第55話 魔王の真実~封印の秘法~
男は"それ"を持って、極寒の大地へと降り立った。
日誌や研究資料には、"それ"は寒さを苦手とし、寒い環境の中では活動を鈍らせるという情報があったためだ。
寒い環境に置くだけで"それ"を完全に無力化はできず、いずれ動き出すとは言われていたが時間稼ぎにはなるという事だった。
しかし、意思を持たない装置に過ぎなかった"それ"は次第に動物の本能のようなものを持ち始めているようだった。
僅かながら、寒さから逃れるように動く様子を男は確認した。
極寒の大地に連れ込んだところで逃げ出す可能性を見出した男は対策を講じる事にした。
試行錯誤の末、男は"それ"を一時的に封印する術を編み出した。
凍り付くような極寒の大地の中で、特に人里離れた地点にて、世界を旅した人脈を用いて、まずは小さな拠点を用意した。
その中に、外の世界から持ち込んだ燃料式の暖房器具を持ち込み温かい環境を作った。
"それ"を拠点に持ち込む事で、男は"それ"を一時的に封印する事に成功した。
"それ"は本能的に寒さから逃れようとする。その為、凍える様な外には出ようとしない。逆に温かい環境の中に置くことで、その環境に満足して留まるようになった。
その拠点は人里離れた土地であり、"それ"が反応するだけの願いからは遠ざけられている。
"願いを叶える"という本能よりも"寒さを嫌う"という本能が勝るという発見をしたが故に辿り着いた封印方法だった。
しかし、これも完璧ではない。
かつて滅びた世界の記録では、"それ"は冷凍庫にて保管されていたが、次第に封印も緩んでいったと記載されていた。過酷な環境下に置くことで、"それ"は進化するのだという。
今は"それ"に快適な環境故に進化が促される事はなかったが、いずれは"願いを叶える"という本能が強まり、願いのある場所に逃れようとする危険性はあった。
あくまでこれは時間稼ぎ。男は時間を稼ぎながら、"それ"を完全に無力化する方法を探すことにした。
動物的な本能を持つという事を知り、対話を試みようとして「動物と会話のできる少女」を探し当てた。
ありとあらゆる生命と会話を交わし、奥底にある心理や本能を見通す少女。
人の心の醜さを楽しみ、人の心を自在に操り、世界に混乱をもたらす悪魔と呼ばれた少女と出会い、男は力を貸して欲しいと頼んだ。
紆余曲折あり少女を味方に引き込んで、"それ"との対話を試みたのだが、"それ"にはまだ意思と呼べるものは存在しなかった。
極寒の大地には邪悪な"魔物"と呼ばれる生物がいた。
"それ"の管理に影響をもたらす障害であった魔物を対処しようとする中で、男は魔物達の支配者の存在を知った。
ありとあらゆる過去をねじ曲げる、男が知るところの過去の時間軸に干渉する改変能力を持つと知り、もしかしたらと接触を図った。
魔王と呼ばれる支配者は、男の話に興味を持った。"それ"の対処に全面的に協力する事を約束してくれた。
魔王の力をもってしても"それ"はどうにもすることができなかった。"それ"は様々な世界を跨がり存在するもの。時間軸すらも跨がって存在するただ一つの存在であり、過去を弄って妨害できる存在ではなかった。
ありとあらゆる未来を見通せるという女が極寒の大地にいると聞いた。
有名な占い師として知られているが、その実体は本当に未来が見えているという特別な能力者であった。もしかしたら、"それ"がもたらす未来や対策を見通す事ができるかもしれない。男は女に接触し、"それ"のもたらす未来を見て貰う事にした。
自暴自棄になっていた女を、命の危機から助け出し、男は女の協力を得られることになった。
女が見たのは真っ暗な未来。それはいずれ訪れる滅びを意味していた。
どれだけ探しても見つからない、それどころかどんどん絶望の未来が見えてくる程に強大で恐ろしい"それ"を抱えて、男は何度も挫けそうになった。
そんな男の前に彼は現れた。
王から選ばれ、神より使命を授かったという"勇者"と呼ばれる男。
彼は名を"ユキ"と名乗った。
ユキは極寒の大地に訪れる災厄を止める為に此処を訪れたと語った。
力強い言葉と目には、不思議と男を信じさせる何かが宿っていた。
運命などというものを男は信じていなかったが、勇者ユキが訪れた事に運命を感じた。
勇者ユキが災厄と呼んだものが"それ"ではないかと男は思い、自身の境遇と"それ"について全てを語った。
勇者ユキは男の過去に同情し、男の考えに同調し、男の良き理解者となった。
勇者ユキは大きな力を持っていた。それでも尚、"それ"をどうにかするには足りなかった。勇者ユキは力を蓄える事にした。そして、蓄えた力で必ず男の助けになると誓った。
王に命じられた災厄を一旦封印したという事にして勇者ユキは帰還した。
勇者ユキは後に功績や働きを讃えられ、次代の王となった。
英雄王と讃えられ、更に大きな力を手に入れた。
男はユキに触発され、自身もあらゆる世界を駆け回った。
試行錯誤に実りがなくとも、諦めることなく方法を探し続けた。
"それ"の活動が活発化しかける度に、封印を強める方法を探した。
より密閉され、より暗く、より温かく……"それ"を封印する方法。
男はかつての自分の故郷からヒントを得て、より強固な封印方法を編み出した。
封印の秘法―――"コタツ"の中に、"それ"は今も封じられている。
全ての世界を滅ぼす、全能の願望機―――その名は"シキ"。
男は今も"シキ"を完全に無力化する方法を探し続けている。
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