雨月の酒宴
縁側に座る夫の傍へ、酒と肴の乗った盆を置く。
隣を示されて腰を下ろせば、雨音の中静かに声が落とされた。
「見えへんなあ」
天を仰ぐ視線につられて私も上を見る。雨足はそこまで強くはないが、空は雲に覆われていた。
「どないする? 今日来たお客さんは、月見は雨が降っとっても風情がある言うてたけど」
「雨月ですね。雲に隠れた月の仄かな明るさを楽しむそうですよ」
夫が空を眺めて首を傾げる。よう分からんわ、という呟きに私も同意した。互いに非合理が苦手な以上、月見には不向きな夜だ。
しかし、片付けを始めた私を夫は何故か引き止めた。
「月見酒とはいかんでも折角やし付き合うて」
二人きりの酒宴は名月を口実にせずとも成り立つらしい。
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