くに見える町が中世ヨーロッパの建築様式に似ていた様子から、そう判断した。
ちなみに異世界転移というのは、簡単に言ってしまうと自分の肉体のまま地球ではない他の世界へ飛ばされることを指す。というか俺はそうだと思っている。
ついに……ついにだ。ライトノベルの『異世界ファンタジー』に憧れること苦節一年。ここまでこれたのはたゆまぬ努力の成果だ。ありがとう神様!
この努力の一年間は一六生きてきた中で最も壮絶だった。
もしも異世界に行った時の為に、俺は数多のシミュレーションを重ねた。
かっこいい魔法の打ち方。
剣(おもちゃ)の素振り。
一番痛くないトラック事故死。
ハーレムを作った時の重婚の仕方などなど。
もし異世界に転移できなかったら暗黒の自分史に新たな一ページを書き加えることとなっただろう。しかし転移した今、俺は積み重ねた修行に感謝するしかない。まぁトラック事故死で転移したわけじゃなかったのだが。
他にもまだある。
異世界で役立ちそうな品物の数々を登山用リュックサックに詰め、いつ転移してもいいように肌身離さず持ち歩き、寝るときも抱き枕代わりとして使っていたのだ。おかげで背中には今にも破裂しそうなリュックサックが乗っけてある。
身だけではなく、転移する瞬間に触れていたものも一緒に移動する、という俺の推論はどうやら正解のようだ。だってそうだよね、主人公は皆服着てるもん。
とりあえず異世界に来たんだ。
俺は目いっぱい息を肺に入れる。
「この異世界でチートでハーレムしてやるっぜぇぇぇぇっ!」
そして全部吐き出した。高原のどこまでも、高らかな俺の目標が飛んでいく。
決してとち狂っているわけではない。確かにとち狂ってしまうほど嬉しいことだけど、そういう意味合いではないのだ。
これは異世界転移した者の運命と言うべきか、醍醐味と言うべきか。いいやそのどちらでもない。これは俺の使命なのだ! がっはっは!
「うるせんだよ!」
「痛ッ!」
突如後ろからお尻を棒のような何かで殴られた。……ってえ?
後ろを振り向くと人間族の女の子がいた。身長も歳も俺と同じくらいで、髪型はシュシュで纏めたポニーテール。うーん、これは近年稀に見るツンデレ少女というやつですね。
女の子は浮いた右足をそのまま地に置く。どうやら俺は足で蹴られたみたいだ。
「何なのさっきから『異世界転移だぁ』だの何だのって、気持ち悪い」
女の子は俺を「反吐が出る」みたいな蔑みの眼で見る。おいおい、気持ち悪いなんて表で言われたのは人生で初めてだよ。
「お、結構早めの第一町人だな。なんだ、俺のハーレムに入りたいのか?」
「あんたのハーレムに入るくらいだったら舌を噛み切って死んだ方がまだましだわ」
女の子は俺を「あんたを見るとアレルギー反応が出るわ」みたいな貶みの眼で見る。おいおい、死んだ方がましだなんて初めて言われたよ。
「ふーん」
「何よっ、そんなキモい目で見ないでくれる?」
俺は自信で満ち溢れた満面のどや顔を女の子に向ける。そうそう、皆はじめはそう言って、最終的には「ご主人様ぁ」となるんだよな。そそるね。
でもこの女の子は特に攻略難易度が高いようだ。でも俺の最強のチート能力でも使えばイチコロでしょ。急ぐことはない。
とりあえずこの世界を案内してもらおうかな。
「あの、第一町人さん――」
「私は町人じゃない!」
「え、違うの? じゃあ何、旅人か何か?」
もしくは僕をここに連れてきてくれた女神? そう言えばまだ登場してないな、テンプレだとそろそろ来る頃だぞ?
「……多分あんたと同じよ」
「は⁉ 異世界転移してきたってことか?」
まさか初期から仲間がいたとは……。『二人は勇者!』みたいな感じか何かか?
「ええ、異世界転移っていうのが理解できないけど、そうみたい。ねぇ、えっと、うーん、変態?」
「咄嗟に考えたにしても致命的なネーミングセンスだね」
「そんなことより! 変態、元の世界に戻る方法を知らない⁉」
俺の名前は変態で決定なのね。……しかしこのポニーテール勇者は何を血迷ったことを言ってるんだ?
「おいおいポニ子ちゃん。せっかくの異世界転移じゃないか、満足する他に方法はないだろ?」
お返しに君にはポニ子ちゃんという素晴らしい名前を授けよう。
「……なんでそんなこと言えんの? もともとイメージ最悪だったけど、本当に見損なったわ」
「は?」
ポニ子ちゃんは急に調子を変えて、歯を食いしばる。ついでに俺のネーミングセンスにもツッコんでくれなかった。
「突然行方不明になったら親とか学校の皆が心配するじゃない。あんただってそうでしょ?」
ポニ子ちゃんの悲痛な叫びが風に乗る。
その風は当然俺の耳にも入るが、脳が受け付けることはなかった。
「だったら異世界転移なんて望まねーだろ普通」
「う、ごめん」
まずい、思わず本音が漏れてしまった!
「あ、いやいや別にポニ子ちゃんに怒ってるわけじゃねーんだ。っていうかポニ子ちゃんが悪いわけでもないしな」
そうか。転移してくるやつが皆俺と同じ思いとは限らないよな。俺みたいな社会不適合者はこっちの世界にいる方が地球のためだけど、ポニ子ちゃんみたいな子にはこっちの世界が不適合か。
「あとそのポニ子ちゃんって言うのやめろ! ……ああなんで皆『帰りたくない』とか言うのよ……」
一応補足みたいな感じでツッコまれてしまった。なんだ、気に入ってくれたのかと思っちゃったじゃない――ん?
「ちょっと待て。転移してきたやつって他にもいるのか?」
初代プリキュアになるんじゃなかったのか俺たち。さすがに勇者ばっかだと俺が霞むから嫌だよ?
「転移って言うのがよくわからないけど、私たちと同じ境遇の人はいるわ。ほら、あそこにいる子たちよ」
ポニ子ちゃんは一本杉みたいな木の下を指さした。
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