甘やかす権利〜責任を取れと美丈夫武人に迫られました〜
阿野根の作者
プロローグ 庶民傭兵は美丈夫と出会う。
ついに婚姻証明書にサインしちまった〜
私は隣でそびえ立つ長身の武人を見上げた。
筋肉がつくべきところについたプラチナブロンドの短い髪の美丈夫がデジタルペンを置いて私を見た。
「これでお前を甘やかせる権利を得たな」
と甘く笑うその顔が見られず横を向くと帝都の役所の婚姻課の職員のおばちゃんに生暖かい目でニッコリとおめでとうございますといわれてそこはかとなくマントルまで潜りたくなったよー。
一夜の過ちの責任とれって言われた時、普通、男女逆だよね?と思ったけど……なんでこうなったのさ〜
格好良く正装をして甘く微笑む『夫』になった皇太子殿下近衛隊長、ナルフサ•アルゼミア•イーシスを見上げながら思った。
俺の心を奪った責任とれなんて言われても……
たくさんの星をゆるーい支配をしているソルレージェ帝国の生粋の武家貴族なナルフサとまあ、代々帝国に住んでて帝国籍は持ってるけどいろんな星人の血が入ってる完璧帝国庶民な私、ラン・ケルファーゼの接点なんて通常はどこにもない。
うん、通常ならね。
でも、何年か前にとある星で帝国に対する反乱があったんだよね。
そのときに正規軍とは別に駆り出されたのが我が『ケルファーゼ傭兵団』だった。
もちろん、雇われたのはうちだけじゃないんだけど、家は代々、それこそ帝国創世記からやってる老舗の傭兵団でさ、帝国になんかある時は最優先で頼まれる傭兵団の一つで団長のじいちゃんも張り切ってレーザー砲の点検とかしてた。
俺たちはどこぞの盗賊傭兵と違う、誇り高きゲルファーゼ傭兵団よ、ガハハと笑いながらおっちゃんたちも宇宙船の核融合炉のご機嫌伺いをしたり武器にエネルギーを充填したりしてた。
なんでも蒼いどっかの星系から大移住の長い旅に大昔出たときからついてきた大庶民な元軍人な家系らしく皇族の先祖神だっていう
準備万端でさ、戦場に行ってもちろん電子槍の調子も万端で……制空権を早々取り返したとある星の不思議な木々の間を浮遊機で飛んで反乱軍を追いかけて……まあ、いつもの血なまぐさい仕事なんだけどさ。
救いはこの星を支配してた三本足の美しい青い王族たちが反乱軍に全員やられてなかったことらしいけど、末端はよくわかんないなぁ。
ある程度、収まったところで帝国軍の方の陣営でまあ、休んだり打ち合わせたりするところで水分補給をしていたらガラの悪い、盗賊一歩手前みたいな連中に行き会ったんだよね。
「よ〜ねぇちゃん、商売か? 」
「いくらだい〜」
ジロジロと防御強化のバトルスーツを下から上までニヤニヤと見られた。
確かにフィット感満載な格好だけど上に傭兵団の黒い狼の横顔と翼のエンブレムがジャケットの背中と胸についてるけど?
下手に喧嘩すると正規軍の連中がうるさいかなと簡易の陣で話してる濃紺の軍服に
なんか高位の軍人っぽい人も来てるし面倒にならないようにしないとじいちゃんに怒られるもんね。
公認傭兵にもちっちゃい銀烏のホログラムがエンブレムの下についてるんだけどね、気づかないくらいのバカ無視していいよね?
帝国軍は福利厚生が良い、用意されてるスポーツドリンク系の飲みもんを飲み干して愛機の様子でも見に行こうとしたら肩をつかまれた。
「無視してんじゃねぇーよ、どうせどっかのジジイの愛人か戦場慰問にかこつけてきた娼婦なんだろう? 」
「私は傭兵だ」
汚い手を払って睨みつけた。
たぶん公認にもなれないフリーの賞金稼ぎな盗賊一歩手前にバカにされるゆわれはない。
こっちは産まれたときから、ケルファーゼ傭兵団を継ぐことが決まってする、筋金入りの『傭兵』なんだよ。
女傭兵は珍しいかもしれないけど、うちの団にもよく連携するアルセム傭兵団にもそこそこいるわー。
「嘘つくんじゃねぇーよ」
「どうせ、帝国軍のエリートを狙ってるんだろうが、相手になんてされねぇ……」
ニヤニヤと迫ってきたバカを殴り飛ばそうと拳を握った。
逆らうのかよ、俺たちゃ公認傭兵様だぜと嘘くさい銀烏の全然規定の大きさじゃないホログラムを見せた。
確実に公認傭兵じゃないだろ、タコ殴りにしてやる〜。
「貴様らはどこの所属だ! 」
力強い声が背後から聞こえた。
振り向くとそれこそエリート軍人の『武人』が着る長い黒い陣羽織とかいうのを着た、短いプラチナブロンドの髪に紫の瞳の精悍な美丈夫がこちらへ早足に歩いて来て私の前に立った。
「あーそれはあの……」
「この者に何用だ! 」
盗賊傭兵みたいのはタジタジに後ずさった。
所属も言えないなんてもぐりかい?
いるんだよね〜しらばっくれて適当に入り込んでさ、物資盗んでお縄になってちょんするやつ〜どっこが公認傭兵だよ〜。
公認傭兵って言えばモテるかもしれないけど、礼節とか品格とかの義務もある程度ついて回るんだからね。
「我が陣営の者を害することはゆるさん!! 」
若い武人は威嚇にさえ思える一喝を発した。
私でさえ震えが来たよ。
もぐりたちはすごい勢いで逃げていった。
武人がくるりとこちらを向いた。
整った端正な顔立ちに表情が見えず一瞬たじろいだ。
「ごめんなさい」
「すまん」
二人同時に謝って顔を見合わせた。
「なんであなたが謝るんですか? 」
「そなたこそなぜ謝る? 」
やっぱり同時に言ってなんか気があいすぎるなぁと思わず笑ったら武人も少し笑った。
「そなたは笑ってるほうが良い、すぐに助けられなくてすまん、恐ろしかっただろう」
女性にあのように迫るなどもってのほかだと少し眉を釣り上げて武人はもぐりが逃げた方をにらんだ。
「もう少しで殴りそうでしたよ」
「そうか? 今度は槍で遠慮なく攻撃するといい」
どうやら私の戦闘を見たらしいと少し嬉しくなった。
「所属はケルファーゼ公認傭兵団、ラン•ケルファーゼです、助けていただきありがとうございます」
「今回の総指揮であられるソラヒコ皇太子殿下の近衛のナルフサ•アルゼミア•イーシスだ、よろしく頼む」
丁寧に帝国式の礼をするとまるで令嬢のように手を取られて微笑まれた。
え、えーとよろしく頼まれても私は傭兵なのでたぶん関わりはないと思いますよ。
まあ、いいか、と目を上げると通信機の配信ニュースとかで見たことのある我が帝国ナンバーツーな漆黒の髪の美青年な武人……ソラヒコ皇太子殿下が腕組みして楽しそうにこっちを見てた。
殿下、護衛は? とナルフサ様が冷たい視線で皇太子殿下に向けた。
うん、誰かさんが出ていったものでね、良かったね。
どこかからかうように皇太子殿下が答えて、殿下……とナルフサ様が片方の眉を上げた。
「では、また」
「ありがとうございました」
ナルフサ様は私の手を何故か名残惜しそうに離しておおまたで皇太子殿下の元に歩いて行った。
良かったの? 殿下の護衛が先ですといいながら主従がさって行ったあとに、皇太子殿下に礼もしなかった……と気がついた、じいちゃんに知られたら怒られると思ったけど……まあ、しかたないよね。
またはないしねと思いながら愛機のところに戻った。
そう、もう会わないと思ってたんだよね。
うん、少なくともしばらくは普通の戦闘の日々だった。
「ただいま〜」
「おかえり〜ランたんも大っきくなったんだね〜」
とりあえず多少血なまぐさい様子である日、宇宙船が留まってるところに帰ったらガレージで飛行艇をいじってた整備士のガラのおっちゃんがニヤニヤ出迎えた。
赤ん坊時代から知られてるおっちゃんに大っきくなったっていわれても別に変じゃないけど……なんかあったって思うくらい奥の船室が騒がしい。
「どうしたの? 」
「良いから、早く団長のところに行っておいで、その前にシャワールームかな? 」
うちでも穏やかな部類に入るガラのおっちゃんは既婚で私より大っきい息子で傭兵のカイン兄ちゃんとディー厶兄ちゃんがいる。
ケルファーゼ傭兵団の中の良心と呼ばれてる人だ。
ちなみにディー厶兄ちゃんは昔から私の面倒をよく見てくれていて、一緒に組むことが多い。
でもこの時は偵察にサナンと行ってたんでいなかったんだ。
とりあえず、騒いでるところに直行した。
「ランー、おめー本当に女子力とかいうのがないなぁ」
なんで血まみれで入ってくんだ、ガラの役立たずと船室の床に直接座って合成クリスタルの高級そうな酒瓶からを直接口をつけて飲んで眼光鋭い筋肉老人なフィン傭兵団長……じいちゃんがため息をついた。
え? じいちゃんが女子力? なんか変なこといってるとキョロキョロあたりを見回すと屈強なおっちゃんや兄ちゃん傭兵の間に妙に目立つプラチナブロンドの頭を見つけた。
「あ……」
「ラン殿、おかえり」
プラチナブロンドの美丈夫が少し微笑んで手を上げた。
えーとエリート武人がなんでここで公認傭兵といえども荒くれもんのたまり場みたいなところに交じって酒飲んでんのさ?
「この間のことをナルフサさんが心配して差し入れもって来てくださったってーのになんて格好だ」
「
偵察のサナンを待ってたら襲ってきて、やばかったよ。
あとからサナンとディー厶兄ちゃんが駆けつけてくれてことなきをえました。
二人はまた偵察にでたけど、渡された情報は結構有益だからすぐにじいちゃんに送ったけど……
酔っぱらいだらけだよー。
ちなみに女性が少なく、女性を中心に一妻多夫を築くご家庭らしく、結構節操なく交配可能な帝国人の女性ははぐれ男に狙われるって通信機でさっき情報拾った。
女性はすごーく大事にされるらしいけど、食生活が合わなそうなので遠慮します。
虫とか虫とか虫とか……虫しかないんかーい。
まあ、ぷちって来たので血まみれで当たり前だけど、客人がいるんならシャワー浴びてくりゃよかったよ。
「色々、差し入れてくれたぞー、これなんか皇室御用達とかいう清酒、ぬば玉の星海だぞー」
じいちゃんがラッパのみしてた瓶を持ち上げた。
こっちは銀河の滝だぜと芋焼酎の瓶を持ち上げるおっちゃんもいた。
えーと、酒って普通グラスとかコップに入れるよね?
ポリポリと指で頬をかくとナルフサ様がいつの間にか隣にいた。
「可愛い顔が台無しだ」
格子模様の高級そうなハンカチが手渡された。
うわーバンダリーとかなんとかの蒼い星時代からあるという老舗の服飾ブランドのじゃないかー。
血だら真っ赤っかな顔を拭いたら復元できない。
「あの、シャワー行きますから」
「そ、そうか」
私が返すとナルフサ様はぎこちなくハンカチを握った。
このむっつりスケベ、何想像してんだよとおっさんたちになんかからかわれてたけど、極上の美人さんとかと
シャワーを浴びて帰ってくればじいちゃんたちは全滅撃沈してた。
平然と酒を飲んでるナルフサ様と持ってきてくれた高級柚子みかんジュースで乾杯して色々話した。
酒も飲むけどジュースが美味しそうだったんだ。
それ以来何くれと宇宙船に来たり、背中を任せて戦ったりしてるうちにナルフサ、ランと呼び合うようになり、育ちが良くて良い意味ですれてないこの高位武人を気に入った、傭兵団のおっちゃんたちも、傭兵団長のじいちゃんもあれは将来有望だ、逃すんじゃ無いぞと言ってた。
でも、エリート武人としがない傭兵団員に未来なんてないとその時は思ってた。
そして反乱軍を制圧して、ソラヒコ皇太子殿下が青色の三本足の美人な姫君を側室にもらって和平を結んで戦争は終わった。
帝国人は男性も節操なく交配できるので反乱軍を説得しようとして三本目の足を負傷した姫君に惚れたソラヒコ皇太子殿下のゴリ押しで決まったと聞いた。
世間様は帝国紀の純愛とか言ってたけど、ナルフサに会いに行ったらなんか濃い口づけしてる二人を見ちゃったから大人ななんたらなんじゃとちょっと思った。
ともかく、あいつも私もそれぞれの場所に帰って行った。
うん、それから何年も何年も通信機でメールしたり、電波がいいときに
実際には全く会えなかった。
まあ、大庶民の私と高位貴族のナルフサはそれこそ戦場でも無いと会えないのは当たり前なんだけどね。
でも寂しいなぁ……またいつか実際に会えるといいなと思いながら何年も立っちゃったんだ。
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