赤聖枢の見上げた空

風鈴花

#00 鳥籠の外の世界

「これが、私の欲しかったもの……なのね」


 彼女は崖端に立ち、静かにそうつぶやいた。


「…………」

 

 僕はそんな彼女の言葉に、何も答えることができなかった。

 だからか、彼女は黙したままの僕に、眉をひそめ何か訴えるような瞳を向けた。

 でもそんな表情もすぐに消えて、


「ふふっ、そうよね。あなたはいつもそうだった。だから、私はあなたに頼んだの。あなたなら、きっと、私を……」

 

 そう静かに口角を上げながら、唇を動かしたのだ。

 その時、彼女がなんて言ったのか、僕には分からなかった。

 そして彼女の小さな体は、崖下へとゆっくりと傾いていった。

 風になびかれ、髪が揺れ、彼女の着ていた真っ白なブラウスがやけに目に焼き付いた。足元に咲いていた山吹の花が太陽に照らされ黄金色に輝いていて、


 なぜだろうか。


 そんなときに、僕は思い出していたのだ、昔飼っていた一匹の小鳥の事を。白と薄黄色の綺麗な羽を持つ小鳥で、金網に囲われた小さな枝木にいつも止まっていた。

 そして、傍にある窓から見える、どこまでも広く、青い空を羨ましそうに見つめていた。


 そして晴れたある日、僕は、そんな小鳥のいる鳥籠の扉を、傍の窓が空いていることを確認して、家族が誰もいないときに、そっと……開けたんだ。

 そうだ。きっと今は、その時に似ていて、だから思い出してしまうんだろう。

 僕のせいで……僕が鳥籠を開けたせいで、死んでしまった小鳥のことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る