反撃~002

 そんな雑談をしながら門を潜る。

「あれ?珍しいね?三人で登校なんて?」

 そこで声を掛けて来たのは、昨日マジ殴り合いした俺の友人、木村の彼女、黒木さんだった。

 つか、黒木さんは普段はもっと早く登校している、これは門近くで俺の登校を待っていたのだろう。

 その意味は…まあ…解る。

「……おはよう黒木さん」

「おはよう黒木さん」

 黒木さんはにっこり笑い、二人に向かっておはようと挨拶を返した。

 そして俺の方を向き…

「緒方君、ちょーっと付き合ってくれない?具体的には体育館裏とか」

 おお…なんか告白されそうな場所なんですけど…あと、ヤキ入れされそうな場所でもあるが。

 俺は頷き、国枝君にカバンを渡す。

「悪いけど、カバン持って行ってくれないか?」

「……」

 春日さんの無言の問いに、苦笑して答える黒木さん。

「大丈夫だよ。春日ちゃんの心配している事はしないから」

「……そう」

 安心した訳でもないようだが、そこは黒木さんを信用し、国枝君を促して校舎に入っていった。

「んじゃ、行こうか?」

 頷いて黒木さんの後ろに着いて歩いた。

 さて、人気が全く無い体育館裏に来た訳だが。

 単刀直入に切り出したのは俺だった。ホームルーム前には教室に入らなきゃいけないからだ。

「昨日の事だろ?」

 頷いて。

「いや、別に恨み言とかじゃないんだけどね。彼にもキツく言われたしさ」

「でも、気分は良くないだろ?」

 俺が言ったと同時に、ボディにボスンとパンチをくれた。全く効かない。か弱い女子のパンチを。

「うわ、固った…」

 逆に殴った黒木さんが顔を顰めて手をプラプラ振る。

「凄い腹筋だね。逆にダメージ負うとか」

「鍛えているからな。だけど木村の蹴りはキツかった」

 そっか、と満足気に頷く。

「よし、これで報復終わり。これからが本題」

 まだあるの?つか、報復が本題じゃないのか?

 意外に思いながらも、続く言葉を待った。

「明人から伝言。今回の件は粛清?したから、これでケリにしてくれ。だって」

 あの後糞共をボッコボコにしたのかよ…意外とタフだな、あいつ。俺にしこたまぶっ飛ばされた後だろうに

「ケリも何も、あのタイマンで終わった話だと思っていたしな…」

「うん。春日ちゃんの事はね」

 うん?春日さんの件だけ?それはどう言う事だと身を乗り出す。

「実はね、楠木さんにもストーカーしていた馬鹿がいたらしいんだ」

 はああああああああ!?なんだそれ?初めて聞いたぞ?楠木さん、一言もそんな事言っていなかったよな?

「驚いた?私も驚いちゃったよ!!」

 握り拳を作って振りながら驚きアピール。

「んで、噂を信じた他校の生徒も排除するからって」

 海浜の連中にも絡まれたしな…どれだけ浸透しているんだろう…あの噂は?

 だが、ちょっと待て。

 他校の生徒にまでストーキングされている二人が、この学校で何も噂されないとはどういう事だ?

「な、なあ黒木さん。白浜の生徒は何で静かなんだ?俺が人殺しだって噂もあっただろう?」

「それは緒方君が単純に怖いんじゃない?あと、一年の時の同じクラスだった蟹江君達が鼻で笑って否定してくれているし」

 怖いのは認めよう。怖がられていたのは事実だし。

 だが、一年の時のクラスメイトが、噂を否定してくれているとは思わなかった…

 有り難くて涙が出そうだ…

「まあ、突拍子も無い話だから、殆どの人は信じていないけどね」

 俺の佐伯殺し以外はほぼ真実だが…黒木さん、知っていたんじゃなかったっけ?

「あと、里中さんのおかげもあるかな?里中さん、SNSで噂潰しているらしいよ」

 里中さんがそんな事を!?

 ちょっと信じていなかった自分が情けない!!

「あ、HR始まっちゃうね。教室に戻ろうか」

 俺は生返事をしながら頷いた。ちょっと呆けていたのだ。

 里中さんがそんな活動していたなんて知らなかったし、朋美側じゃねーか?と、ちょっと疑っていたのも恥ずかしかったから。

「……まあ、無理は無いと思うけど」

「え?」

 黒木さんの声で引き戻される。

「里中さんを疑っていたんでしょ?私だってそうだったし。今でも須藤さんからメール来たら返しているらしいからね」

 それも初耳だ。自分からコンタクトを取っていないにしても、近況は把握していたのか…

「何だかんだ言いながら須藤さんと一番仲良かったじゃない?当然噂を流しているSNSだって知っているだろうし」

 それは俺も思ったが、素直に教えてくれるのかどうかを疑っていたのだ。マジ恥ずかしい。ガチで地面に額を擦りつけて謝りたい。

「兎に角戻ろう?予鈴鳴っちゃう」

 そうだな。今は教室に早く辿り着くのが先だ。

 なので、俺はダッシュをかます。

「ちょっと!!置いてかないで!!」

 おっと、黒木さんを振り切ってしまった。

 俺は黒木さんに歩調を合わせて一緒に走った。つか、競歩のように速く歩いた。

「ち、ちょっと速い!!」

 意外と脚が遅いな。ちょっとからかってやろう。

「木村のバイクの後ろばっかに乗ってるから、筋力衰えてんじゃねーの?」

「ええ!?じゃあちょっと歩くようにするかな…」

 冗談を本気に捉えられてしまった。つか、バイクばっかで移動しているのは否定しないのかよ。

 意外とラブラブなようだ。結構尻に敷いているっぽいし。

 予鈴と同時に教室に滑り込む。

 里中さんと目が合うと、手をひらひらさせた。意味深な笑みを浮かべて。

 HR終わったら話を聞きに行こう。その前に誰かが話を聞いているのかも知れないが。ヒロとか。

 で、退屈なHRも終わり、俺は里中さんの席に向かう。

「ちょっといいか?」

「いいよ。でもお昼休みにね」

 長い話になると言う裏返しか。そうすると、俺がしたい話の内容を知っている事になるが。

「そんな解り易い顔しないでよ。みんなにも聞かれたから、まとめて話しようってだけだからさ」

「みんな?」

 頷いて指を折りながら言う。

「大沢でしょ?美咲ちゃんに春日ちゃんに遥香っち。あと国枝君」

 関係者全員じゃねーか。

 俺より早く行動を起こしてくれていたのかと、素直に感動した。

「遥香っちには昨日聞かれたんだけどね」

 槙原さんなら俺の考えよりも早く思いつくか。当然か。

「じゃあ槙原さんも、その…」

 頷いて。

「私と一緒に潰しているよ」

 槙原さんの方を向くと、ひらひらと手を振って笑っていた。

「まあ、詳しい話はお昼休み」

「う、うん」

 まあ、教室で内緒話はきついからな…しかも長い話だろうし、納得するしかない。

「で、集合場所は春日ちゃんの場所ね」

 図書室?と小声で聞くと、頷いて肯定した。

「で、でもあそこ、此処の所春日さん目当てで、結構男子生徒集まるって聞いたけど?」

「緒方君と一緒の場合は霧散するのも聞いてる?」

 …いや、初耳だ。つか、俺の扱いはまだそんなものか…

 結構ショックで涙が出そうだった。

 悶々としながら授業を聞いていたので全く見に入らなかったが、待ちに待った昼休みだ。当然ヒロが声を掛けてくる。

「行こうぜ隆」

「おう。お前昼飯は?」

 得意顔でサンドイッチをひらひら見せる。

「三限目終わった時に買っておいた。お前は?」

「ああ、俺は弁当だから」

 煮汁の心配をしながら、大事に弁当をお小脇に抱える俺。

「緒方君、今日は弁当なのかい?僕は購買に寄ってから行くよ」

 国枝君も若干慌てながら購買に走った。

「あいつ馬鹿だなあ。俺みたいに三限目に買って置けば良かったのに」

「クラス最下位に限りなく近いお前に、学年トップスリーの国枝君を馬鹿と言う資格は無い」

「お前…以前はお前の方が馬鹿だったのに…」

 しょんぼりするヒロだが、俺は一応予習復習はやってんだよ。課題があった場合もちゃんとやっているし。

 そんな俺が、毎日遊んでいるお前に負けるようじゃ、本気で人間やめた方が良いレベルだろうが。

「あ、隆君、私達飲み物買ってから行くから、若干遅れるかも」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、黒木さんと楠木さんだった。

「飲み物か…俺もお茶買って行こうかな…」

「じゃあついでに買ってきてあげる」

 天使に見えたね、楠木さん。有難すぎるよホントに。

 お言葉に甘えて、俺は財布から小銭を出して渡した。

「じゃあ先行ってて。美緒ちゃん、待っているかもしれないからさ」

 そう言えば里中さんの姿が見えないな。鐘が鳴ったと同時に図書室に行ったのだろうか?

「ん?そう言えば、槙原と春日ちゃんも見ないな?」

 ヒロがクラスを見渡して言った。もう出たのか?じゃあ俺も早く行かなくちゃ。

 ヒロを急かして図書室に急ぐ。

 しかし……

 なんと、俺とヒロは一番乗りだった。里中さんも槙原さんも春日さんもいない。

「…弁当広げて待って待ってるか?」

「…いや、食わずに待とうよ…」

 と、言う事、で俺とヒロは肩透かし感を否めない感情で、しょぼんとみんなの到着を待つ事にした…

「遅くなってごめん…って、緒方君と大沢君だけかい?」

 国枝くんが驚きながら俺の横に座る。

「教室で女子達の姿が見えなかったんだがな…どこ行ったんだ?」

「さあ…僕も急いで来たからね…」

「自販機に楠木さんと黒木さんいなかった?」

「えっと…どうだったかな…」

 何なんだよ。神隠しかよ。消えた女子達とか、サスペンスかよ。

「…腹減ったな…」

 ヒロがサンドイッチを見ながら呟く。

「俺だって減っているが、まだ集まってねーだろ」

 それにしても、どこ行ったんだ?黒木さんと楠木さんは見たが、里中さんと槙原さんは全く見ていない。本題の人なのに。

「あれ?三人だけ?」

 漸く来たのは黒木さん、楠木さんだ。木村の元カノと現カノコンビだ。そんな事はどうでもいいけど。

「はい隆君、頼まれていたお茶」

 受け取ってお礼を言う。

 んで、ちゃっかり国枝君から俺の隣を奪って座った。国枝君は苦笑い。

「昨日の事ちょっと聞いたよ。木村と喧嘩したんだって?」

「う、うん」

「勝ったの?」

 そろーっと黒木さんの方に目線を向けると、黒木さんはただ頷いていた。聞いていない振り。これは言っても構わない、って事か。

「結構ギリだったが勝ったよ。つっても、勝ち負けはどうでも良かったんだけど」

「ええ?普通は勝ちたいんじゃないの?」

 いや、そりゃやるからには勝つのを目指すのが普通だが、あの喧嘩はそれだけじゃない。

「色々あるから一言じゃ言えないな。俺も何がどうなのか、表現するのが難しいし」

「ふ~ん…」

 納得したのか面倒になったのか、楠木さんはそれ以上聞いては来なかった。

しかし、遅い。気を遣って早く来た俺がアホみたいだ。

「遥香達遅いね?食べちゃお」

 楠木さんは気にする事無く、お弁当を広げた。ますます待っていた俺達がアホのようだ。

「…卵焼きか…」

「うん。食べる?」

 これ旨いんだよなあ。過去に何度も食べたけど、一度も失敗が無かった。楠木さん、何気に女子力高いし。

「はい。あ~ん」

 箸で卵焼きを持ち上げて、俺の口元に運ぶ。食いたいけど、あ~んはハズいのだが…

 皆をチラ見すると、ニヤニヤだったり溜息だったり、空気読んで、見て見ぬ振りをしてくれたり。

「え、えっと、流石にこれはハズいかな?」

「えー?べつにいいじゃん?ねえくろっきー?」

 いきなり振られた見て見ぬふりをしてくれていた黒木さんが、ガタガタと机から崩れた。

「わ!!私は別にっ!!言いと思うな!!」

 何キョドってんだよ。さては木村にやった事あるな?あいつそんなキャラじゃねーだろうに、ご苦労なこった。

「俺なんか、優に一度もやって貰ってない…」

 溜息のヒロは実に悲しそうに項垂れる。だったら催促しろよ。めんどくせーな、こいつ。

 ニヤニヤの国枝君はノーコメントだ。有り難いが、そのニヤケ顔やめてくれ。

「ほら?美味しいのは知っているっしょ?」

 更に俺の口に接近させて来る卵焼き。俺は喉をごくりと鳴らした。

 旨いのは知っている。故に勝手に口が開く…


 ぱくり


 いつの間にか来ていた槙原さんが、卵焼きを横取りした!!

「あーっ!?」

「ここは図書室だよ。静かにするのがマナーでしょ?」

 叫んだ楠木さんを窘める槙原さん。全く悪びれた様子は無かった。

 ジト目で咎めるように言う楠木さん。

「遅かったじゃない?購買でも姿が見えなかったしさ!!」

「いや、春日ちゃんが珍しくお弁当だからさ、羨ましくなって、外に買いに出ちゃってさ」

 テヘペロと槙原さんと里中さん。弁当買いに外に出たのかよ!?俺達早く来て損した感がパネエじゃん!!

 当然ムッとした楠木さんはそれを咎めようとした。が!!

「春日ちゃんのお弁当、隆君のお母さんお手製なんだってさ。羨ましくもなるよね」

 ギギギ、と軋む音。それは楠木さんの首が、俺の方を向く音だった!!

「……どういうこと?」

 …いや、これには深い訳がな?つか、なんで俺が言い訳しようとしなきゃならないんだ?

「……昨日隆君の家に泊まったから…」

 頬を染めて言っちゃう春日さん。楠木さんは逆に青くなった。そして俺も何故か青くなってしまった。

 後ろめたさから、俺は春日さんが昨夜の事を事細かく説明した。

「……ふーん…そんな事が…」

 楠木さんは無理やり納得しようとしきりに頷いた。自分だって泊まっただろうに。

「でも、須藤ってやっぱおかしいよね。怖いよ。出来れば関わりたくないかな」

「……美咲ちゃんは、須藤さんが流した噂、許せなくないの?」

「いや、半分以上ホントの事だし、仕方ない部分もあるよ。自業自得だってね。だけど逆に須藤も自業自得で噂を立られても文句は言えないよね?」

 春日さんとのやり取りの後、ニヤリ、と槙原さんを見る楠木さん。槙原さんは肩を竦めて苦笑い。

「報復するんでしょ?噂を流したSNSで」

「ツィッターで拡散してもいいんだけどね。まあ、私も濡れ衣着させられた借りは返さなきゃだしね」

 おおお…この二人やる気だ…本気でこぇーよ。二人で見合せてウフフと笑ってる!!!

 だが、その為には…

 全員の考えが一致したのか、全ての視線が里中さんに注がれた。

 その里中さんは、遅れて来た詫びも無く、買って来た鶏天弁当を美味しそうに頬張っていた最中だった!!

 物凄く文句を言いたかったが、腹は減っている訳だし、取り敢えず。

 みんなと目配せして全員一致で頷くと、一斉に弁当を広げた。

 久し振りの弁当だが、特に感慨深い訳でも無く普通に食べるが、春日さんは違った。と言うより、周りの女子達は違った。

「ふーん。これが緒方君のお母さんが作ってくれたお弁当かあ」

「あ、やっぱりシャケ入っているんだね。以前朝ごはん御馳走になった時も食べたよ」

「……この煮物美味しい…」

「サラダはポテトか…生野菜じゃないんだねー」

 聞いているこっちにしちゃ世界一どうでもいい事で、きゃいきゃいはしゃいでいる。

 つか、お袋も本当に久し振りに弁当なんか詰めたもんだから、おかずが多い。春日さんに見栄でも張ったのか?

 男子は食うのが早いので、俺とヒロと国枝君は女子が食べ終わるまで待っていなきゃいけなかった。

 なんつーか、喋っていないで早く食えよ。と言いたいが。

 槙原さんなんか、わざわざ外に出て買ってきた幕の内、ちょっとしか食べていない。

「……人が食い終わるの待つのって結構暇だな…」

 ヒロがボソッと呟くのに同意する。

「女子は食べるのが遅いからね。仕方ないよ」

「つっても、優なんかバイトの休憩時間に慌てて食うから、早食いになったって言っていたぞ」

「それはバイト中だからだろ。お前と一緒に何か食べている時はゆっくりじゃないのかよ?」

「……そうでもないような…俺と互角かそれ以上だな…」

 何だって!?ヒロより早い!?

「だが、量が違うしな。比較にはならないか」

 そりゃそうだろ。驚いて損したじゃねーかよ。

 しかし、此の儘女子が食べ終わるのを待つと、昼休みが終わってしまう。

 なので、俺は意を決して言った。

「食べながらでもいいから、話してくれないか?」

 鶏天をモグモグやりながら頷く里中さん。

「えっと、まず朋美は三つのSNSで遊んでいるのよね。ツイッターとファンブックは除いてさ」

 つー事は、ツイッターとファンブックのアカウントも持っているのか。俺はそう言うのは煩わしくてやりたくない派だからよく解らないが、普通はそうなのかな?

「んで、そのうちの一つに地域コミュがあるのよね。噂はそこで流している感じ」

 そのサイトを教えて貰い、早速アカウントを取得しようとしたが…

「隆君はやめた方が良いよ。こういうのは本人を特定されないように、かなあり気を遣ってやるものだよ」

 そう、槙原さんに止められた。

「じゃあ俺が…」

「大沢君もやめた方がいいよ。ある意味隆君より直情型だから危ないし」

 そう、ヒロも止められた。

 じゃあ俺達はどうやって報復すればいいんだ?最低でも噂潰すくらいはやりたいんだが…

「じゃあ僕が…」

「うん。国枝君には期待しているから、一緒に頑張ろう」

 国枝君はいいんだ。何かくやしいな。

「まあ、そっちは私と遥香っちと国枝君でどうにかするとしてさ、黒木さんにかな ありディープなお願いがあるんだけど…」

 物凄く言い難そうに眼を伏せた。

「何?明人に頼み事?」

 こっちは既に承知とばかりに、悪戯に笑っている。

「うん…えっと、噂に踊らされて、鬱陶しい真似してくる奴等を西高生でちょっと、…えっと…」

「シメて欲しいのね。了解」

 あっさりと了解、つか、シメて欲しいとかの言葉が黒木さんから出て来たのが驚きだ。どんだけ木村に染まったんだ!?

「や、やけにあっさり了解したけどさ、木村君にも聞いてみなきゃ、解らないんじゃない?」

「もうそのつもりで動いているらしいから。と言うか、バカのリアル情報を持っていたら、どんどん回してくれって逆に頼まれたし」

 え?木村とその件でやり合った(西高の糞共のせいだが)のが昨日なんだけど、もう動いてんの!?

 これは流石に予想していなかった!!

「話が早くて助かるよ。もしかしたら協力拒否、最悪絶縁されるかもって思っていたから」

 槙原さんの弁である。昨晩の木村とのバトルを懸念していたんだろう。心底安堵しているようだった。

 まあ、あの辺の考え方つーか、ケジメっつーかは、当事者同士にしか解らない世界でもあるから、心配するのも納得だが。

「じゃあウチの彼氏がゲットした海浜の生徒の情報あげる。せめて警察沙汰にならない程度でやっちゃって」

 里中さんは血も涙も無い事を言っているし。彼氏さんも随分協力的だな。なんでだろう?

 それよりも、田辺君が巻き込まれなきゃいいけど…絡まられたら、俺の友達だって言っておいてって言うかな。

「んじゃ俺は優から情報を…」

「波崎は女子高でしょ?それに、何か問題あったら私に言って来るよ」

「………そうか…」

 可哀想なくらい項垂れるヒロ。彼氏より友達を選んだ感がパネエからだ。

 波崎さんとしては、ヒロよりも槙原さんに相談しやすいだけなんだろうけど。

 しかし、しかしだ。噂を潰すのや、釣られてしゃしゃって来た馬鹿共はそれでいいとして。

「肝心の朋美はどうすんだ?放置するなら今までと変わらないぞ?」

 結局は朋美の粘着気質によって起こった事件(?)だ。あいつを黙らせない限り、今回は治まったとしても、また別の手でウザったい真似をしてくる筈だ。

 里中さんが確認したいと言って来たので聞いてみる。

「緒方君、朋美と絶交したんだよね?」

「ああ。病院の見舞いついでに」

 どっちかって言うと、本命は絶縁だが。見舞いの方がついでだ。

「だったら純粋な被害者だよね?」

「俺は今まで被害者のつもりだったんだが…」

 いつ加害者になったというのだ?いや、朋美限定の話だよ?勿論。

「んじゃ警察に相談するのも手だよね?」

「いや、そりゃそうだけど、あいつの家アレじゃん?裏稼業の方は兎も角さ」

 揉み消される可能性大だ。それをさせない為に、地道に証拠を固めている最中だろ。主に槙原さんがやっているんだけど…

「そんなの関係無いよ。迷惑を掛けられているって訴えなきゃ。揉み消されようが、訴えた事実が確実に残る訳だし、そうなったら迂闊な事出来なくなるでしょ?」

 成程…訴えた事実か…

 それだけでもかなりの牽制になるな…

 感心していると、更に里中さんが続けた。

「それと、警察に通報するのも牽制になるよね?別にあの子がどうとかじゃなく、不審者が家の周りをうろついているって言うだけでもね」

 それもそうだ!!朋美じゃ無く不審者扱いにしちゃえばいいんだ!!

 これは盲点だった!!今までは朋美の犯罪の裏付けを取る為に我慢してきたが、そうしなくても良かったんだ!!

「私も色々手を回して証拠集めしてきたんだけど、須藤さんって廃人ぎりぎりじゃない?報復もしてこない。してこれる状況じゃ無いんじゃないか。ってね」

 槙原さんの事実上のGOサイン出たー!!!

 そう言われれば、報復を恐れていたのは、朋美が元気に動き回れる時だ!!今は夜だけ外泊して、夜だけしか動けない状況。報復もそんなに恐れる事じゃ無いのかも知れない!!

 なんか俄然やる気が出て来た!!

 今までは後手に居回っていたが、今度は先手を取れそうな!!

「と言うか、隆君が、須藤さんが夜だけ実家に帰って来ているって気付いたから大丈夫かな、って思ったんだけどね」

 えへ、と可愛く笑う槙原さん。なんでそうなる?

「要するに、緒方君も腕っぷしだけじゃ無い、ちゃんと頼りになる男子だって見直されたんだよ」

 国枝君の弁を素直に受け取ると、今まで頼りにならないダメ男って事じゃ…

「違うよ。私が気付かなかった事を気付いたんだから、素直に脱帽したの」

 いや、どっちにせよ、今までは頼りにならないと見られていたんじゃないか?

 その通りだから別にいいけど。

「でも、SNSでの攻撃は、隆君はやっぱり頼りにならないからダメー」

 ああ、うん。そうだね。

 俺ってばコミュ障らしいから、SNSは向かないと思うしねー。と、ちょっと不貞腐れてみた。

 して、そのSNS攻撃班だが、里中さんを筆頭に槙原さん、国枝君。そして里中さんの彼氏が受け持つ事になった。

 ニートで暇な総合掲示板の主にも協力を求めるそうだ。そんな人脈を持っている槙原さんの方に脱帽だが。

 黒木さんは裏仕事(笑)担当の木村に個人情報流す役割。楠木さんと春日さんは今まで通りに。

 楠木さんと春日さんは役割無しに不満だったようだが、ヒロの俺よりマシ発言で、取り敢えずは引っ込んでくれた。

 そして槙原さんがヌーン、と顔を近付ける。唇が触れそうなくらい、接近している。

 やっべ、重ねてえ。

 じゃねーよ俺。自重しろ俺!!

「そんな訳で今後忙しくなるから、今日は私とデートね」

 うん?で、でーととな?

 いきなりの申し出に、暫し固まる俺。そして、里中さんが苦笑した。

「しゃーない。今日は羽根伸ばさせてあげる。だけど、明日から馬車馬のように働いて貰うからね?」

「ありがとさとちゃん!!」

 ぎゅむっと激しく里中さんを抱擁した槙原さんだが、馬車馬の如くの労働はいいのか?つか、俺の事情はどうなる?

 ヒロに助けを求める視線を送るも、目を逸らされた。

 波崎さんは槙原さんの友達故に槙原さん押しだった。その関係で、ヒロも無言ながら槙原さん押しなんだろう。

 今度は国枝君に助けを求めるも…

「まさか二人には付き合ったのに、槙原さんだけ却下は無いよ。それはフェアじゃ無いよね」

 痛い所を突かれた。

 その二人は無言のまま顔を逸らしているし。聞いていないから好きにすればアピールか、それ?

 だけど確かに槙原さんだけ却下は目覚めが悪い。俺が極悪人になってしまう。

 俺には初めから了承するしか選択肢は無かったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る