四千の詩に縋った人

片喰藤火

第1話四千の詩に縋った人

慰めを欲していた

救いを求めていた


現実的な言葉だけでは

慰めは得られず救いも訪れない


だから詩に縋った

理想と空想を言葉に編み込んで


広がっていく寂獏は

一編の詩で書ききれることはなく

刻まれていく感情を

一編の詩で終わらせることはできない


神を信じられずに

毎日毎日

祈りを捧げるように詩を綴り

時には異端者として殺された人々の悲嘆を詠った


人を信じられずに

毎日毎日

諦めを誤魔化すように詩を綴り

時には神を利用して殺戮する人々への憎悪を詠った


喜びを詠い愛情を詠い

希望を詠い幸せを詠い

詩に縋った人は詩人となっていた

人々が詩に縋った人を詩人と讃えた


詩人が人に慰みを与え

詩人が人に救いを与え

詩人は自らの四千の詩に

命が蝕まれていた


慰めは得られたのか

救いは訪れたのか

誰も詩人の孤独を慰めようとも救おうともしない

ただ手を差し伸べるだけで良いのに

そうすれば詩に縋らずに生きる事が出来ただろう


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四千の詩に縋った人 片喰藤火 @touka_katabami

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