秋中盤~002
グランド一周して休憩する。と言うか、これ以上は陸上部の邪魔になるから、練習はできそうもないけど。
木陰に移動し、肩で息を切らせている楠木さんを休ませてジュースを買いに出る。
「隆、お前そんなに積極的な奴だったか?」
一人で柔軟ばっかやっているヒロが、不思議そうに話し掛けてきた。
「積極的って言ってもな…練習する為に集まったんだから、当たり前に練習しているだけなんだが」
スポーツ飲料を二つ買い、楠木さんの所に戻ろうとするが、ヒロの言葉によって止められた。
「楠木で決まりなのか?」
そう、ちょっと困ったように。
「決まりとか何だよ?お前、相変わらず波崎さんから頼まれてんのか?槙原さんの事をさ?」
「いや…直接そう言われたわけじゃねえんだが…何か遠回しに、たまに言われる…」
全く困ったもんだ。誰が何と言おうと、自分の事は自分で決めるっての。
「お前前に言ってくれたよな?お前が良いなら何でもいいって」
「言った…ような気もする」
言ったよ過去に。確実に言ったよ。
「お前、俺の性格知っているよな?」
「知っているもなにも、ムカつく奴がいたら、ぶん殴って憂さ晴らしするクソ野郎だよな?」
「どんな捏造だ!!」
心外過ぎる程心外だ!!俺は糞しかぶち砕かねーよ!!
「冗談だよ。こんなウザったい真似されりゃ、誰だって敬遠しちまうよな」
「槙原さんから頼まれた訳じゃ無くても、そう思っちゃうよな?そう感じちゃうよな?そうじゃなくても、俺は朋美から悪質なストーカー行為されてんだぞ?」
押し黙るヒロ。軽く頷く。
「優にはあんまり関わるなって言っとく」
「そうしてくれると有難い」
そう言って俺は木陰へと急ぐ。温くなる前に届けなきゃ勿体無いしな。
「おまち」
木陰でぼけーっと休んでいた楠木さんの頬に、スポーツ飲料水をヒタッと当てた。
「ひゃ?あ、ありがと」
「いやいや」
俺も隣に腰を降ろしてプルトップを開けた。
喉を通る感覚が心地いい。俺的には水の方がいいんだが。
「……二人三脚推選したの、怒ってない?」
いきなり切り出されて噴き出しそうになった。俺怒っていたように見えたのか?と。
「いやいや、何で怒るのさ?」
「なんか様子がおかしいからさ…」
前向きに取り掛かろうとすれば、様子がおかしく見えちゃうのか?俺って今までドンだけヘタレだったんだ?
「ただ例の噂騒ぎが落ち着いたから、余裕が出来ただけだよ」
辺り差しさわりの無い回答をしておくか。これも嘘じゃ無いし。
「そう?だったらいいんだけどさ」
納得して落ち着いたのか、漸くプルトップを開けて一口飲んだ楠木さん。
ちょっと沈黙した後。
「体育祭が終われば文化祭だね」
「そうだな。つか、この学校行事集中し過ぎだろ。文化祭が終わったら修学旅行だぞ?」
「そうだね、一月に一回ビックイベントあるなんてね」
二年だから修学旅行が重なるんだが、去年も二が月連続忙しかった記憶がある。
受験の邪魔になりそうだよな。俺は入れる大学があればどこでもいいんだけど。何なら就職でもいいし。
そういや、楠木さんは進学するから塾通いしたんだったな。
「三ヶ月連続でイベントあるとか、受験生的にはどうなんだ?」
「う~ん…言ってもウチは進学校じゃないからね。入れる所に落ち着く人が多いから、イベは邪魔だろうけど、そんなに迷惑じゃないんじゃない?」
成程そうか。白浜は進学校じゃなかったな。そもそも進学したい奴は海浜に行くだろうし。
「隆君はまだ決めてないんだっけ?進学か就職か」
「うん。そろそろ決めないとなあ…」
いい加減進路指導教諭がウザくなって来たし。担任もだけど。
「国枝君は進学で、それは兎も角、ヒロも進学だってな」
「兎も角って…私も実はそう思っちゃったけど…春日ちゃんもまだ決めてないって言っていたね。遥香は勿論進学だって」
春日さんもまだ決めていないのか。近親感湧くなあ。
休憩中にグランドはほぼ運動部に占拠されて、体育祭の練習組は大人しく帰る事になった。当然俺達もだ。
「俺柔軟しかやってねえんだけど…」
不満気なヒロだが、そもそもお前がちゃんと根回ししとかねーから、こうなったんだろうが。
「私は結構練習したなあ」
こっちは満足そうな楠木さん。初めてであれだけ走れたら充分だろうな。
「体育祭、いいところまで行けそうだね」
「んにゃ。ぜってー勝つ」
グーを握って灼熱する楠木さんにほっこりして、俺も頷いて言った。
「うん、絶対勝つぞ」
そこまで勝ちに拘る必要も無いが、勝たなきゃいけないような気がする。今まで中途半端だったからか。反省しているんだな、自分でも。
それにこれは楠木さんと共闘でもある。勝たなきゃカッコつかねーだろ。
それから俺は楠木さんの都合がいい日は、必ず二人三脚の練習をした。勿論リレーの練習もやった。二回くらい。
美木谷君も梶原君も部活があるってのに、わざわざ付き合ってくれた。なんていい奴等なんだ。
ヒロのカッコ付けの為に貴重な時間を使ってくれるなんて、有り難くて涙が出てくる。
バレー部、サッカー部と運動部なだけあって体力的には問題ないが、リレーはどうだろ?結構微妙な速さだ。
瞬発力はあると思うんだけどな。まあ、100メートルに立候補していたんだ。自信はあるんだろう。
そんなこんなで遂に体育祭当日…
青天なりで絶好な体育祭日和。
さあて、張り切っていきますか。
二人三脚でてっぺん取ってやるぜ!!
「あ、隆君」
チアのコスを着た槙原さんが、子犬のようにじゃれついて来る。
「おお、可愛いなそれ。槙原さん応援もやるんだっけ?」
「え?」
なんだ?なんかおかしな事言ったか?
槙原さんだけじゃ無い。同じ応援演武の黒木さんも唖然としているし…黒木さんだけじゃない、他の女子達も呆けちゃったが…
「おい槙原さん、俺変な事言ったか?」
ガクンガクンと揺らして槙原さんを引き戻す俺。
「はっ!!い、今なんて言ったの?」
「え?可愛いなって…」
「……前からおかしいと思ったけど、何かあったの?」
「おかしい!?」
吃驚して裏返った声で聞き直してしまった。
「だって可愛いとか言うキャラじゃないでしょ?無理やり言わせたとか、独り言を聞こえるように言っているとかなら兎も角!!」
そっちの方が人としてまずいんじゃねーのか…?つか、俺的攻めの姿勢は、そんなに違和感があるのか!!
「そうだよ!!またあの子に何かされているの?何なら明人に言って…」
アホな事言うな。西高を動かす程の事件なのかよ。
俺は苦笑いして答えた。
「朋美は全く関係ない。俺も頑張ろうって思っただけだよ」
「が、頑張るって…それが?」
頷く俺。つか、素直になっただけだが。
素直ついでに黒木さんもからかってやろう。
「黒木さんも可愛いな。木村も惚れ直すんじゃねーか?今日来るのか?」
「明人はわざわざ他校の体育祭を覗きに来るキャラじゃない…」
俯きながらニヤニヤしている。惚れ直すがそんなに嬉しいのか。
「何なら写メ撮って木村に送ってやろうか?」
「そ、そう?そこまで言うなら…」
「た、隆君、私のコスの写メは撮らないの!?」
「いや、撮らせてくれるんなら、有り難く撮る!!」
「そ、そう?そこまで言うなら…」
黒木さんと全く同じ返しだとは、満更でも無いようだった。
選手宣誓も終わり、早速100メートル走からのスタートとなる。Eクラスの最初の選手はヒロだった。
さぞや張り切っている事だろうと思っていたが、何やらきょろきょろと落ち着かない様子。
「どうしたんだあいつ…?」
「……波崎さんが来ていないからじゃない?」
「あ、そうか。あのアホはカッコイイ所を見せたいだけで、100メートル選んだんだったな」
「……でも仕方ないよ。休日で朝からシフト組まれていたんだから」
「大変だよなあ。って、春日さん?いつの間に!!」
俺の横には、いつの間にか春日さんが体育座りをして陣取っていた。国枝君はどこいったんだ?さっきまでそこにいたのに!?
「……国枝君は次の400メートルの為に、少し身体を動かしに行くって…」
「そうか。春日さんのスプーンリレーは終盤だっけか?」
「……そう。二人三脚の次…」
めっさジト目で見られるも、ジャンケンで負けたのは春日さん。俺に責任は一切ない。
ともあれ波崎さんは来ないのか。じゃあヒロの為に動画でも撮っとくか。
「……動画撮るの?」
「うん。活躍した姿を波崎さんに見せようと思って。無様晒したら、それはそれで面白いし」
コケてビリになれ。と念じながらスタンバる。
「……波崎さん、隆君を怖がっていたよ?」
え?俺何もしてないけど!?全く身に覚えが無いんだけど!!
「……遥香ちゃんとくっつけようって大沢君に頼んだの、怒ったんでしょ?」
アレか…まあ…うん…
「……どうして怒った?」
「いや、友達として槙原さんを応援したい気持ちは解るけど、自分の事は自分で決めたいし、なによりウザったく思って槙原さんまで嫌いたくないだろ?」
春日さんは、解ったような解らないような、微妙な表情を作って首を傾げる。
と、その時、二年男子100メートル走のアナウンスが流れた。
「あのアホ、体育祭で気合入り過ぎだ」
もう人を殺しそうな目つきだった。その目で100メートル先のゴールテープを見ているのだからどうしようもない。そんなに波崎さんに良い所を見せたいのか?来ていないってのに。
まあ、炎の友情で動画は撮ってやるけど。こけて俺を笑わせてくれ。
パン!!とスタートの合図と共にダッシュしたヒロ。一気にトップに躍り出る。
「おお…気合入っているだけはある…」
「……うん。速いね」
春日さんもお墨付きもその速さ。こけたらさぞかし痛いだろうな。
ぶっちぎりでゴールテープを切ろうとしたその時。
「あ」
「……あ」
足が縺れたのか、地面に爪先をぶつけたのか解らないが、ゴール直前で盛大にこけた。しかも顔面から。
そんなヒロを余所に、他クラスが次々とゴールしていく。結果最下位になってしまった。
あれは痛い。顔も心も。
結論は最下位にすらなれなかった。
途中棄権。
他クラスがゴールしてから保健医に連行されたのだ。
他クラスの連中も、下級生も上級生も、心底気の毒そうな目でヒロを追っていた。
「……俺のせいじゃねーよな?」
春日さんに同意を促す。
「……動画撮った?」
「お、おう」
一応確認の為に動画を再生してみると…
「……声入っているよ?どうする?」
声とは、こけろとか、こけたらいいのにとか、こけて俺を笑わせてくれの事か…
「……消した方が良いかな?」
「……それは…」
返答に困っている春日さん。
流石に証拠隠滅で消せ。とは言えないようだ。
ま、まあまあ、その事は取り敢えず置いとこう。
「さて、気を取り直して国枝君の応援だ」
「……まだ100メートル終わってないけど」
そうだった。あと二走残っていた。
「次は美木谷君か」
ヒロのインパクトを超えられるか?超えなくて全然問題ないけど。
結果は美木谷君2着。次の走者の梶原君も2着だった。
よしよし。上出来だ。途中棄権の奴よりは。
「次は400メートルか」
「……女子の100メートルが先」
そうだった。女子もしっかり応援しなくちゃだな。話した事が無い女子でも、ちゃんと応援をしなくちゃならない。
そう思いつつも応援の槙原さんのチアコスばっか見ている俺。
胸揺れ過ぎだろ。あれは反則だ。他クラスの男子も凝視してやがるし。
見惚れている間に400メートルのアナウンスが入る。同時に応援はぞろぞろと引っ込んでいく。つか、三年の100メートル中も凝視していたのか俺は。
「え?400メートルの応援はしないのか?」
「……応援は100メートルと午後の2000メートルだけだよ」
そりゃずっとポンポン振っているのも疲れるよな。確か応援も点数入るんだっけか?
「……国枝君は第二走者だね」
「そうだな。だけどクラスの為に、第一走者の山田君も応援しなくちゃだ」
山田君は帰宅部ながら趣味でスカッシュをやっている。第三走者の佐々木君は本気でタダの帰宅部、国枝君はどっちかってと文化系だから、400メートルは山田君に期待されていた。
が、山田君まさかの最下位!!
いや、最下位でも1点入る。途中棄権は0点だから上出来だ。
因みにウチの学校はEクラスまであるので順番に一着5点、二着4点、三着3点、四着2点、最下位で1点貰える。しつこいが、途中棄権は0点だ。
そして国枝君の出番。
らしくない、国枝君らしくないが…
「なんか気合入っているな…」
「……うん。柔軟もやっていたしね」
何でそこまで気合入れるんだって思うくらいの、気合の入れっぷり。ヒロの途中棄権で何かが目覚めたのか?国枝君はヒロのレースを見てなかったんだっけか。
「これはひょっとするか?」
「……だね。ウチのクラス、まだ1着取ってないもんね」
そうだった。女子の100メートルも最高順位2着。このままじゃちょっとヤバい。
そしてスタートのピストルが鳴った。
国枝君最初から飛ばす。400であのダッシュはまずい!バテるぞ!!
「国枝君!ちょっと抑えて!!」
しかし俺のアドバイスなんか届く距離じゃない。そもそも集中して臨んだレース。俺のじゃ無くても誰の助言も耳に入らない。それだけ集中しているんだ。周りがやかましいのもあるが。
300あたりから失速。それまで稼いできた貯金がみるみる内に削られて行く!!
しかし、あと100!!気合と根性で逃げ切る事は可能!!
「あああああ~!!」
俺の願い空しく、後続のAクラスに抜かれた。
しかしあと10メートル!!何とか二位は…
「あああああああ~!!」
Cクラスにゴール直前に抜かれてしまった!!
しかし3着。充分立派だ。俺は惜しみない拍手を送る。
途中棄権なんか0点だぞ?3着なら3点だ!!
肩で息を切らせて戻ってきた国枝君に、ハイタッチで出迎える俺と春日さん。
「頑張ったな国枝君」
「いや…前半飛ばし過ぎてしまったよ…スタミナ配分を完全に誤った…」
「……3着なら上出来だよ」
国枝君は悔しそうに頷く。やっぱり後悔しているんだろう。
「それにしても気合入っていたよな。柔軟もやっていたんだろ?」
「気合入っていたって程じゃないけど、どうせやるなら、1着は欲しいじゃないか?」
まあそりゃそうだ。俺も二人三脚で1着を狙っているし。
「ところで大沢君は?」
「ああ、うん。まあ…」
言葉を濁して動画を見せる俺。国枝君が心底気の毒そうな顔を拵えた。
次の佐々木君は4着。頑張った。これからこれから。
女子の400メートルも1着は出ず。最高順位が3着と言う結果だ。
此処でクラスが焦り始める。
「ヤバいんじゃない?総合じゃもう優勝は無理っぽいけど、2年の順位でも今4位だよ?」
「せめて2年で上位は欲しいよな…」
「最下位は勘弁だな…」
俺は最下位でもいいとは思うけど、未だに1着が無いのは厳しい状況だな。
次の種目に掛けようか。
「次はなんだっけ?」
「……確か…」
「借り物競争だよ」
槙原さんのレースか。前みたいに好きな人とか無いだろうな?
さっきのチアコスから体操着に着替えて、槙原さんがスタート地点にやってくる。
身体のラインがきっちり出ていて、これはこれで…
「なにスケベ面してんだ?」
「ば!!何を根拠に!!って、ヒロ?」
ヒロが大袈裟に包帯を足に巻いて戻って来た!!
「大沢君大変だったね。話は聞いたよ」
「……聞かなくても良かったんだが…」
しょんぼりしながら座るヒロ。まあそうだろう。この体育祭始まって以来の途中棄権。0点だ。
「一応動画撮っといたぞ。波崎さんに送ろうか?」
「やめろ。そして消せ」
そうですか、と動画を削除。
これで俺の問題発言は闇に葬り去られた。
「もう借り物競争か…前半戦終盤だな。」
カッコつけて言っているが、いの一番に保健室送りになった事実は揺るがない。俺はプッと噴き出してしまう。
「……今総合で11位。二年の順位で4位。そろそろ何かで1着取らないと、2年でも真ん中に行けない」
11位?ちょっとそれはやばいよな…つか、春日さん、ちゃんと把握しているのか。俺なんか適当に眺めているに等しいのに。
「真ん中あ?何温い事言ってんだ?総合でも1位目指さなきゃ駄目だろ!!」
「お前の途中棄権で0点が無けりゃ、今から心配する事も無かったんだがな」
黙ってしまったヒロ。事実は時には残酷だが、はっきりと言わなければならない。足を引っ張ったのはお前の0点だと。
「あ、始まったよ」
借り物競争のアナウンスが流れる。
「ま、まあここで槙原が1着取ったらいいんだよ」
ヒロの言う通りだが、そう簡単にはいかない。
「借り物にもよるからな。ただ足が速いだけじゃ勝てないのが、この競技のミソだ」
誰でも持っている簡単な物なら直ぐに借りられるが、レアな物なら探すのもキツイ。ツキが左右する場合もあるのがこの競技だ。
借り物のメモを見て、全く迷わずに俺に向かって来る槙原さん。
「隆君!!早く早く!!」
借り物は俺か…物凄い嫌な予感がするが…
「隆、此処で1着取っとけ!!」
「偉そうに言うな0点野郎」
「こ、この…」
プルプルと震えてチワワのようだった。
ともあれ、借りものの俺は、槙原さんに手を引かれて走る。
体育祭運営委員が槙原さんからメモを取って内容を確認。上から下まで舐めまわすように見えられいてるが…
「えっと、2-Eは…うん。まあ…本人的にそうなんだろうから合格!!」
「やった!!」
ハイタッチして喜ぶ槙原さんだが、ゴールテープを切らなけりゃゴールした事にはならない。
今度は俺が槙原さんの手を引いてゴールを目指した。
今俺達は3着。俺達の前には3-A、そしてトップは3-D。
「槙原さん!ちょっと本気出すぞ!!いいか!?」
「が、頑張る!!」
無理矢理引っ張って走る俺。槙原さんは息を止めて懸命に俺に合わせている。
かなりきついだろう。一瞬とはいえ、手加減しているとはいえ、俺のダッシュのペースに合わせているんだ。
こんなに頑張っている女子を引っ張って負けたら恥!!切腹もんだろ!!
「おおおおおおああ!!」
3-Aを抜き、直ぐ前の3-Dもぶっちぎった!!
パンパーン!!
ゴールテープを切ったと同時になったピストル!!
槙原さんが俺達のクラスの1着一番乗りになった!!
「「「よっしゃあああああああ!!!」」」
Eクラス全員が立ち上がった!!念願の1着、これで少しは希望が出て来た!!
「やったな槙原さん!!」
俺は槙原さんとハイタッチしようと手を上げたが…
「ぜー!!はー!!ぜー!!はー!!」
物凄くお疲れでいらっしゃる。肩でと言うか全身で息を切らせている!!
ハイタッチは後程にとっておこう。俺は槙原さんに肩を貸して、みんなの所に戻った。
「やった!!やったよ遥香っち!!」
里中さんが俺から引っ手繰るように、槙原さんを抱き締めた。
「ぜー!!はー!!ぜー!!はー!!」
頑張って返事をしようとしているが、息が全く整っていない。
槙原さんは女子に抱えられながら木陰に移動していった。
勿論、春日さんも付き添った。二学期になってから必要最低限の会話しかしていない二人だが、何だかんだで心配なようだ。
俺もヒロと国枝君の所に戻る。
「やったじゃないか緒方君!!」
「やったのは槙原さんだよ。俺はただの借り物さ」
「それ。槙原の借り物は何なんだ?」
「そういや聞いてないな…」
何だろ?前は好きな人とかあったけど、今回は槙原さんもおかしな小細工はしていない筈だ。実行委員じゃないから。
「緒方君、やっぱ凄いね!槙原さんを強引に引っ張っていく所なんかカッコ良かったし!!」
黒木さんが労いに声を掛けてくれた。さっき槙原さんを木陰に連れて行った一人だ。
「あ、黒木さん。槙原さんの借り物って結局なに?」
「えっと…ちょっと待って」
黒木さんは再び槙原さんが休んでいる木陰に向かった。わざわざ聞きに行ってくれるのか、優しいな。木村には勿体ないな。
程なくして帰って来た黒木さん。手には例のメモが握られている。
どれどれ、と、メモを開くと……
【学校一格好いい男子】
「……なあ隆…槙原にしといたらいんじゃねえ?結構可愛いし、頭いいし、爆乳だし、足細いし」
いや…これは褒め殺しの部類だろ…実行委員が俺を万遍なく見ていたのは、この為だと思うと辛いものがあるぞ…
「槙原さんから見れば、そりゃそうなるでしょ。実際明人と対張るよ」
「でも、このおかげでクラスが念願の1着をゲットできた訳だし、緒方君じゃ無きゃ、あそこから盛り返せなかったと思うよ?」
そう言っていただけると…少しだが慰めにはなるな…
『次は~二年障害物競走~』
「あ、私これに出るんだ」
黒木さんは障害物競走か。
しかし、女子が障害物にワーキャー騒いでいる姿は萌える。男子だったらこうはいかない。ムサいだけだ。
黒木さんがスタートラインにスタンばる。俺は約束通り(?)動画を撮る。木村に送ってやるためだ。
そしてスタート。ダッシュはまあまあ。現在三番手、良い位置だ。
最初の障害は平均台。とたたと慎重に渡って行く。可愛いな、木村には勿体無い。
次はネット潜り。うんうん言いながら懸命に進んで行く。可愛いな、木村には勿体無い。
そしてラストの障害は跳び箱7段。二回の失敗を経て頑張ってクリア。可愛いな、木村には勿体無い。
そしてラストの50メートル走。現在3位変わらずだが、充分巻き返し可能だ。
最初の数歩で2位に浮上。おおおおおお!!と我がクラスから歓声が上がる。
先頭は本当に目の前だった。
これはいける!!
期待に比例して歓声が大きくなる。
しかしトップのAクラスもさる者だった。
スピードに乗ったと思ったら、黒木さんをどんどん引き離していく。
「あれは陸上部だな。フォームが綺麗すぎる」
ヒロが冷静に分析する。0点のくせに。
確か陸上部は100メートルとか400メートルとかリレーとかには出られないルールだ。
だが、障害物競走はそのルール外。
しかし、黒木さんは引き離されても諦めない。
懸命に食らい付くが…
パンンン!!
ゴールテープはAクラスが切った。
「悔しい!!負けちゃった!!」
俺達の所に戻って来た黒木さんは、座り込んだ途端、そう漏らした。
「だけど2着でも充分だろ。上出来上出来」
「1着欲しかったのにー!!」
それは走っていれば誰でもそう思う。
「4点貰えるんだからいいじゃないか」
だからこそヒロの0点が映えるってもんだ。
「緒方君は1着取ったもんねー」
ちょっと拗ねた感じで言われるが、俺は借り物。1着を取ったのは槙原さんだ。
「緒方君は二人三脚だよね?そう言えば楠木さんは?」
相方の楠木さんは、確か救護の方に回されて、午前中は来られない筈だ。
まあ、二人三脚は午後からだから、問題はない。
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