異世界結婚相談所~レデイコミ原案製作者、魔王のとこで仲人やってます~
一城洋子
第1話 トラブル解決のため異世界に召喚された模様です
「お前をわが国の結婚相談役に任命する」
最初聞いた時は訳が分からなかった。
「面白い女だ。お前には相談役になってもらおう。我が国の結婚率低下をくいとめるため励め」
私は目を回しかけながら、通称『魔王』の言葉を聞いていた。
なんでそうなる。
なんでこうなった。
もちろん断ることはできない。そんなことは百も承知だ。
私は地球は日本の一般女性なんですが!
そう声を大にして叫びたいのをこらえつつ、ここ数日のことを思い返した。
☆
「―――お久しぶりです、先生。在庫が不足しているので、何本か原案いただけますか?」
担当さんからそんなメールが入ったのは、ある日の昼下がりのことだった。
「この前十本送ったと思うけどね。ていうか、かれこれ三、四十本は送ってる。二十本くらいは買い取ってストックしてあるはずじゃなかったっけ?」
私はパソコンに向かってつぶやいた。
「それ全ボツかー。きついなー」
後ろにのけぞる。
「まぁ、言われれば考えて送るけどさ」
棚からネタ帳を取り出し、使えそうなのを選ぶ。
私、鷹橋絵梨の職業はマンガ原作者だ。特にレディコミの。
レディースコミック、少女漫画よりは少し年齢層上の女性向け漫画のことだ。大人の個性向けでハッピーエンドの恋愛マンガの原案を考えるのが仕事。
え、マンガを描いてるんじゃないのかって?
描いてないよ。というか、私は描けない。そこまで得意ではないのだ。実際にマンガを描くのはプロの漫画家の先生である。
ほら、少年漫画ではよくあるじゃない。話を考える人とマンガ描く人が別ってスタイル。あれだ。
人によっては原案者がネームまできるって某少年漫画で見た。すごいと思う。私にはできない。なぜならセンスがないから。
これに尽きる。
自分の才能のなさを分かってる私は、あくまでお話を考えて渡すだけで、後は全部漫画家さんにお任せというスタイルだ。一切口は挟まない。
「……まぁ、一応もう五年以上続けられてるから、そこまでへたくそじゃないと思うんだけどなぁ……」
私は特定の漫画家さん専属ではない。その時その時で組む漫画家さんが違う。基本は読みきりだ。
プロットを考え、担当さんに渡す。どの漫画家さんがいつどの話を使うかは担当さんが決める。ここも私は一切関与しない。
私は一度に色んなジャンルの原案を大量に出せるのがいい点だと言われたことがある。確かに変形パターンを複数出したりして、結局一回につき十本くらい送るのが普通になってる。だからこれまで首がつながってたんだろう。
「単にどうせほとんどボツくらうの分かってるから、保険かけてるだけなんだけどね」
ネタ帳をめくりながらつぶやいた。
常時三十本くらいは思いついたネタを書き留めてあり、ストックがある。そこから必要なジャンルを適宜選んで膨らませ、シナリオにする。
「今回は何ジャンルですか……っと」
担当さんにメールできいてみる。
私の場合、雑誌の傾向やその時の需要から、必要とされるジャンルが違う。毎回担当さんから指定されるジャンルの原案をチョイスしていた。
「シークものでお願いします」
返信があった。
「はいはい。シークものですか」
ロマンス小説好きならよく知ってるだろう。シークもの。
アラブが舞台で、あちらの民族衣装を着たヒーローが出てくる。必ず富豪キャラ&王様or王子で美青年(イケメン大事)。たいてい強引な性格で俺様。とにかくゴージャス。そんなヒーローとの恋愛を描くのがシークものだ。
ロマンスとしては定番中の定番。つまりもっとも好かれる。
「人気だねぇ。様式美を守った上で話作らないと。ああ、これとこれはいけるか」
それと、何本必要かな?
「何本いります? 五本? 十本? 二十本?」
すでに単位がおかしいと思いながらもメールを打つ。
他の原案者を知らないから標準がどれくらいか知らないけど、少なくとも普通はもっと少ないだろう。担当さんが「大量」って評してたし。
でもチキンな私は一本二本じゃ不安なのだ。ボツくらう自信はある(いらん)。
いやね、そこまで才能ないの分かってるんだって。だから下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法をとるしかないのよ。
一発OKなネタ出せる人すごいよほんと……。尊敬しかないよ……。
「数は指定しないんで、とりあえず出してください」
「担当さんも私がどっちゃり出すの分かってて言ってるな、これ」
本数指定はないってことで、ひとまず五本~十本送ってみた。
返事が来るまでの期間はまちまち。数か月音沙汰ないとかざらだ。下手すると半年や一年ない。
気長に待つことにした。
パソコンを閉じて窓の外を眺める。冬で寒いから窓ガラスは開けない。
自分の姿が反射してぼにゃりうつっていた。
何の変哲もない、平凡な顔立ちの二十九歳。
「……美人でもない、ていうか、ブスの域に入るよなぁ。何のとりえもない、そこらへんのアラサー……」
原案の仕事だけでは食べていけないから、普段は普通にOLやってる。そこでも目立った成績はない。そのあたりで地味にひっそり仕事してる「その他大勢」だ。
時々「あれ、いたの?」って言われるくらい存在も薄い。
「別に私はそれでいいし。平凡な人生万歳。のんびりゆったり、静かに暮らせればそれでいいのよ」
キラキラな話を考えてはいるけど、しょせんフィクション。現実にはありえない。だからこそ人は夢中になり、マンガとして成立するのだ。
ゴージャスな話作ってても、当の私はこんなに地味で平凡。
でもそれでいい。
「お話はしょせんお話。現実にはありえないからこそ面白いのよ」
そう言った時、異変は起きた。
窓の外から強烈な光が差し込む。
まぶしすぎて目を開けていられない。
「な、なに?!」
昼間なのにヘッドライトつけてる車がいるの? 人の家の方にむけるとか非常識だよ。
いや、ここアパートの二階。ていうか昼間にヘッドライトつける必要ない。それにしては強すぎるし。
「一体何が―――」
光が私を包みこんだ。
体が浮かび上がる感じがした。
☆
光は現れた時と同じくらい唐突に消えた。
「……ん……?」
恐る恐る目を開ける。
そこには大勢の人がいた。
「ん?!」
今度は驚きの「ん」音を発する。
見間違いじゃないよね。
急いで目をこする。
驚いたわけは、人々の格好が普通じゃなかったからだ。中世ヨーロッパっぽい。現代の服装ではない。そうそう、まるでヒストリカルマンガみたいだ。
ヒストリカルとは舞台が中世~近世のお話のことだ。フランスに貴族がまだたくさんいて、舞踏会とかしてた時代といえば分かりやすいか。
あの頃の衣装ってゴージャスだよね。描くのは大変そうだけど。下手な私は無理だわ。
これもロマンスでは人気ジャンル。私もいくつか原案やったことがある。
もう一回よく見てみた。
服装は紛れもなく中世のもの。ただし男性はカツラかぶってない。
周りを見れば、どこかの建物内だった。神殿のような作り。少しギリシャ風入ってるな。
服装は中世ヨーロッパなのに、建物の建築様式はギリシャ風か。そういうのはちゃんとしたほうがいいよ。
そんなことを考えながら、あごに手をやる。
……で、ここどこだ?
ものすごく基本的な疑問。
質問しようとしたら、なぜかそのうちの一人からものすごく不機嫌な視線を向けられた。
え、なに?
それは黒ずくめの美青年だった。見たところ、三十代前半。黒い軍服にマントつけてる。スタンダードな王様系軍服だが飾り気はあまりなく、そのくせ威圧感が半端ない。しょってるのはマントじゃなく、どす黒いオーラじゃないのか。
そして黒髪長髪と、驚いたのは金と紫の瞳。紫に金色が混じってるっていう意味じゃなく、左右で違う色なのだ。
オッドアイ。
へえ、猫ではまれにいるっていうけど、人間では初めて見た。
私はついまじまじと見いってしまった。
カラコンかあ。金色のカラコンなんてあるんだ。
視線がうっとうしかったのだろう。彼はチッと舌打ちした。
うわ、舌打ちされた。
イケメンなのに、そんな不機嫌極まりないっていう表情じゃもったいない。不愛想キャラか。
どす黒いオーラは放ってるし、正直、近寄りたくない。まるで魔王みたいないでだちだ。
「あのー……」
横から声がしてそっちを向くと、神官みたいな格好の男性がいた。こちらも三十代前半。
黒ずくめの男とは違い、金髪碧眼で人のよさそうな男性。神官で間違いないんだろう、シンプルな白の僧衣に錫杖を持っている。
こっちは僧侶のコスプレか?
「巫女様、よくぞおいでくださいました!」
ん?
私はキョロキョロ辺りを見回した。
巫女のコスプレしてる人もいるのか。
というか、なんなんだろう。コスプレパーティー? コスプレイヤーが集まってのイベント?
それとも映画の撮影?
「巫女様、どうされました?」
「え?」
神官はあきらかに私を見ている。
いやいや、私はレイヤーじゃないよ。そんな衣装持ってもいないし、着た覚えもない。
おかしいと自分の姿を確認しても、家での普段着のままだ。シンプルな白のハイネックにジーパン。
実に平凡で地味。モブキャラでセンスのない私には十分である。
原案製作者がこんなんと知ったら、読者が幻滅すること請け合いだろう。
「えと……それって私のことですか?
「はい、巫女様」
「どなたかと間違えてません?」
正直にきいてみた。
神官は首を振る。
「いえ、間違えてはおりません。間違いなく貴女様です」
「んー……私はレイヤーじゃないんですけど」
「レイヤー? 何のことです?」
神官も人々も単語の意味を知らないと言いたげだ。
「コスプレイヤーの略ですよ」
「コス……? すみません、分かりません」
「じゃあ、映画の撮影ですか? それともドラマ?」
「えいが……? なんですかそれは?」
これも分からないらしい。という演技か。
「なら、ドッキリですか? 何のテレビ番組?」
「すみませんが、さっきから何をおっしゃってるのかまったく分かりません」
神官はとまどったように首を振り続ける。
「それでもないなら……」
「おい」
魔王キャラが口を開いた。
うあ、ドスがきいてる。
むちゃくちゃ低い声だ。圧力半端ない。
今、確実にここだけ重力が倍加した。
こ、恐い。
びくびくしながら彼の方を見た。
「こんなやつが巫女か? お前がうるさく言うから召喚なんて眉唾物を許可してやったのに」
……しょうかん?
私は首をひねった。
しょうかんって召喚でいいんだよね。カードバトルでモンスター召喚とかの。あと思い当たるのといえば裁判所への召喚って意味だけど、裁判所には縁がない。
てことは、そのー、召喚魔法とかの召喚でいいんだよね?
理解できない私に神官が丁寧に説明してくれた。
「初めまして。ここは貴女様の暮らすところとはまったく別の世界。そちらの不愛想が我が帝国皇帝ジュリアス様です。私は彼に仕える神官クレイと申します」
おう、不愛想ってはっきり言った。
いいの? 主君だとしたら、不敬罪だって斬られそうだけど。
それとこの人は神官で間違ってなかった。
「……って、ちょっと待って。ここ、異世界?」
っていう設定?
片手をあげて説明を求めた。
「はあ、そういう設定ですか。なるほど。異世界召喚系ね? だから文化がごちゃまぜでもいいやっていうごまかしか。今はやりのやつね。実写ドラマ化するの?」
「なんのことか分かりませんが……。実はですね、わが国では今、大変な問題が持ち上がっているのです。それを解決すべく、上手く円満におさめられる者を探しておりました。国内にはおらず、そこで別世界から招こうと考えた次第で」
はあ。なんだか知らないけどトラブルがあって、解決できる人募集中だと。
「残念ながら、私は普通の女性ですよ。何の能力も才能もないし。トラブル解決なら専門家を呼ぶべきでしょう。警察か弁護士か」
皇帝や神官が出てくるっていうストーリーならトラブルも大ごとのはずだ。一般人がどうにかできるものとは思えない。
神官は苦笑いした。
「ああ、政治に関することではありません。それなら陛下が解決できますよ。こう見えて有能ですから」
こう見えてって言った。おいおい、そろそろ斬られるんじゃない?
心配をよそに、皇帝役は神官役をにらむも、それだけだった。
なんだか気心が知れてる友人みたいだ。ちょっとした嫌味言うくらい平気な間柄っていうか。
ふうん、そういう設定か。まぁ、俺様キャラは周りにだれか仲裁役が必要なもの。それが神官っていうことだろう。
たいていその役はヒロインだけど。ヒロインにだけはヒーローも優しい、だからこそマンガは成り立つ。
あ、もしかしてこの神官がヒロインか!(笑)
冗談はさておくとして。
「いいんですか。めちゃくちゃ不機嫌そうですけど……」
「平気です。陛下はあの顔がいつものことなので。それでですね、そのトラブルというのが恋愛沙汰なんですよ」
「…………」
私は押し黙った。
ちょっとどころかおおいに待て。なおさら専門外だ。
恋愛マンガ原案作ってる私だけど、実際は恋人なし歴=年齢。いままで一度も男性と付き合ったことはない。まったく自慢にならない歴史の持ち主だ。
「恋愛問題ではねぇ。陛下はまったく分かりませんし、僕もあまり得意ではありません。だからだれかに頼もうと思いまして」
いや、私もまったく得意じゃありません。
皇帝役が苦手なのは分かるよ。これじゃ、女性は見ただけで逃げ出すもん。
「……そういうには、その、恋愛経験豊富な人に対処してもらったほうがいいと思います……」
断ろうとしたら、皇帝役に言葉を遮られた。
「どう見ても恋愛経験豊富な女には見えん。クレイ、やり方を間違えたんじゃないか? 召喚する人間を誤ったな」
カチンとくる。
悪かったな。どうせ彼氏いない歴二十九年ですよ! さすがに次三十となれば気にするんだよ!
女性にとってまず一つの節目は三十とされる。そろそろ結婚しなきゃと焦り始める年。二十八、九くらいから「二十代のうちに結婚を」と真剣に考える女性は多い。
私だって結婚相談所とか登録したよ。でも平凡な女はお見合いすらたどりつけない。合コンも会話下手だし、その後はない。私だってがんばってしゃべってるけど、どうしようもなかった。
「余計なお世話よ。そういうあなたこそ、経験豊富には見えないけど?」
イラっとして言い返した。
ドラマの撮影かドッキリか知らないけど、仕掛けたのはそっちだろう。私が頼んだわけじゃない。文句があるならもっと美人を選べばよかったじゃないか。ミスはそちらの責任で、私にはない。
「人違いなら、さっさと帰りたいんだけど? というか、ここはどこなのよ」
うちのアパートの近くにこんな大がかりなセット組める場所があったのか。それともいつの間にか連れてこられたか? 帰りの交通費は出してもらえるんでしょうね。
「はい? ですからここは別世界ですと」
まだ脚本にこだわってる。もういいよ。
皇帝役は口答えした私を見た。
う。眼光がするどい。
言い返したのをちょっと後悔した。眼光だけで殺されそうだ。
でも私はひるまなかった。こちらに非はない。毅然と胸を張って見返す。
「……ほう」
皇帝役が面白いといった声を出した。顔は相変わらず不機嫌なままだ。
わずかに口の端をあげて、
「男のような恰好をしているだけに、気が強いな」
男みたいな格好?
ああ、ジーパンのことか。パンツスタイルが珍しい?
まぁ中世風の舞台じゃ、女性はドレスだもんね。パンツタイプの乗馬服を着るだけで眉を顰められる時代だ。
「ひとまずこの男みたいななりをどうにかしろ。連れていけ」
「かしこまりました」
神官役の指示でメイド(?)二人にはさまれ、連れて行かれる。
「え……ちょ、えええ?!」
エキストラは断ったはずだけど! まだ撮影続行?!
ひきずられるまま建物を出ると、驚きの光景が広がっていた。
「ええええええ?!」
空に浮かぶは数多くの魔法の絨毯。人々が当たり前に乗っている。
服装も中世ヨーロッパ風、『アラジンと魔法のランプ』みたいなアラブ風、ギリシャ神話のギリシャ風と様々だ。
通りでは大道芸人が魔法みたいなの使って火を空中に出し、曲芸してる。
カフェレストランでは店員がなんか唱えると皿が浮いて、自動的にテーブルへ。
CG……ってことはありえないよね。ロボットでもない。だって浮いてるし。ドローンでも人間は支えられない。
「……え、まさか現実……?」
私は呆然とつぶやいた。
そんなバカな。
頬をつねってみた。できる限りのばす。
「なにをなさってるんですか?」
「いえ、別に……夢かと思って……」
痛みは本物だ。
……いやいやいや。
ものすごくリアルなドッキリだよ! そんな番組になんで私が選ばれたのか知らないけど、どうせ適当にクジで選ばれたんだろう。そうに違いない。
連れてかれたのは神殿横の宿だった。宿っていうには豪華すぎる宿泊施設。普通に富豪の別荘クラスだ。
なんでも何日か泊りがけで神殿に祈願する貴族のために用意したものだろうだ。
はあ。それって祈願っていうかただのバカンスですよね。
ていうか、番組予算つかいすぎじゃない?! どこの金持ちの別荘借りたんだか。
私はまず風呂につっこまれた。
「お湯をはりますね」
メイドが軽く手を振ると、広い湯舟があっという間にお湯で満杯になった。
え!? センサー式? にしても一瞬ってどういうこと。
驚いてる隙にひんむかれそうになった。
「ちょっとおおおおお?! いいです、入りません!」
「陛下のご命令で着替えさせよとのことですから」
「だったら普通に衣装くれれば着替えます! 一人でできるし!」
「いえ。改めて陛下の御前に出られるのですから、きれいにしなければ」
メイドの目も本気だ。そうでないと叱られるって書いてある。仕方なく私も折れた。
「じゃ、こうしましょう。私は一人で入りますから、皆さんはドアの外で待っててください。着替えもそこに置いといてもらえれば、自分で着ます。最終チェックだけはお願いします」
なんとかそこで妥協してもらった。
当たり前だ。無理やり知らないとこ連れてこられて文句つけられたあげく、きちんとした格好しろって風呂放り込まれるとか。どこのマンガだよ。
……って、私がやってるジャンルじゃないかー!
頭を抱えたくなった。
そうだったよ。ヒロインが無理矢理ヒーローに連れてこられて監禁、お姫様扱いとかシークものじゃ定番だわ。私もこの前そんなん作ったわ。
じゃあこれは私が原案者と知っての企画か?
「……そういうことか」
実際話を作ってる人間が体験したらどんな反応するかって企画ね? なーるほど、腑に落ちた。なんで私が選ばれたのかと思ったら、そういうことか。
「でも私は原案やってるって公にしてないし、出版社も公開を禁じてるんだけどな」
少年漫画や一昔前の少女漫画原案製作者ならいざ知らず、今のレディコミ原案者は表に出ない。出たとしてもそれは漫画家さんのほうだ。
それも当然。読者は原案者なんか興味ない。少女漫画・レディコミ読者にとって大事なのは漫画家さんのほう。そもそも原案がついてるなんて気にも留めない人が多いだろう。
検索する時も、原案者名打ち込んだってヒットしないしね。
私自身、原案製作者になるまで読んでるマンガに原案ついてても気にしたことなかった。見てもいなかったというか。
実際、同程度の原案でも絵の上手い漫画家さんのほうがアンケート結果がいい。それくらい絵が占める割合は大きいのだ。
自分でもだれも気にしないと分かってるから、私は公表してない。だれだって漫画家さんのほうが知りたいだろう。出版社でも分かっていて情報公表を禁止している。
この前、コミックスのサイン本が当たるって企画やってたけど、サインはもちろん漫画家さんのものだ。私は声すらかからない。
そりゃそうだ。私のサインなんか、だれが欲しいものか。当たってもハズレ扱いだろう。
ていうか漫画家さんのサイン本、一冊ください担当さん。
原案私だよ?! 仮にも原案作りましたよ?!
一冊くらいくれてもいいじゃん!
私のサイン本なんかどうでもいいよ。むしろ書いたら価値マイナスだよ。価値あるのは漫画家さんのほうです。だから一冊ください!
基本メールで担当さんとのやり取りなため、漫画家さんには会ったこともない。これは出版社にもよると思うけど。一般的には顔合わせくらいすると思うよ。
でも私が一度もないのは、毎回担当漫画家さんが違うせいもあると思う。何回か同じ人にかいてもらったことはあるけど、たいていは異なる。
しかも事後承諾。しれっと発売日ごろに見本誌が送られてきて、「あ、使ったんだ」って分かるくらい。
事前に言おうよと思うかもしれないけど、元々私は口出ししないし変わらない。使ってもらえるだけでありがたいと思ってる。見本誌送ってくれるだけでいいよ。
こういううるさく言わないところが、なんだかんだで五年以上続けられてるゆえんかもしれない。
チキンだから一冊くださいって言えないけど……頼んだらくれないかな……。
私の担当漫画家が違うのは、雑誌の方針による。一般的に少女漫画やレディコミでは漫画家さんが話づくりから絵までやるのが当然。少年漫画のような分業制はありまりない。
ただ、まだデビューしたてとか、経験が浅いと、イイ感じの話が作れなかったりする。そんな時が私の出番だ。
私は絵は描けないけど、話は山ほど出せる。常時担当さんのとこにストックがあって、一つは使えるのがある。もしいまいち合わなくても、言えば送ってくるから必ず使えるのが見つかる。
そうやってマンガ化されるわけだ。
たまに大御所先生がネタ切れでってこともあるけど、基本的に新人クラスが多い。
ま、私はそういうケース用の原案者なのだ。
そうやって経験を積んだ漫画家さんはそのうち自力で話を考えられるようになるので私はお払い箱になる。そして次の漫画家さんに、となる。
こういう立ち位置は珍しいかもしれないね。主に新人専門の原案者って。
でも少女漫画やレディコミで原案つきの連載は今時あまりやらせてもらえない。スピンオフ読み切りがせいぜいだ。だから私は連載やったことはないのである。
少年漫画なら原案つきなし関係なく連載やらせてもらえるけどね。
……まぁ、私に才能がないから仕方ないか。
ため息つきつつ、風呂に入らせてもらった。
お湯だけじゃなく、石鹸もいい香りだ。高そう。
ありがたく堪能させてもらった。
あー、やっぱり冬は温泉だよね。これって温泉か?
のんびりあったまって出ると、お願いした通り衣装が置いてあった。広げてみる。
白基調のシンプルなドレス。ハイネックで長袖。飾りはほとんどない。いかにも『巫女』って感じだ。
神道の巫女さんじゃなく、RPGの巫女ね。
うん、シンプルイズベスト。地味女にはこんなのでいいんです。
時代設定が中世みたいだから、コルセットしろって言われたらどうしようかと思った。あんなもん巻いたら、内臓潰れて死ぬ。それ以前に細くない私は締めたところで変わらない。
作りがシンプルだったから、一人でも着られた。念のため確認してもらい、
「あのー、ドライヤーあります?」
「は?」
「髪がぬれてて」
「ああ、分かりました」
メイドが手をかざすと、一瞬で水気が飛んだ。
え!?
だってこれは私の髪だ。他のは仕込みや手品だとしても、これに細工するひまはなかったはず。
「……えーと、今の……」
「簡単な魔法ですがなにか?」
魔法って、マジで?
担当さんどこだ。そろそろ出てきてくれ。私が原案やってると知ってるのは担当さんだけ。「ドッキリ大成功」って看板もって現れてよ。
いくら待っても担当さんは出てきてくれなかった。
……え、ほんとのほんとに?
私は皇帝のところに連れて行かれた。
今度は神殿にある応接室みたいな部屋だった。お参りに訪れた貴族をもてなす平野だそうだ。どうりで豪華。
建物の作り自体はギリシャ風を取り入れてるが、ここはバロック調。貴族がくつろげるようにだろう。
この前漫画家さんが描いてくれたやつみたいだ。あれはヒストリカルだった。意地悪な親戚に追っ払われたヒロインが大貴族ヒーローに拾われて雇ってもらい、色々あって結婚するっていう王道ストーリー。
ソファーには皇帝がドッカリ座っていた。三人くらい座れそうなのを一人で占領してる。
まぁ、こんな恐い男の隣に座れとか言われたら、みんな逃げるわな。
人のいい神官も皇帝の後ろに控えてて、向かいに座るよう身振りで示されたので座った。
ジロジロ見ていた皇帝が言う。
「少しは見られる格好になったな」
またイラっとすることを平気で言う男だ。
女性の容姿について言っちゃいかんという礼儀を知らんのか。
「不満ならさっさと帰して。他の人に頼めばいいでしょう。希望の美人で恋愛トラブルの処理が上手い人なんか、世の中探せばいくらでもいるはずよ」
私は手と足を組んで堂々と言った。
私を呼んだのはそっちだろう。
「私相手にそんな口の利き方をするとはな」
「なに、敬語使ってほしいの? 先に無礼な口きいたのはそっちでしょ。敬うに値する人なら、言われなくても敬語使うわよ。ずいぶん唯我独尊ね。自分から敬語使えなんて言うもんじゃないわ。尊敬っていうのは強要するもんじゃない。尊敬してほしかったら、尊敬される人間になってみせたら?」
神官がくっくっと笑う。
なにがおかしい。
「なにか?」
「いえ、皇帝陛下にそこまではっきりものを言えるとは、貴重だと思いましてね。なにしろこの容姿。女性はだれもが悲鳴をあげて逃げ出すんですよ」
そりゃそうだろう。私も怒りがあるから平気だけど、そうでなきゃ逃げたかもしれない。
「そういうことができるのは、男でも僕だけですから。僕は乳兄弟で生まれた時からずっと一緒なので平気なんです」
仲がいいという予想は間違ってなかった。
「なにはともあれ、いきなりで驚かれましたよね。お茶をどうぞ」
紅茶とクッキーを出される。遠慮なくもらうことにした。
私がひとしきり飲んで落ち着いてから、神官が話し出す。
「さて、その恋愛がらみの問題なんですが」
「あ、その話まだ続行してたんですか?」
当然と言わんばかりの顔をされた。
「話をしてもいいですか?」
「あ、すみません。どうぞ」
「ある貴族の縁談に関してなんです。事の発端からお話ししたほうがよさそうですね。まず初めに、とある公爵の結婚式がありました。花嫁が人格者でみなに好かれていることから、国内ほとんどの貴族が参列しました」
それはおめでとうございます。
「ところが、一人だけ招待されなかった貴族がいました」
ん? これは『眠り姫』的な話か?
「腹いせに死ぬ呪いでもかけられました? 刺さるのは糸巻きのつむですか、それとも他の?」
「は? いえ、違います。そもそもその人物が招待されなかったのは、ある事件で有罪となり、蟄居中だったからなんですけどね。よりによって『世界で一番美しい女性へ』と書いたリンゴを式場に投げ込んだんです」
ああ、ギリシャ神話の黄金のリンゴ事件のほうだったか。
人気者の女神テテュスの結婚式に一人ハブられた争いの女神エリスがキレて、争いの元を投げ込んだ。『世界で一番美しい女神へ』と書いた黄金のリンゴを。
こういうトラブルメーカーだから呼ばれなかったわけだが。
話の流れで分かる通り、『眠り姫』の原型とされている。
黄金のリンゴをめぐって女神たちのガチバトルが始まった。これがトロイの木馬で有名なトロヤ戦争にまで発展していく話の序盤である。
ギリシャ神話では三人の女神がどうしてもあきらめなかった。神々の王ゼウスの妻ヘラ、美の女神アフロディテ、知恵と戦いの女神アテナ。
三人のうちだれに渡しても、残る二人に恨まれる。そんなめんどくさい役目、だれもやりたがらなかった。
そこでゼウスが考えた。
「そうだ、全っ然無関係な人間を一人連れてきて、公平な第三者ってことで選んでもらえばいいじゃん!」
人任せにもほどがある、と思う。丸投げともいう。
そうして連れてこられたのが羊飼いパリスだった。
……争奪戦ねえ。私なら参戦しないけどなぁ。
第一に、私は美人じゃないと自覚がある。第二に、結婚式なんておめでたい場で招待客同士が争うなんて迷惑この上ないだろう。
「どうせ女性招待客同士が争ったんでしょう」
「はい。いやまったく、すごいありさまで。つかみ合いの大ゲンカしてた人もいましたよ」
女の争いって恐いよね。
「ほとんどの女性があきらめたんですが、どうしてもあきらめないのが三人いました」
あ、やっぱり。
「場にいた中で最も如才ないと言われる男がひとまずリンゴを回収したんですが、これがまた別の意味でまずかった。彼はわが国きってのモテ男でしたから。今度は彼がだれにあげるつもりかと、そっちで女性陣がヒートアップしてしまいました」
パリスの選択間違えたな。
元々の話でも、パリスの審判は間違っていたとされる。そのせいでトロヤ戦争が起きてしまったのだ。
「で、だれに決めたんです?」
「いえ、それがまだ。大問題になってしまったので、保留となっています。でも陛下がくだらないとうんざりしておられましてね。どうにか解決したいと思うんです。そこて知恵を拝借できないかと」
なんつー理由で人を呼びつけるんだ。
いっそ異世界の人間にやらせちゃえば、後は帰せば恨む対象いなくなって万々歳ってか。
ため息が出る。
でも終わらせないと解放してもらえないなら、さっさと片付けよう。
「なら、関係者を集めてくれますか? 肩をつけましょう」
神官の顔がぱっと明るくなった。
「いいんですか? ありがとうごあいます。すぐ当時いた人間を集めますから」
別に全員でなくてもいいんだけど。
神官が指示してる間も、皇帝は沈黙したままだった。
そういえばずっとしゃべってたのは神官。皇帝は無口キャラでもあるらしい。
「今度はなに?」
負けるものかと皇帝を見返す。
「いや? ずいぶん自信があるものだと思ってな。まぁ、お前はよその人間。失敗しても帰ってしまえばいいから、安易にできるか」
「ちょっと。私を連れてきたのはそっちでしょう。私が頼んだわけじゃないわよ。人に頼み事しておいて、そういう態度ばっかりっていうのはどういうこと? 気にくわないならあなたが解決すればいい。自信がないの?」
「ほほう。言うな。せいぜい失敗して負け犬の遠ぼえするところを楽しませてもらうとするか」
絶対失敗するもんか。
「あなただって恋愛経験豊富には見えないけど?」
「陛下は女性に恐がられてますから。それ以前の問題ですよ。おかげでまだ独身です」
「なんだ、自分だって恋愛経験ないじゃない。ところでいくつ?」
「三十二です」
うわあ。
思わず気の毒な表情をしてしまった。
「人のことバカにできないじゃない。私より年上か。一国の皇帝がその年で独身てのはやばいんじゃない?」
「政略結婚も打診したんですが、みんなビビって逃げられました」
そこまでいくと不憫だ。
「人の恋路より、自分のお妃問題のほうが先なんじゃない? 自分の結婚相手探しなさいよ」
思わぬほうに進んできたといわんばかりに皇帝のみけんのしわが深くなった。
「私は恋愛にも妃にも興味がない。とにかくこのうざったいトラブルをさっさとなんとかしろ」
半ば追い立てられるように、私は外へ出された。
☆
神殿前の広場に当時の参列者が集められていた。
すごい数。
ありえない形の鳥じゃない生物が空飛んでるし。やっぱりここ本当に日本じゃないんだな……。
「巫女様、どうしました?」
「うあっ、はい?」
考え事してたから、いきなり肩たたかれてびっくりした。
「大丈夫ですか?」
「なんでもないです。ええと、まず、今から言う人を分かりやすく前に移動してもらえますか?」
新郎新婦。最後まであきらめなかった三人。黄金のリンゴを保管してる男性が一列に並べられる。
新婦はうかない顔をしている。三人の女性はお互いにらみ合い。黄金のリンゴ保管者はオロオロ状態で役に立たない。
皇帝はなんだかんだ言って興味があるらしく、私の後ろ、一段高いところでふんぞりかえってた。
「では、三人の女性について教えてもらえますか?」
「並んでいる順に説明しますね。新郎新婦に近いほうから、まず一人目はヘラ姫。隣国の姫君で現在わが国に留学中です」
いかにも姫といった、段違いのゴージャスな衣装。フリルやレースたっぷり、まだ十代のかわいらしい姫だ。ただ性格はきつそう。
「二人目はアテナ嬢。我が国の誇る女性学者で博識の人物です」
学者らしくドレスはお固く質素。キリッとメガネをかけ、立ち姿も凛としている。二十代後半か。
「三人目はアフロディテ嬢。我が国一番の美人と言われている有名女優です」
ハリウッド映画みたいなプロポーション。セクシー系女優だ。二十代前半。
ヘラにアテナにアフロディテか。名前もそのままね。
「それから当の男性がこちら。パリス君です」
頼りなさげな顔をしてるけど、確かにイケメンだった。母性本能をくすぐるタイプだな。
なるほどね。
私は三人の女性と一人の男性を見比べてたずねた。
「あなたたちはなぜ自分こそふさわしいと思ったのですか? 簡潔に述べてください」
社会的地位が上の人間としてふるまうことが当然と思っているヘラ姫が真っ先に言った。
「当然でしょう? わたくしは姫。だれよりも高貴な存在ですわ。わたくしが世界一美しいに決まってますの」
学者アテナ嬢は嫌味っぽく、
「血統はよくても中身が愚かでは台無しですよ。なにより重要視すべきは知性。最も賢い私が世界一の女性に決まってますわ」
女優アフロディテ嬢も負けてはいない。
「血統だけのお子様と頭でっかちな売れ残りが何を言うやら。人気女優の私こそ世界一美しいのよ」
「なんですって? 庶民のくせに!」
「ただ胸が大きいだけの脳みそからっぽ大根役者!」
「おこちゃまと年増!」
速攻でバトルに突入した。
あー、こりゃだめだわ。
ほっといてみたら、三人ともパリスにくってかかった。
「パリス様、わたくしを選びますよね? 姫と結婚できる、これがどういうことかお分かりでしょう? あなたはいずれ王になれるんですのよ!」
「私を選んでください。私と共に勉学に励みましょう。世界一賢い人になれますよ」
「もちろん私よね? 人気女優の夫。ぜいたくし放題、美人の妻、みながうらやむ生活が手に入るのよ」
おお、買収しようとしてる。
ギリシャ神話でも三人の女神はパリスに自分を選ぶなら褒美にこれをやる、と言った。
ヘラは「世界の王にしてやる」。
アテナは「世界一賢い男にしてやる」。
アフロディテは「世界一の美女を妻にやる」。
神話のパリスが選んだのはアフロディテだった。女を選んだのだ。
私は昔からずっとこのパリスの審判が謎でならなかった。なぜもっと別の選択をしなかったのかと。
「こんな感じだったんですね」
「ええ、こんな感じになりました」
神官がげんなりしてる。
「で、原因のリンゴはどこです?」
「ここにあります」
神官が懐から出したそれを受け取って、
「あのー、お三方。これがほしいんですよね?」
「そうよ!」
「よこしなさい!」
「私のものよ!」
「一応ききますが、三等分して三人で平等に分けたらどうですか?」
ふざけるなと怒鳴られた。
「なんでこいつらと分け合わなきゃならないのよ!」
「こんな女どもと同レベルなんて冗談じゃないわ!」
「それはこっちのセリフ!」
あー、めんどくさい。
「全員ゲットできるし、平和的解決法だと思いますけどね。同率一位でいいじゃないですか」
「絶対イヤ!」
ハモったな。妙なところで気が合うね。
神官がささやく。
「どうするんです? 切り分けるって発想はありませんでしたが、それでもだめじゃ」
「計算の範囲内ですよ。私、昔からパリスの審判は疑問に思ってましてね。どうしてもっと他の選択をしなかったのかって」
「……?」
私はリンゴを持って、ゆっくり花嫁に近づいた。
「ご結婚おめでとうございます」
みんなあっけにとられた。三人の女性など、ぽかんと口を開けている。
「ほう」
皇帝だけが小さくつぶやいた。
「……ちょ、ちょっとどういうことよ!」
「なんで私達じゃないの!」
「どうしてそいつに渡すのよ!」
私はさも意外といったふうに振り向いた。
「だってこの二人の結婚式だったわけでしょう? 花嫁は主役。間違いなくその日世界で一番美しい女性だったはずです。花嫁に結婚祝いを贈るのは当然では?」
参列者たちはなるほどとうなずいた。だが、三人は納得できないとわめいている。
「私達三人のうちから選ぶんでしょ?!」
「あなたたち三人からしか選んじゃいけないってだれが決めたんです?」
そうは決まってないはずだ。
「もう一度言いますが、結婚式だったんですよ。ならお祝いとして、花嫁にプレゼントすべきでは?」
花嫁への結婚祝いにするというのに、花嫁を差し置いて自分によこせなど常識外れもはなはだしい。空気読めないどころの騒ぎじゃない。
私は神話のパリスもこうすればよかったんじゃないかと思っている。花嫁への結婚祝いなら、三人とも矛を収めやすい。
さすがに周囲のとげとげしい視線に気づき、三人とも一歩下がった。
「ふ……ふん、いいわ。わたくしは心が広いもの。たかがリンゴ。それくらい花嫁に譲ってあげてもよくってよ」
「そ、そうね。ただのリンゴだもの。でもパリス様は譲らないわよ」
「私もよ! パリス様は花嫁にってわけにはいかないわよね。だって結婚したんだもの」
ああ、はいはい。そうくると思いましたよ。
「今度はこうなりましたか。どうするんです巫女様?」
「……というかですね……。そもそも人の結婚式の最中、自分こそ世界一美しいって騒ぐ人が本当に美しいと思います?」
ぴきっと三人とも固まった。
その通りだが、だれも言えなかったことだろう。でも私は言わせてもらう。
「本当に美しい人はそんなことしないでしょ」
三人だけでなく途中まで参戦してた女性たちもうつむいている。
「肝心なことを忘れてるようですけど、そうやって醜い姿をっさらしまくってたわけですよ。そんな姿を見せて、男性があなたたちを選ぶと思います? それに、人の結婚式で大騒ぎして迷惑かけ、式を台無しにしたことについてまず新郎新婦に謝罪すべきでは?」
「…………」
「…………」
「…………」
騒ぎを起こした女性全員を前に出し、謝罪させた。
「これでいいですよね?」
みなおずおずうなずいた。
「はい、これにて終了です!」
私は手をパンパンたたいて解散させた。
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