外伝第14話 願いと対価、神と魔法
デッカイドーに語り継がれる"願いを叶える神"は複数存在するが、共通して言える事はそれらは全て願いを叶えるに当たって"対価"を要求するという事である。
"復讐"を司る黒い森の
"夢"を司る花園の女神"ユラ"は、幸せな夢を見せる代わりに、夢を見たものから"記憶"をひとつ掠め取る。
"未来"を司る夜の魔神"クルル"は、迷えるものに進むべき道を指し示す代わりに、進むべき道を知る為の"何か"を奪い取る。
何かしらの形で望むものを与えるとされる神達は、このように必ず対価を要求するのだ。
これを神に祈る代償であると割り切ってしまえばそれまでの話だが、これを魔法の観点から見ることで願いを叶える仕組みを解き明かす事ができないだろうか。
魔法は事象を形作る式に、動力となる魔力を注ぎ込む事で事象を形にする。
神が願いを叶える仕組みとこれを照らし合わせると、"対価"は魔力と、"神"は式と、"叶った願い"は事象と置き換える事はできないだろうか。
神は魔力ではなく対価を動力とし、願いを叶える神という式を通して、願いが叶うという事象を引き起こす。
この考え方より、神はある種の形を変えた魔法ではないかという説を提唱したい。
神を魔法であると仮定して、どのようにして対価から動力を獲得する事ができるのか。魔力以外のものを直接動力とするのか、または魔力以外の何かを魔力に変換しているのか。
魔力以外の何かを動力に変換する、魔力以外の何かを魔力に変換する式を開発する事ができれば、魔法による擬似的な神を実現できる可能性があるのではないか。
<中略>
個人の保有しうる魔力には限界がある。更に取り扱える魔力となると更に限界量は少なくなる。これを魔力以外の物質を扱う事で限界量を超えて扱う事で、魔法では実現不可能な事象を実現するのが神という魔法の正体なのではないか。
<中略>
現状の人類の技術では、魔力以外の動力源を得る事は難しいと考える。
だが、もしも魔力以外の動力源を得る事ができれば、願いを叶える神を魔法で再現する可能性がある事を此処に記す。
"デッカイドー神話魔法論<序> 著:フォル・シュー"より引用
無名の学者により提示されたその研究は、信仰心を持つ者には神への冒涜と非難を受け、研究者には夢物語と鼻で笑われた。
書物として出回りはしたものの、滑稽な小説程度にしか思われていなかったその書籍は、今では多くが廃棄され現存するものも少ない。
自宅の書棚でその本を読んだ覚えのあったアキは、小さな頃から久し振りにその本を取り出した。
魔王城にて聞いた、ありとあらゆる願いを叶える全能の願望機"シキ"の話。
異なる世界の技術で作り上げられた人為的な神とも呼べる存在を知って、アキはふとこの本の事を思いだした。魔王にこの話を持ち帰らせて欲しいと話したのは、この本を改めて読み直す為であった。
小さな頃は軽い気持ちで読み飛ばしていた書物を改めて読み直してみて、魔王から得た様々な知識を掛け合わせてみて改めて思う。
「……もしかして、この理論は正しい?」
アキは続きの本を書棚から探す。天才魔法使いは、ひとつの可能性に行き着こうとしていた。
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