第五十七話 自己抑制と客観性
俊の部屋にたどり着いた石光はドアをゆっくり開けた。
「失礼しまーす」
ため息を吐きながら俊も石光に続いて部屋に入った。
「ちゃんと整理整頓されててイメージ通りな感じだね。散らかってる部屋だったらギャップ萌えしたのに」
俊の部屋は綺麗に片付いており、机にはノートPC、本棚には小説やマンガや参考書などに加えてインテリジェンス関連の本が多く置かれていた。
「私が貸してもらってない本たくさんあるね。インテリジェンス以外にも心理学の本もあるね」
「まぁヒューミントには心理学も必要だからね」
「私向け!」
ヒューミント担当である石光はしたり顔で心理学の本を手に取った。
「これ借りるね!」
「どうぞ、でもそちらの勉強ばかりではなく学校の勉強もね。熱心なのはうれしいけど」
石光がインテリジェンスばかり勉強してたせいで、中間テストが疎かになってしまったため色々手伝わされたことを思い出し、俊は石光に釘を刺した。
「はーい」
(……本当に分かっているのだろうか……??)
俊は疑問を抱きつつも部屋の中心に置いてある卓上テーブルの前に胡坐をかいた。
「じゃぁ、さっきの続きをしようか?」
本棚を眺めていた石光は振り返ると万遍の笑みで俊に飛びついた。石光の行動に俊は大きなため息をつく。
「……いや、そっちじゃなくて組織化の話。離れてくれるかな、そっちに座って」
俊が卓上テーブルを挟んで対面に座るよう促した。石光が対面に座ると俊はもう一度ため息をつく。
「インテリジェンスに必要なものは自己抑制と客観性と言われているんだけど、どうも石光には欠けているみたいなので高度なことをお願いするのは無理かなと思わざるを得ない。たまに小島周りの情報の裏取りをするぐらいでいいかなと思い始めている」
俊の最後通牒に等しい発言に石光は狼狽えた。
「……ごめんなさい……」
一言いって俯き黙り込んでしまった石光に俊は優しく語り掛ける。
「前にもいったけど、いし……真紀のセンスは買っているんだ。情報の裏取り程度のレベルで終わらせたくないんだよ、もったいない。今ここにいるのも真紀の実力なんだから」
俊の言葉を聞いた石光は顔を上げた。
「……以後、気を付けます。それから名前呼び嬉しい!」
「約束だろ、それを条件に母がSNSやってることを教えてもらったんだから」
「でも嬉しい!」
石光の表情が明るくなったことを確認すると、俊は再び話を切り出す。
「では、組織化について話そうか。正直、小島の件では色々調べていたとはいうものの色々と限界があった。こちらの人数も少なかったし、色々と体制が整っていない状態だった。その中において、一か月であの成果は上々じゃないかと思っている。ただ、ダメなのは俺が目立ち過ぎたこと。真紀にも感づかれたし、クラス内でも同じような生徒は何人もいるはずだ」
「結構いるんじゃないかな?」
といって石光のふふっと笑うと俊は腕組みをした。
「だよな、結局マンパワーが足りなくて俺が出るしかなかったから、ああなった。他の人間に任せようとしてもすぐには出来なくてね、これも準備不足としかいえない。あの件が収束に向かっていた時、組織化しないといけないなぁとはぼんやり考えてはいたんだ」
「じゃあ、私が云々いう前にほとんど決まってるんじゃないの?」
俊の話を聞いていた石光は自分が考えるまでもなかったなと思いつつ確認してみた。
「まぁ、ざっくりとね。でも真紀だって考えてきたんじゃないの?それを聞きたい」
俊は自分だけの意見で思考が凝り固まってしまうのが嫌だったので石光の意見を聞いてみた。石光は、すでに俊君が思いついていそうだけど、と前置きをしてから話し始めた。
「まずは、各INTの担当者を決めればいいんじゃないかな。ヒューミントは私だよね、後はオシントとかイミントとかシギントとか。そこらへんは俊君が決めればいいんじゃないかな?あと報告については定型のフォーマットを作って報告書の形にすればいいのかなって思ってる、フォーマットは個人のバイアスが入らないような形にする。報告書をまとめておけば後で使えるし。口頭だとざっくりこれぐらいしか。詳細は昨日ノートにまとめたから見て頂ければ……って、荷物は一階だった。後で渡すね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます