亜なる者達

尾巻屋

プロローグ

幕前「Alius Annales」

 ここに一つの部屋がある。

 はじめのうち、そこには何もなかった。

 正確なところはわからない。ただ、今はそうした方が物語を。とにかく殺風景で、とても落ち着くとは言えないような場所だ。

 いつの頃か、この部屋には時計が置かれた。

 発条ねじまきが巻かれ、秒針が動き出す。室内を満たす響きとともに、その空間は大きく在り方を変えることになる。単一から多様が生まれた。光が照り、影が塗られた。破滅と入力の、無限とも思える連鎖がこの部屋を彩った。

 そうして賑やかになったところに、小さな産声が混じった。

 産声は目を得、耳を得、鼻を得、手足を得た。

 産み落とされた幼子は、自分の周りにある色彩に気がついた。はじめは怖がって泣いたそうだ。しかし、やがて笑うようになった。無邪気なその存在は、短い四肢で攀じまわる。そうして繁雑な箱庭の中に、秒針の鼓動を聞いた。

 これがもとでようやく見つけたのが、はじめの時計であった。

 さて。

 

 赤子のあくなき好奇心は、何を為すだろうか。

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