第五十三話 正式な訪問
翌週、学校ではいつものように石光と俊は一切接触することはなく、約束の水曜日の放課後がやってきた。俊はいつものように一目散に教室を出ると、石光は小島や辻と少し談笑してから用事がある旨を伝えて教室を出た。
(どうしようかな…6時半ごろにお伺いするってお義母さんに言ったからそれまでに俊君と話を済ませておかないと)
学校からの最寄り駅に着くと、石光はスマートフォンを取り出し、SNSで俊にメッセージを送信する。
〈これから、そっち行くね。もう帰ってる?〉
《もう着いた》
〈わかった。急いで行くね〉
《了解。気を付けて、尾行とか》
俊のメッセージを目にした石光は左右に首を振って周囲を確認する。
〈脅かさないでよ、碧がつけてきたのかと〉
《まぁ、その脅威は少ないと判断してるから、忠告はしなかったんだけどね》
受信したメッセージを見て、石光は俊の情報収集能力が不思議で仕方がなかった。小島と一番近いはずの自分ですら、小島に尾行される可能性を否定できるか聞かれたら、判断は出来ない。しかし俊にはそれが可能である。
(……うう、恐ろしい……。今日の話、うまくいくかな……?でも、くじけないっ!)
石光は自分を奮い立たせて小野寺家へ向かった。
メッセージをやり取りしてから20分後、インターホンが小野寺家に鳴り響いた。俊はモニター親機の液晶画面に石光が映し出されていることを確認すると応答ボダンを押した。
「どうぞ」
俊が一言喋ると、ドアノブがガチャっと音を鳴らしてドアが少しずつ開いていった。石光は恐る恐るゆっくりと入っていくと目の前に俊が立っていた。
「なんで、そんなゆっくりなんだよ」
「……なんか緊張しちゃって……」
俊の突込みに対し、石光は右手で頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「……まぁ、君はこういう状況を学校で散々話しかけてきたときから望んでいたんだろうなとは思っていたけど、家族から攻め落とされてこうも易々と許してしまうとは……俺もまだまだだ……」
俊が両掌を天に向けて、肩をすくめてから話を続ける。
「……ああ、立ち話で済まないね。今日は話したいことがあるんだろ?上がってくれ」
俊が促すと石光は靴を脱いで、きちんと揃えてから俊の後に付いていった。
「まぁそこの椅子にでも座ってて」
俊は石光をリビングに促すと自分はキッチンに向かい何かの準備を始めた。飲み物用意するからと一言いって黙々と作業を続けていると、鼻腔をくすぐる香ばしい匂いがし始めたと思いきや、くすぐるどころかかき乱すような濃厚な匂いが立ち込めた。
「コーヒー?匂いがすごいけど」
石光が確認すると、そうだよといって俊はコーヒーサーバーにピストン状の器具を載せ、ピストンを押してコーヒーを抽出した。コーヒーサーバーに抽出されたコーヒーにお湯を加えアメリカンにする。俊はサーバーとマグカップ2つを石光が座っているテーブルまで持って行った。
「おまたせ」
そういって俊は石光の前にマグカップを置いてコーヒーを注いだ。
「ブラックは苦手なのでお砂糖とミルクを頂ければ……」
石光が嘆願すると、俊は不敵な笑みを浮かべる。
「この前、ブラックに挑戦してみるっていったよね?」
俊の表情を見た石光は口をへの字にした。
(……これ絶対嫌がらせだ)
「アメリカンにして薄めてあるし、このコーヒー薄めると甘みを強く感じるんだよね。まぁ騙されたと思って」
俊が促すと、石光は恐る恐るマグカップを手に取り、口を付けてコーヒーを啜った。
「……え?何これお茶みたい。焦げ臭さとか変な酸っぱさとか全然ないっ!ふしぎ!」
そういって、石光はまたコーヒーを啜った。俊は腕を組み、そうだろうといわんばかりの頷きをした。
「このコーヒーどこの?」
今までに味わったことのないコーヒーだったので石光は興味に駆られた。
「これはアメリカのコーヒー。面白いコーヒー屋で社員のほとんどが退役軍人で社長が元CIAのエージェント」
「え?大丈夫なの?」
ハリウッド映画の設定かと突っ込みたくなるような、あまりにも突拍子もない情報が付け加えられて石光は困惑した。
「大丈夫だろ?うまいだろ?」
そういって俊は両手を腰に当ててふんぞり返っていると石光はマグカップに満たされている黒い液体を見つめて
「おいしいけど」
と呟いた。
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