第三十二話 解説

 石光と小島が帰っていく様子を、覗き穴から俊と辻は見届けていた。

 「真紀に啖呵切られたけど、どうするの?」

 辻はニヤニヤしながら尋ねると、俊は冷静に答える。

 「別に何もしないさ。俺の利害関係に影響を出すようなことをしなければな」

 「……その利害関係に私は入ってるの?」

 辻は恐る恐る尋ねると俊は淡々と答えていく。

 「辻に関していえば、俺の情報を漏らさなければいいだけだ。といっても辻が持っている俺に関する情報なんてたかが知れているが。でも、石光に対して俺のことを詮索するなと忠告していたのは高評価だ。俺は静かに暮らしたいだけだからな」

 散々色々なことをやっておきながら、静かに暮らしたいという何処かの爆弾魔連続殺人鬼のような支離滅裂な言い草の俊に、辻は呆れ果てていた。

 石光と小島の姿が見えなくなると俊はゆっくりと立ち上がり、続けて辻も立ち上がった。

 「で?これもあんたのシナリオ通りなわけ?」

 「ご想像にお任せするよ」

 「真紀に渡した封筒にはなんて書いてあったの?」

 「直接石光に聞いたらどうだ?本人に聞かず内容を知っていたら信頼されなくなるぞ?」

 「それもそうね」

 「では解散だ。気をつけて帰れよ」

 俊が踵を返し、右手をひらひらさせて森の奥へ消えていこうとすると辻が引き留める。

 「待って、……その、暗いしさ……送ってってよ」

 辻が俯きながら、もじもじしてお願いをすると、俊は頭にクエスチョンマークを浮かべたような顔をして答える。

 「前にも言わなかったか?俺と辻が会っていることが知れたら詮索されるぞ?そうしたら、お前がやらかしたことも知られてしまうかもしれないぞ?人生終わるけど、いいの?暗闇が怖いっていうなら、これを貸す。受け取れ」

 そういって俊はポケットから取り出したものを辻に渡した。

 「軍隊でも使われている懐中電灯だ。光が強いから目くらましにも使える。返却は俺の下駄箱の中に入れてくれればいいから。じゃあな」

 そういって俊が森の中に消えていくと、辻はむすっとして帰っていった。


 「お疲れ、小野寺君」

 「全部任せて申し訳ない」

 俊が山下の元に戻ると、役割分担通りできずに負荷が山下に集中してしまったことを謝罪した。

 「いいよいいよ、気にしてないから。ところでさ、さっき辻さんとの距離が凄く近かったね……肩抱き寄せて恋人同士みたいだったよ」

 山下の言葉に耳を傾けつつ、俊は機材を片付けていた。

 「不可抗力だ。時間もなかったし、そこまでの配慮は出来なかった」

 「さっきの別れ際、そのなんていうか、辻さんは所謂一つの雌の顔ってやつになってた気がするんだよね」

 山下の発言に俊は眉間にしわを寄せる。

 「え?まじで?弱み握られてるのに?マゾの極みでは?……俺は辻よりも石光のほうが気になるね」

 俊の意外な言葉に山下は驚愕する

 「えええ?小野寺君は朴念仁だと思っていたのに!女子に興味があるとは!」

 俊はははっと軽く笑ってから、山下の発言に対して真面目な顔をして答える。

 「女子に興味がないわけじゃない。石光に関しては女子だからとかそういうわけではなく、今後の活動に大きく影響してくるだろうなと予想している。立ちはだかってくるのかもしれない」

 山下は俊の発言に対して固唾を飲み込む。

 「さっきの相手になってやる発言?」

 「その発言については詳細を調べてみないとわからん。……正直に言うと、今回の結果は俺の予想を上回っていた。石光のやり方はうまかった。俺は、石光には『過去にいじめられていた経験がある、自分がいじめられないようにイジメをやっている』という情報しか与えていない。その情報から『自分がイジメられていたことを思い出せ、イジメをやめろ』と説得するだろうと予想していた。だが、石光がやったことは『誰のイジメも許さない、小島がイジメられたとしても見捨てないで助ける』だった。小島がイジメを始めた原因を取り除くやり方だ。石光自身の過去の経験とその覚悟を見せつけて、現在の小島の脅威であろう俺に啖呵を切る、小島は琴線をかき鳴らされまくったに違いない。短い間に的確な判断を下した。まぐれかもしれないが……」

 俊の解説に山下は深く頷く。

 「確かに、あれはイケメンだったよね……。正直かっこよかった。男前だった。」

 「俺は自分がろくなことをしていないことは自覚している。高校生活中に俺が処刑されるとしたら、俺を処刑台にあげるのは石光だろうな……。せいぜいそうならないように頑張るさ」


 次の日の朝、教室内では昨日の殺伐とした空気は一体なんだったのかと思うぐらい、何事もなかったかのように石光、辻、小島は楽しそうに談笑していた。小島は石光に対して甘えるような態度が多くなっているように見える。

 そんな光景にクラスメイトたちがざわつく中、どこ吹く風な態度の俊は登校すると、いつも通りにイヤホンで耳を塞ぎ、本を読み始める。

 俊の登校に気づいた石光は、辻と小島にちょっと待っててと一言告げてから、俊の元へ向かった。辻と小島は目を大きく見開き、口を半開きにして手を伸ばす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る