ホムンクルスの恋人
寝る犬
第一話「高額なアルバイト」
気が付くと、ぼくは家族と記憶を失っていた。
最初の記憶は、
白い天井。
まぶしく輝く
白衣を身にまとった幾人もの
「気が付いたか! きみ! 名前は言えるかい?!」
「……クロウリー。……エドワード・クロウリー」
それだけを答えると、ぼくの意識は、もう一度暗い闇の中へと吸い込まれていった。
◇ ◇ ◇
「ようエド! 今日もいつも通り不機嫌そうだな!」
「やあフリッツ。ホーエンハイム教授の講義は終わったの?」
魔法学院の庭を埋め尽くす、鮮やかな山吹色に染まった
錬金学専攻の友人は、そのままぼくの肩に腕を回し、笑いながら錬金学棟の方へと歩きはじめる。
2限目には応用精霊学の講義をとっていたぼくは、彼の腕から頭を引き抜いた。
「ごめんフリッツ、ぼくはこれから応用精霊学の講義があるんだ。今日はちょっと付き合えないよ」
「おや? いいのかなエド。高額アルバイトの話を持ってきた親友に対して、そんな態度をとっても」
彼はノートの間に挟まっていた紙をひらひらと揺らして見せ、立ち去りかけていたぼくは、その場できれいに回れ右をした。
衣服や食事にそんなに興味を持たないぼくでも、冬が迫れば暖かい衣服は必要になる。
それよりなにより、ぼくの尽きることの無い学術的興味は、バカみたいに高価な学術書を無尽蔵に求めた。
単位はもうほとんど修めている。
応用精霊学の講義だって、半分は復習のために受けているようなものだ。
ぼくの手の届かないところまで紙を持ち上げて、笑いながらぼくを見下ろす友人に、ぼくは簡単に屈することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます