第77話 滅亡した世界にて
見た事もない光景を見たアキは感嘆の声を漏らす。
「…………すごい。」
見上げる程に高い建造物。見た事もない建材で造られた継ぎ目すらない巨大な箱のような建物が無数に並び立つ。
道は土でも雪でもない、石にも見えず、鉄とも思えない不思議な材質で塗り固められている。
それがどれ程の技術で造られたものなのか、詳細を知らないアキでも分かる。これ程の硬度の建材を自在に、巨大に、滑らかに加工する文明は、アキのいる世界・デッカイドーよりも遙かに進んだものであろう。
周囲に生命の気配はまるでない。不気味なまでの静寂が、その奇妙な世界を包み込んでいた。
唯一息をして音を立てるのは、アキと隣に立つ魔王だけ。
絶滅した世界にて、魔王は寂しげにぽつりと呟いた。
「此処がシキによって滅ぼされた世界。名前すら失った世界の慣れの果てだ。」
アキと魔王が訪れたのは、シキによって滅ぼされた名も無き世界。
二人が此処を訪れたきっかけは、ほんの一時間ほど前に遡る。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔王城をノックする小さな音。魔王は「開いてるぞ。」と一言声を掛けた。
ドアの向こうの相手は分かっている。
ドアを開いて入ってきたのは、小さな勇者アキであった。
アキは素早く魔王城に入り、帽子やマント、杖を慣れた様子で置くとコタツにささっと入り込む。
「資料が手に入ったというのは本当ですか?」
「ああ。これだ。」
魔王は一つの紙袋をコタツの上に置く。そこにはぎっしりと紙の資料が詰まっており、アキはさっそく紙袋を引き寄せると、中に詰まった紙束を取り出した。
それに合わせて、魔王はコタツの上に一つのケースを滑らせる。アキは突然送り出された謎のケースを手に取ると、魔王は同じケースを取り出し、中から取りだした不思議な物体を耳に乗せるようにして顔につけた。
透明なガラスのようなもの目を覆い隠す謎のアクセサリーを見て、アキはケースを開く。そこには魔王が装着したものと同じものが入っていた。
「それは一体?」
「"通訳眼鏡"と呼ばれる装置だ。同じように掛けてみろ。異界の文字でもお前の言語で翻訳される。」
半信半疑と言った様子で"通訳眼鏡"なるものを、アキも真似して掛けてみる。
そして、取り出した資料を見れば、確かに見た事もない文字の意味が不思議と読み取れるようになっていた。
"通訳眼鏡"を外して、アキは資料を見てみる。すると、見た事もない文字は再び読めなくなる。
手で"通訳眼鏡"をくるくると回して色んな角度から見ながら、アキは感嘆の声を漏らした。
「……あなたの持ち物は何から何まで不思議でしたが、これもまた凄いですね。どういう仕組みなんです?」
「専門家じゃないから説明はできない。ただ、それは"滅びた世界"で見つけたものだ。シキを造った"思念エネルギー"というものを応用した装置らしい。」
資料よりも"翻訳眼鏡"に興味津々といった様子のアキだったが、一頻り眺めても仕組みは理解できないと分かり、諦めたようにかけ直す。
そして、魔王に渡された資料を手に取って目を通し始めた。
ぺらぺらと、まるで紙の枚数を数えているだけにしか見えない速さでアキは資料を捲っていく。捲るために口を僅かにボソボソと動かしている様子を見て、魔王はきょとんとして尋ねる。
「え。お前、それ読んでるのか?」
「見れば分かるでしょう。読んでるんです。邪魔しないで下さい。」
「あ、ああ。悪い。捲るの早いから驚いただけだ。」
「昔から本を読むのが早いとは言われます。」
喋りながらもアキは次々と資料を捲っていく。
凄腕の魔法使いという事は魔王も何となく知っていたが、思っていたよりも天才といえる人物だと改めて思い知る。
それ以上は邪魔になるかと思った魔王は、黙ってお茶を淹れて待つ事にした。
資料の端まで捲り終えると、アキは資料を纏めて紙袋に仕舞い直した。
そして、後方に降ろした荷物の中から紙とペンを取り出すと、さらさらと何かを書き出していった。
「もう読み終わったのか?」
「まぁ。ちょっと覚えづらい箇所だけ書き取らせて下さい。手でも覚えますので。」
素早い手つきで細かい文字列を書き記すと、アキはよしと納得したように頷いて、紙を折りたたんで後ろに放り投げた。
「資料はこれで全部ですか?」
「俺も内容が分からないから、とりあえずシキの研究を行っていた施設の紙媒体を可能な限りかき集めてきた。何か足りないか?」
「大方の内容は文脈から理解できましたが、専門用語が多すぎて詳細な把握は無理ですね。最先端の論文や研究資料みたいなので、素人が読むものじゃありませんよ。」
「やっぱりそうか……。役に立たなさそうか?」
「もっと初歩の入門書のようなものがあればいいのですが。」
「俺にその選り分けは無理だな……。」
そう言いつつも、魔王は割と感触としては悪くないと感じていた。
アキも「まるで理解できない」という訳ではなく、大方の内容は理解できており、それを詳細に理解する為には何が必要なのかは分かっている。
シキの研究についての詳細を理解できる研究者がいない今、アキがその研究を理解できる存在となる事はきっとシキ対策の大きな要素になる。
この場で資料を集められないと諦めるには惜しすぎる。
「……アキ。お前に迷惑で無ければ一つ提案がある。」
魔王はそこで一つの選択肢を思い付いた。
「俺と一緒にシキが生まれた……滅亡した世界に来ないか?」
アキは思わぬ提案に目を丸くする。
「滅亡した世界って……そこは行っても大丈夫……って、資料をあなたが持ち帰っているなら大丈夫なんですね。」
「ああ。滅亡したと言っても、世界が消し飛んだという訳じゃない。あくまでその世界からあらゆる生命が消え去ったというだけだ。」
「だけって……。」
とんでもない事をさらりと言ってのける魔王。
信じがたい話にアキはごくりと息を呑んだ。
「今はもう危険はない。俺も何度か出入りしたしな。あちらに行けば研究施設以外にも資料を探せるし、俺が持ち帰れなかった電子データなんかも閲覧できる筈だ。」
「でんし……?」
「持ち帰れない"形のない情報"だと思って貰えればいい。とにかく、そういう持ち帰れないものもお前に見て貰うことができるかと思う。」
魔王が持ち帰ったのはあくまで"持ち帰れる資料"のみである。
シキ関連だと分かる施設からの紙媒体の資料のみを持ち帰っている為、その他無尽蔵に散らばった無関係に思えた資料や、電子媒体のデータなどは持ち出しを断念している。
直接あちらに行けば、アキはそれを見ることも探すこともできるかも知れない。
「異世界に、それも滅びた世界に渡る事が不安、気味が悪いと思うなら無理強いはしない。世界を渡る事に違和感や嫌悪感を感じる人間が居ることもまた事実だ。だから、アキの意思に任せたい。」
「行きます。」
即答だった。
確かにアキも不安はあった。
しかしそれ以上に、魔法という分野の研究者として、未知なるものへの興味が強かった。アキは二つ返事で魔王と共に滅びた世界に渡る事を決めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
生命が全て消え失せた世界で、アキは目を輝かせていた。
まだ研究施設内に入っていない内から、滅びたこの世界の文明が如何に高度であったかが分かったようだ。
魔王はそんなアキの近くで、一つの大きな石碑のようなものに視線を落とした。
「ここら一帯の土地は最先端の技術を取り扱う研究区画らしい。」
「コタツとかアイスとか不思議なものばかりなのも納得です。此処まで高度な文明からあなたは来たのですね。」
「いやいや。コタツとかアイスはもっと前の時代の文明だよ。ここは俺が元居た世界よりも明らかに発展してる。」
「世界をひとつ跨ぐだけでここまで違うんですね。」
魔王は石碑に色々と目を通している。何やら地図のようなものが書かれた石碑に、アキも魔王から借りた"通訳眼鏡"を通して、同じものを見た。
「今は何をしているんですか?」
「これは研究区画の地図だ。研究棟の名前だけはこれを見れば分かるからな。アキも気になる研究棟はないか?」
「気になるものと言われたら、全部気になるんですが。」
「気持ちは分かるけどな。」
「うーん……強いて言うなら此処ですかね。」
アキが指差したのは「思念エネルギー第一研究棟」なる箇所であった。
シキを形作ったと言われる思念エネルギーなる未知の要素。
「分かった。どうする? ゲートで直接向かうか、少し歩くか。」
「歩きましょう。この世界を少し歩いてみたいです。」
地図を元に魔王とアキは区画内を歩いて行く。
同じような外見の無数の建造物、遠くに見える大きな建造物等を見渡しながら、アキは感心したように呟く。
「それにしても凄いです。一体どれ程の文明がこの世界にはあったのでしょう。」
「俺が見てきた世界の中でも屈指の高度文明だと思う。」
「私の想像していた滅亡した世界というものとはまるで違っていたので驚きましたよ。」
かつてあった文明は傷ひとつ無くそのまま残されている。
生命だけが綺麗に消えて無くなった世界には、生命の痕跡はなく、殺戮があったような荒れ方すらもなかった。ただ、何もいないのだと感じさせる静寂のみがあり、この世界が生きていないことを実感させる。
「シキはこの文明を壊せなかったのでしょうか? あるいは、文明は残して生命だけを消し去ったのでしょうか?」
「過去の記録を見るに恐らくは後者だ。生命のみをシキは消し去った。」
つくづく恐ろしい存在だと魔王は思う。
文明による防壁もすり抜けて、消し去りたいと願った対象のみを綺麗さっぱり痕跡も無く消し去ってしまう。
綺麗な筈の残された世界が、むしろ恐ろしく見えてくる。
歩いても歩いても代わり映えしない景色を通り抜けて、やがて二人は目的としていた「思念エネルギー第一研究棟」なる建物に辿り着いた。
入口はガラス張りの壁に塞がれており、間に細い割れ目はあるものの開くための取っ手などもない。傍らには何やら不思議な装置が置かれており、アキは興味深そうに入口を見た。
「どうやって入るんですか?」
「何かしらの操作で通れる自動ドアだと思う。まぁ、俺には関係無いが。」
魔王がガラス張りの自動ドアに指を向けると、そこに人が通れる穴が空く。この世界に来たときにも使った魔王のゲートである。
魔王が先にゲートを潜れば、アキも続いてゲートの中に入った。
建物の中は無機質な金属らしきもので出来ており、外と同様に生命の気配は一切感じられない。
入口の壁にはパネルが貼られており、そこに館内のものと思われる地図が描かれている。第一や第二といったナンバリングの研究室しかなく、各研究室の研究内容までは分からなかったので、此処からは総当たりで見るしかないようである。
「骨が折れますね。これは確かに資料を探してくるだけでも大変そうです。」
「シキ関連の研究棟を見て回るだけでも大分時間が掛かったからな。あちこちにロックが掛かってなければ人手も増やせるんだが。」
「あなたの能力でないと出入りすら難しいと。」
調査も一筋縄ではいかないようである。
とりあえず、魔王とアキは施設の研究室とされている部屋を順番に見て回る事にした。
第一研究室。一階にある相対的に見ても大きい部屋。
魔王がゲートを開けて扉を潜れば、そこにはアキが見た事もないような不思議な装置がずらりと並んでいた。
「もう訳が分からないですね。」
「俺もパソコンくらいしか分かるものがない。」
魔王は研究室内を歩いて行き、パソコンなども触ってみる。
この世界にかつて来た魔王は、既に電子機器の類いは正常に起動することは確認している。
この世界は人間が居なくなって滅びたものの、発電施設や機械等は未だに変わらず稼働している。人間の手が無くともある程度は維持できる設備があったのだろうと魔王は考えている。
アキは魔王の起動したパソコンを脇から覗き込む。
「ここもダメか。」
「ダメ、というのは?」
「パスワードが掛かってる。他の研究室でもロックの掛かっていない端末がないか探してはみたが、どこもダメだった。」
「……ああ。誰にでも使えないように制限が掛かっているのですね。」
パソコンから情報は取得する事はできない。
続けて魔王は、部屋の隅に置かれた箱の方に向かって手を乗せる。
すると、箱の上にパネルが浮かびあがり、そこにはズラズラと文字列が現れた。
「閲覧制限の掛かっていない電子データらしい。制限がないなら大したデータではないかと思うが……。」
「ちょっと私も触ってもいいですか?」
「ああ。俺は他も見てみるから。」
アキに端末を譲ると、魔王は研究室の中を見る。
並んだデスクやパソコン、操作だけはできた不思議な端末等々、色々と触って見ていく。触ると動くものもあれば、触っても動かないもの、何かしらのロックが掛かっていて制限のあるものなど様々である。
一応デスクの中なども探す。流石に研究機関という事もあり、ロックパスワードなどを仕舞っているという杜撰な管理はしていない。書類なども入っている事もあるが、魔王にはさっぱりな内容ばかりであった。
アキは先程魔王が触った端末を手探りで触りながら操作している。
最初は恐る恐る触っている様子だったものの、魔王が部屋を見て回っている間に次第に手慣れていくのが遠目に見ても分かった。
とはいえ、魔王がかつていた世界よりも文明は遅れている世界出身のアキでは、こういった装置から多くの情報を引き出すことはできないだろうと魔王は期待半分で見ていた。
やがて、アキが一通り端末を触り終えたようで、魔王の方に戻ってきた。
「何か分かったか?」
「第五研究室に向かいましょう。」
「まぁ、分からなくてもしかた……え?」
「第五研究室で過去に何度か新人研修を行っていたという記録がありました。もしかしたら、新人向けの教育資料がそこにあるのかも。」
「え? お前、あそこのデータで何か分かったのか?」
「研究記録が保存された端末ではないようでしたが、各員のスケジュール等の共有情報を書き込む端末だったようです。」
魔王は唖然としていた。魔王が弄っても出てきた情報の解読や意図がまるで理解できなかった。それをあっさりとアキは解読したという。
「ほら。扉はあなたしか開けられないんだから。行きましょう。」
「あ、ああ。」
魔王はアキに言われて付いていく。
第一研究室を出て、マップにあった三階の第五研究室へと向かう。
第五研究室に入ると、いくつか先程も魔王とアキが触った端末が並び、他にはデスクや見た事のない危機などがずらりと並んでいた。
アキは魔王のゲートで部屋に入ってすぐに、並んでいる端末のひとつに手をかざす。すると、先程と同様にずらりと文字列が現れた。
続けて、アキはデスクに置かれているヘルメットのような装置を手に取り、迷う事無くそれを頭に被せた。
「あっ、おい! それ大丈夫なのか!?」
「教育用の機械みたいだから大丈夫ですよ。」
突然得体の知れない機械を頭にはめたアキを見て焦る魔王。
そして、大丈夫と言いながらヘルメットの横にあるスイッチらしきものにアキが触った。
次の瞬間。
「わっ!!!」
アキが声を上げる。慌てて魔王が駆け寄る。
「おい!」
「あっ、大丈夫です大丈夫です。初めて体験したのでびっくりしただけで。」
「何があったんだ?」
アキはもう一度被ったヘルメットを外してしまった。
一瞬の出来事だったので、何が起こったのかは魔王にはまるで分からない。
アキは目をキラキラとさせて、興奮した様子でヘルメットを置き直した。
「成る程……! "思念エネルギー"、そういう事なんですね……!」
「な、何か分かったのか? 今ので?」
「第五研究室は"思念エネルギー"を利用した学習機能の研究を行っていたみたいです。この研究棟に入る新人研究院の基礎学習も兼ねていたようですね。」
アキは興奮気味にぐっと拳を握る。
「次! 次は第二研究室に行きましょう! 片っ端から研究室を見て回りましょう!」
「お、おいおい! 俺全然ついて行けてないんだけど!」
「この研究棟を一通り調べたら、次はシキ関連の研究棟にも連れていって下さい! "思念エネルギー"研究の知識をある程度蓄えたら何か分かるかも!」
「ちょ、ちょっと待てって!」
興奮気味のアキを一旦魔王は宥める。
「お前大丈夫か? さっきので変な影響受けてないか?」
「大丈夫ですって。あなたも被ってみれば分かりますよ。」
「……いや、怖い怖い。」
「だったら、私だけ調べればいいですよね?」
「そうじゃなくて。何があったのか説明してくれ。」
さっぱりヘルメットを被ったアキに何が起こったのかを理解できない魔王。
アキは不安がっている魔王を見て、少し落ち着きを取り戻したらしい。
「ああ。ごめんなさい。一人で突っ走ってましたね。あの学習端末を通して"思念エネルギー"の基礎学習ができたんです。」
「あの一瞬で?」
「そうです。シキの研究資料であれこれ想像してたんですが、どうにもしっくりこなかったところが、実体験してようやくピンと来たんですよ。」
「実体験……?」
「あの学習端末は"思念エネルギー"を用いた"瞬間学習"を施すものなんです。」
「瞬間学習?」
「一から説明すると話が長くなるので、出来ればその装置を使って貰った方が早いと思いますよ。それが嫌なら調査が終わって帰ってからにしませんか?」
「あ、ああ。じゃあ帰ってからで……。」
端末を弄って情報を見る程度なら魔王も大丈夫だが、流石に頭に知らない装置をはめるのには抵抗があった。
そういうことを一切気にしないアキは、よし、と仕切り直して再び目を輝かせる。
「それじゃあどんどん見ていきましょう!」
まるで遊園地のアトラクションでも楽しむように、アキは滅亡した世界の研究機関を見て回る。
魔王は椅子に腰掛けて深く息を吐いた。
「…………はぁ。」
「どうしたんですか?」
「…………疲れた。」
「体力無いですね。」
「……しばらく運動してないからな。」
「おっさんみたいな事言いますね。」
「いや、おっさんなんだよ。たまの休みに子供に遊園地で引っ張り回されるお父さんってこんな気分なのか。」
「誰が子供ですか。」
あちこちの研究室を歩き回って、アキは調査を続けた。
それについて回る魔王はすっかり疲労困憊である。
魔王は移動には便利なゲートに大体頼っていて、普段あまり運動しないので体力がないのである。
「ちょっと休憩。飲み物とかいるか?」
ゲートを開いて手を突っ込み、魔王は何本かのペットボトルを取り出す。
それを見たアキも椅子に腰掛ける。
「変わった容器ですね。」
「どうせ甘いのが良いんだろ? ミルクコーヒーとかでいいか?」
「どうせってなんですか。まぁ、甘いのがいいですけど。」
ペットボトルを受け取って、アキは魔王の手元を見て真似しつつ蓋を開ける。
そして、同じく魔王を見ながら、ペットボトルに口をつけた。
「んっ!」
「どうした。」
「美味しい!」
「そうか。」
一息ついて、窓の外を眺める魔王。
文明のみが残された静かな世界。魔王の視線に合わせてアキも外を見る。
「不思議ですよね。誰も居ないのに、設備は全部生きてるなんて。」
「インフラを自動で管理するシステムでも整ってるのかもな。人間が居なくても管理できるような技術が発展しているんだろう。」
「目に見える範囲には、草木もなければ小さな虫も見掛けませんでした。人間以外の生命も全て消えてしまったのでしょうか。」
「……この世界全てを見た訳ではないが、少なくとも見た範囲では見掛けなかったな。」
ごくりと一口コーヒーを飲み、アキはぽつりと呟いた。
「やっぱりおかしいですよね。」
「なにがだ?」
魔王が尋ねる。
「何となく違和感があるんです。」
「違和感?」
「……また集めた情報を整理できたらまた話します。」
アキはペットボトルの蓋を閉め、よっと椅子から立ち上がる。
「さ、もうひと頑張りしましょう。これ、飲み物持ち歩けて便利ですね。」
「ペットボトルって容器だ。あー、よっこいしょ。」
「おっさん臭い掛け声ですね……。」
「だからおっさんなんだって。」
アキと魔王は滅亡した世界を引き続き探索する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます