第十四話 意図は悟られてはいけない

 次の日の夕刻

 小野寺は新宿駅西口で待ち合わせをしていた。スマートフォンを弄って待っている小野寺にガタイのいい男が近づいてくる。

 「よお、毎日同じ教室にいるのに話すのは凄く久しぶりだなぁ!」

 溌剌とした声がする方向に小野寺は顔を向けてフッと笑う。

 「そうだな、藤原。遠路はるばるご苦労さん」

 小野寺の言葉に、ガタイのいい男こと藤原敬嗣は眉間に皺を寄せ、眉をハの字にして答える。

 「前回同様、お前の招待はめんどくさいなぁ。やれ電車に乗る振りだの降りる振りだの…」

 「まぁ、そういうなよ。交通費も飯代も俺の奢りだ。少しぐらいわがまま言ったっていいだろ? それに前回は『スパイ映画みたいだなぁ』って喜んでいただろ?」

 小野寺は前回楽しそうにしていた藤原のことを思い出して指摘をする。

 「え?ああ、二度目はいいや。ところで何喰わせてくれるんだ?」

 指摘をいなし浮かれた様子の藤原が小野寺に訊くと、小野寺はフフッと笑う。

 「藤原も育ち盛りで体がデカくなってるからな。たんぱく質が必要だろうとおもってステーキの食い放題にしてみた」

 小野寺の提案に藤原は拳を握り、目をらんらんと輝かせる。

 「異議なし!さっさと行こうぜ!」

 「まぁ、そう焦るなって、ちゃんと予約してあるから。じゃあ行こうか」

 小野寺は興奮している藤原をたしなめると予約している店へ連れて行った。店の中に入ると、店員が寄ってきたので小野寺は予約している旨を伝えた。

 店員に案内された席につくと藤原はさっそくテーブルにあるメニューを見始める。

 「あんまりがっついて食い過ぎると、メニューがなかなか届かなくなるから程々にな」

 視界が完全にメニューに集中してしまい、周りが見えて居なくなっている藤原に小野寺は話しかけるが、ちゃんと聞いているのか訝しむ。

 「はいはい、了解了解」

 右手をひらひらさせて生返事をする藤原に小野寺は溜息をついた。

 店員が食べ放題メニューに含まれているサラダを小野寺たちの座っているテーブルに持ってくると、藤原は片っ端から注文しようとする。小野寺は店員に謝ってから、藤原が頼んだものうち、最初の二つだけをお願いした。

 「なんだよぉ、時間限られてるんだぞ」

 藤原がむすっとした表情で小野寺に苦情を入れる。

 「言っただろ?がっつき過ぎると頼んでも中々来なくなるぞ」

 小野寺があきれ顔で二度目の注意をすると、藤原ははぁ~いと小学生のような返事をした。

 「ほら、肉が来るまでサラダでも食ってろ」

 大きなボールに入っているサラダを小皿に取り分けて藤原の前に置く。

 「お前、親みたいだなぁ」

 藤原がはぇ~と感心していると小野寺は溜息を付いて肩をすくめた。

 (…いかん、いかん。気を取り直して)

 小野寺はすくめていた肩を元に戻し、藤原に質問を始める。

 「さて質問させてもらおうか」

 もしゃもしゃとサラダを頬張ってる藤原は、よく咀嚼して飲みこんでから応える

 「おっしゃ、なんでもこい」

 「では、対象KとTとIは仲が良いが同じ中学か?」

 「TはU中だったかな?Iは五中かな?Kはここらじゃなかったような。家も八王子よりも東だったはず。つうか直接聞けよ。まどろっこしい」

 藤原が眉間に皺を寄せ、質問に対して面倒臭そうな反応をすると小野寺は涼しい顔をして答える。

 「なに、こちらが持っている情報との答え合わせだよ。情報は様々な所から取って確認しなければならない」

 小野寺はあたかも全てを知っているかのような言いぶりをしたが、対象Kについての情報は新しいものであった。インテリジェンスの世界では、自分がどのような情報を持っているのか、どの情報を欲しているのかを知られてはいけない。何故ならば、所有している情報を知られてしまうとこちらの情報収集能力や分析能力が予測される可能性がある。また、どのような情報を欲しているか知られてしまうと、相手がこちらをコントロールするような情報しか流さなくなってしまい、いいように扱われてこちらの欲しい情報は一切入らないという最悪の状況に陥る。

 小野寺が辻から情報を得ようとしたときも、最近楽しかった出来事や遊んでいる様子ばかり聞いていたのは、相手にどのような情報を欲しがっているかを知られないためである。おかげで、小野寺は女子高生の遊んでいる話を聞いて楽しむ変態という称号を頂いてしまった。辻から情報を引き出した際は、各人の行動を聞き出しプロファイルに必要な情報ばかり集めてしまったので、個人情報の取得がおろそかになってしまっていた。個人情報はウェビントから掘り出せると高を括っていたからである。その埋め合わせのために藤原を呼んで話を聞くことにしたのであった。

 「それにしても、お前信用されてるんだなぁ」

 小野寺がサラダをむさぼりながら感心していると、藤原が頼んだステーキがテーブルに運ばれてきた。

 「さて、なんでだろうな?」

 藤原は皆目見当もつかないと言わんばかり、両手の平を天に向けてから、テーブルに置いてあるナイフとフォークを手に取った。

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