第7話
[ブルー区・ギルド前の武器屋にて]
「なんだリアン、また壊したのか?」
深々と頭を下げ、金色の短髪が垂れ下がって仁王立つ男を隠しているのを感じながら弱い青年–––––リアンは「はい」とか細い声を出した。
リアンは頭を上げ、男の様子をオドオドと伺いながら、巾着から銅剣の柄を取り出し、腰に刺さった鞘と共に男に見せた。
「あぁ、まぁそんなとこだと思ったよ。だがな、今回ばかりは鍛えてないぞ、前はあらかじめ用意してたけどな」
「はい。あ、でも無料はやめて下さい、俺今回で結構稼いだので、サービスして貰うのは悪いです」
「なに、今回もタダでやるよ。なんてったって、おれ達ゃ友達よ。それに、命の恩人だからな」
「命の恩人」という言葉がリアンの胸に刺さる。スミレはリアンの命の恩人だが、この様な事は一度もしてやっていないのだ。今更罪悪感を覚え、リアンは肩を落としてしまう。
「それに、だ。今リアン落ち込んでるみてーだしな」
太っ腹な男は豪快にがははと笑ってリアンの丸まった背中を叩く。リアンは複雑な心境に駆られて思わず素直に頷いてしまった。
「そうこなくっちゃ!」
じゃあ待っててくれよ!とギルド附属武器屋の店主–––––デリダは奥の部屋へと走っていった。
あっという間に交渉が成立してしまった。リアンは呼び止める気力をなくしてしまい、沢山の小銭が入った巾着を揺らす。ジャラジャラと心地いい音を出すが、これはこの武器屋に献上されない。
しばらくすると、デリダが入った部屋からカーンカーンというけたたましい金属音が聞こえてきた。どうやら剣を鍛えているらしい。
また、その部屋から生暖かい熱気が入ってくる。
デリダは凄腕の錬金術師であり、また冒険ギルド附属の武器屋の店主である。
錬金術師である為剣を鍛えるのはあまり必要な事ではないと言われているが、丹念なデリダはそれを好まず、一から丁寧に剣を造っている。
そんなデリダは過去、リアンに助けられたという事があり、以降二人は引っ張っても切れない縁となった。その為リアンが持っていた上等な銅剣もデリダがタダで造り、差し出した物であった。
「上がるまでは一日は掛かるぜ!!家で待ってな、出来たら連絡する!」
熱気の正体である部屋から野太い大声が聞こえてきた。リアンは驚き飛び上がりながらも––––––大声で返事をした。
「はい!!ありがとうございます!」
デリダの作業場であるその部屋には、騒音で満たされている為、あらん限りの大声を出さないと聞こえづらいのだ。また、デリダはこうして叫んでいる間でも集中をして作業を行なっている。親友であるリアンは分かっていた。
リアンはデリダに感謝の意を込めて礼をすると、くるりと踵を返して店を出た。
♦︎
[ブルー区・冒険者ギルド受付にて]
押し開け式の扉を開けた剣使いは思わず立ち尽くしてしまった。
いつも冒険者達で溢れている受付だが、今は冒険者らしき人は一切見えず、確認できるのは「職員で入り乱れている」という事であった。
ルビーと現金を両替したり、冒険者の申請をしたりする受付の小窓は人混みで邪魔され見えない。
ブルー区にダンジョンのモンスターが出現した事件から数日が経ったものの、ギルドではまだきちんと運営が出来ていない状態にあった。
リアンはサナの姿を探した。
未だに現金の使い
受付はやっていないかもしれない–––––人で見えないが、この状況では運営がし難いだろう。
人々は慌てた表情で左右の部屋を行ったり来たりしている。時には走り、受話器を持ち、メモ帳を見ながら。
「こっち!申請!」
「分かりました……あ、はい!はい、了解です!」
「〇〇さーん!電話です!病院からです、十名の手当てが終わったそうです!」
「入院は出来ないんだろ?ならどう説明すれば……」
「分からん!頑張れ!」
グダグダだ……リアンでも分かった。
この事件があるから分かる通り、ここチャンプの国家は存在が薄くなっていて、商売は盛んだが、裏腹に事務(ギルドや役所など)の仕事は全く積極的ではなかった。
だが、国では世界最大規模を誇る航空機関が存在する(レッド区)。その為赤字は出していない。ほとんど商売や航空機関の運営に頼りきっているのだ。
リアンがこうして立ち尽くしていても、職員達は目にも止めなかった。
諦めたリアンはそのまま扉を開け、ギルドを去った。
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