第64話 英雄王ユキ
女神ヒトトセに選ばれデッカイドーに転生した三人の勇者。
"殺戮の勇者"ゲシ、"闘争の勇者"トウジ、"束縛の勇者"うらら。
この世界では勇者に指名されず、便利屋稼業を営んでいた奇妙な力を持つ怪人達は"イレギュラー"と呼ばれていた。
文字通りどこか外れた三人組の前に現れたのは、かつて世界の危機を救ったと言われる前任の勇者であり現在国を治める立場にある王であった。
"英雄王"ユキ。
それなりの年齢である筈が、若い青年にしか見えない若々しさ。
金髪、赤い眼、雪のように白い肌の中世的な顔立ちに、人の良さそうな柔和な笑みを浮かべて、英雄王ユキはイレギュラーの拠点の小屋の椅子に腰掛けていた。
「ど、どうぞ。」
「あぁ、お気遣いなく。急に訪ねてきてしまって悪かったね。」
ゲシが緊張した面持ちで差し出したお湯を遠慮しつつ、ユキは気さくな笑顔を浮かべた。
無軌道者の集まりであるイレギュラーでも、流石にこの国の王様が訪れたとなると驚きもするし緊張もする。ついでに、同伴してきた勇者"
「いやぁ、家臣には止められたんだけどね。ご迷惑をお掛けした相手に大軍を連れて行っても警戒されるだろうし、使いを出したりお越し頂くのは失礼に当たるかなと思って。責任者である僕自らが訪れるべきかなと。」
「そ、そんな畏れ多い……。」
「ははは。緊張しなくていいよ。僕もずっと公務やら何やらで窮屈な思いをしてたからね。運動できて良い機会だよ。」
大らかに笑い、肩を回しているユキを見て、イレギュラーの三人もハハハと苦笑いした。
そして、今度はユキはトウジの後ろに隠れている預言者シズに視線を向ける。
「そして、同じように窮屈な思いをさせてしまってる子がいたと聞いてね。直接謝るべきだと思って来た訳だ。」
ユキは椅子を立ち、預言者シズに向かって頭を下げる。
「本当に申し訳無い。預言の管理周りは全て預言者一族に一任していて、預言者一族内部で起こっていた問題に気付かなかった僕の責任でもある。心からお詫び申し上げる。」
「そ、そんな……!」
王に頭を下げられたシズはあわあわと慌てた。
預言者一族内部に生じていた闇の部分。
国の行く先も左右する預言を都合良く利用し、大きな影響力を得る。都合の悪い預言は揉み消し、思い通りにならない預言者の強制的な引退等々、預言者一族長を始めとした上層部が利権を貪っていたという。
王を始めとして国はその裏の動きに気付けなかった。
とある噂が流れた事でその事実は明るみになり、調査隊によって事実だと確認されたのである。
ユキは頭を上げて、シズの目を真っ直ぐに見る。
「今後は君の意思を尊重して、預言者のあり方も見直していくつもりだよ。まぁ、そこら辺は良い具合にやっていくんで。追々ね。追々。」
「い、良い具合に?」
「ごめんね。そういうの疎くてね。まぁ、良い感じに。僕も話し合いの場とかには入って頑張るから。」
「は、はぁ……。」
ははは、と笑うユキ。気さくさやふわっとした物言いが一国の王である事を思わせない。続いて、ユキはゲシの方にも向き直る。
「君達にも世話を掛けたね。シズちゃんを助け出してくれたんだって?」
「い、いやァ……まァ、はい。」
「本当に申し訳ない。僕がしっかりしてれば、君達にも無理させなくて済んだんだけどねぇ。いやぁ、本当に面目ない。」
「い、いやいや。こちらで勝手にやった事ですンで。」
そして、今度はうららの方を見て。
「君は色々と酷い目に遭わされたとか。本当に本当に申し訳ない。」
「い、いえいえ。別に気にしてませんので。」
最後にトウジの方を見て、ユキはにっと明るく笑った。
「君が一番最初にシズちゃんの異変に気付いて外に連れ出そうとしてくれたんだよね? 君の動きがなければ僕も問題に気付けなかった。本当に感謝する。ありがとう。」
「あ、あー……。」
トウジがそもそも動いたのは預言者に預言の内容を確かめるから……であったのだが、どうやら違うように伝わっているようで、しかしこの場で訂正する勇気もなく、トウジはへこりと会釈した。
一通りその場に居た者に伝えるべき事を伝えた英雄王ユキは、パン!と手を打って「よし!」と頷く。
「言いたい事は全部言った! ナツもすまないね。無理言って付いてきてしまって。まぁ、彼らも大軍を連れて言ったら戸惑うだろうし、かといってどうでもいい使者を送るのも失礼かと思ったからね。」
「……い、いや、王が直接来る方が戸惑うかと思いますが。」
「それもそうか! いや、そう肩肘張らなくて大丈夫だよ? 所詮成り上がりの王だから、そこら辺のおっさんと思ってくれていいから!」
その場に居る全員が「そんな風に思えるわけないだろ」と思ったのだが、突っ込めずに苦笑いした。
かつて勇者として世界を救い、その功績から庶民の身分から王にまで登り詰めた王"英雄王"。その気さくさや軽さはそれ故のものなのか。
おっさんというには若々しい見た目のユキは「さて!」と再び手を打った。
「一応、お詫びとお礼の言葉を伝えたので、此処からは事務的な? 形式的な? うん、まぁ良く分からないけどそんな感じの話だ!」
ふわふわの自分の物言いにハハハと笑い、ユキは人差し指を立てる。
「まず、君達は預言者一族の施設に侵入した、という事で罪に問われるのでは? と思って身を隠していたと思うけど、そこは不問! 王様が保証するよ!」
その一言を聞いて、最初にほっと胸を撫で下ろしたのはシズであった。
自分のせいでイレギュラーの三人が罪に問われる事はシズにとって心苦しい部分であった為、そこが解消されたのは彼女にとって一番嬉しい事であった。
元々、喧嘩する気満々だった三人も、少し遅れて、ほっと肩の力を抜いた。
「まぁ、本当は君達が主体となってシズちゃんを助けてくれたとナツからは聞いてるんだけど、部外者が勝手に突入した~、ってなると、なんかその、あれだ。捜査過程? 手順? だかなんか良く分からないけど、大臣とかがうるさいから『ナツが勇者権限で調査していて、その協力者だった』って事で表向きは処理したいんだ。本当に君達には申し訳無いんだけどね。」
ふわふわな物言いだったが、何となく言わんとしている事は分かったので、ゲシはいやぁと首を振った。
「いえいえ。こっちもマズイ事してる自覚はあるンで。罪に問われないだけ有り難いです。」
「君は、えっとゲシ君は謙虚だなぁ! まぁ、表向きはそう処理するけど、きちんと事実関係は把握してるつもりだから! きちんと形のあるお礼はさせてもらうよ!」
はっはっは!と豪快に笑って、ユキは指でピースを作りました。
「それで、これがふたつ目なんだけど。今回の君達の功績に対して、ご褒美をあげたいと思ってね。表向きもナツの協力者って事になってるから、遠慮無く受けて欲しいんだけど。というか受け取って貰わないと僕の気が済まないというか。遠慮するのはなしで!」
「は、はぁ……と言われましても。」
イレギュラーの三人は顔を見合わせる。
一応、現状でも自由気ままに生きているのでコレと言って欲しい褒美も何もない。
困っている三人の顔を見て、ユキはにっと笑って手を打った。
「まぁ、それは追々ね。出来る限り君らの望むものを贈りたいと思ってるからね。そう難しく考えずに。一旦そこは置いとこうか。」
そして、ユキは三本指を立てる。
「そして、最後に。これは君達に対するお願い事になるんだけど。」
ユキは三本指をイレギュラー三人に向けてにっと笑った。
「君達を、新たな勇者に任命したい。」
三つ目のユキからの"お願い事"に、三人揃って目をぱちくりとさせる。
その反応を見たユキが、逆に意外そうに目をぱちくりとさせた。
「……あれ? シズちゃん、預言伝えてないの?」
預言者シズの方を見て、ユキが不思議そうに尋ねる。
すると、シズは「えっと」と少し申し訳無さそうに答える。
「い、一応お伝えはしたんですけど……わ、私も取り乱してて上手く伝えられたかは……あ、陛下はご存知なんですか?」
「まぁ、預言者一族の書庫に調査入れたからね。揉み消そうとしてた内容も把握してるよ。うん、分かった。じゃあ、一から説明しとこうか。」
うむ、と納得した様にユキが頷く。
「まぁ手っ取り早く言うと。ゲシ、トウジ、うらら、君達三人を勇者に任命する預言があったので、預言通りに勇者に任命する! ってな感じの事だね。今の勇者、ハル、ナツ、アキの三人に加えて、六人が勇者になるね。」
さくっと一通りの説明をしていくユキ。
それを聞いたゲシが、手を挙げる。
「ちょ、ちょっと宜しいですかね?」
「はい、ゲシ君。なんだい?」
「預言ってェのはアテになるモンなんすかね? 俺ァ今ひとつピンと来てなくて……。あっ、別に預言者サマを疑ってる訳じゃねェんですよ? ただ、俺らが勇者って言われてもピンとこないし、何をしていいのかそもそもさっぱりで……。」
勇者に任命される事に対する疑念と懸念をゲシは語る。
自分達が勇者と言われてもピンと来ない、という言葉にトウジはぴくりと眉を動かすが、確かに「勇者とは何か」をそもそも分かっていないので余計な口を挟まずにいた。
その質問に、うんうんとユキは感心したように頷いた。
「君はしっかりしてるねぇ。昔、僕が勇者に任命された時はあれこれ考えずに手放しに喜んでたよ。馬鹿だったなぁ。うん、そうだね。何をするのか分からないとピンと来ないよね。」
ユキはパンと手を打った。
「『世界の危機を救って欲しい』、っていうのがお願いしたい事だね。」
「世界の危機……ってェ言うと、魔王を倒せ、とかそういう事なんですかね?」
「そこら辺は……そうだなぁ。話していいのかな? ナツ、どう思う?」
「……えっ? い、いや俺に振られましても……。」
急にナツに話を振る。ナツは困惑した様子で手をブンブンと振った。
ユキが話すかどうか迷っているのは、「本当に倒すべき相手」の事である。
「魔王を倒せ」はあくまで勇者の力試しをする為の建前の目標なのだ。
ナツは既に試験を突破し、「本当に倒すべき相手」を知っている。
それを新たに勇者に任命する三人に教えて良いものか、とユキは悩んでいた。
「うーん……性格や資質は十分だと思うんだけどなぁ。やっぱ、あいつに聞いた方がいいかなぁ。」
顎に手を当て暫くブツブツと呟いた末に、ユキはぽんと拳で手のひらを打った。
「そうだ! それがいい!」
何かを思い付いたユキは腕を組んで「よし!」と頷く。
「君達には面接を受けて貰う!」
あまりにも突拍子の無い提案に、その場にいる全員が頭に?を浮かべた。
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