外伝第27話 四季廻る




 虹色の髪と瞳に、背中に生やした白い羽、頭に浮かぶ金色の輪。

 天使を思わせる中性的な顔立ちの小柄な神は、リードに繋いだ黒猫と共に鼻歌交じりに散歩する。


 軽い鼻歌は、それでも美しい音色を奏でる。

 鳥が、獣が、ちらほらと小さな神の後に続く。

 神の通った道は雪が少しだけ溶けて、僅かに草花が顔を覗かせる。


「ふんふんふん♪」

「お前も歌が上手であるな。」

「そうかな~? ハルの真似してるだけなんだけどね~。」

「ハルよりは下手である。」

「ははは、生意気だな~。」


 喋る黒猫と共にそんな会話を交わしつつ、神は黒猫と動物達と共に行進する。

 そんな行進の脇を、一陣の風が通り抜ける。 


「おやおや、四季ちゃんじゃないか。」


 風は神に声を掛ける。


「こんにちは~!」

「こんにちは。元気でよろしい。どこにいくんだい?」

「ちょっとお散歩してるんだ~。」

「そうかい。風邪引かないようにね。」


 風はくすくすと笑い声を鳴らし、ひゅるると神の元から飛び去っていく。

 飛び去る風に神が手を振れば、風は粉雪をくるりと舞い上げ、手を振り替えしたように見えた。


 黒猫と一緒の神の散歩。すれ違うのは他の神々。

 新参者であり、この世界を危機に追い込んだ神は、最初は他の神々に恐れられた。

 しかしいざ形を成せば、愛らしい子供の姿と気の抜けた性格や人当たりの良さから次第に神々にも馴染んできた。神は可愛いものと子供が好きらしい。

 散歩で出歩く範囲ではあるが、ここらで出くわす神々とは挨拶を交わす仲になっている。


 神が散歩をすれば、辺りは少しだけ暖かくなる。

 何度も何度も鼻歌交じりに散歩をしてきて、今ではかなり暖かくなってきた。

 すれ違う神々も増えてきた。次第に起きてきた神も増えてきたらしい。これはこの神だけの力ではなく、根気強くあちこちの神々に挨拶回りをしている巫女のお陰でもある。

 世界の危機から脱した世界は、更にその先へ、少しずつ少しずつ変わってきている。


「ぽかぽか陽気が恋しいね。」

「そうであるな。」

「だけど暖かくなったら、コタツはしまわなきゃだね。」

「それは寂しいのである。」

「まぁ、またいつか冬は来るから。」

「待ち遠しいのである。」

「ボクらは寒いの嫌いなのに、おかしいね。」

「そうであるな。」


 元々は同じものだった神と黒猫はそんな会話を交わしながらステップを踏む。


「四季は廻るよ。どんな季節も去って行くし、またやってくる。」

「寂しいのは少しだけなのであるか?」

「そうだね。人の別れも同じだったらいいのにね。」

「同じではないのか?」

「どうだろうね?」


 神は身体を揺らして天を仰ぐ。


「答えは神のみぞ知る、ってね?」

「お前は神であろう?」

「そうだったね。」


 きしし、と笑って神は前を向く。


「お腹も空いたし帰ろうか。」

「賛成である。」


 神と黒猫は帰路につく。

 気ままに鼻歌を歌いながら。




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