第35話
五人が街へと入ると、まず背の高い時計塔が目に入り、続けて、細かな装飾の施された協会
そして、その街は斜面に建設されたようで、入口にいても、街全体が見渡せるようだった。
また何より、目を引いたのはレンガだった。
周りの家々は元居た街の木造とは違い、レンガ造りとなっていた。
ノークはそんな光景に、目を白黒させてはしゃいだ。
何かを見つけては、そちらへ、また見つけてはあちらへと、その姿はほんとに楽しそうだった。
勿論その時も、ミーナの手を引いていた。
ミーナは引っ張られるように、あちこちに連れまわされていたのだけど、それほど嫌がっている風にも見えなかったので、
止めるようなことはしなかった。
街の中を進んでいくと、さまざまな色のテントが並び、その下には露店が開かれていた。
野菜に、果物に、雑貨に、軽食を取れるようなところもあった。
ノークとカルダは鼻をひくひくとさせ、それはもう食べたそうな顔を見せるのだった。
「少し、寄っていかない?」
その意見に反対する者はいなかった。
そればかりか、もはや露店に目が釘付けだった。
「あれ、うまそうだ
あ、ちょっとまって、あれもうまそう」
その時のノークのはしゃぎっぶりはなかった。
彼ら五人は、一つの露店の前で止まると、パンに、ソースで絡めた肉と野菜とが挟まれたものを注文し
皆で食べることにした。
ノークはもちろん満面の笑み、カルダも嬉しそうに頬張った。
ミーナはというと、最初警戒していたけれど、小さな口を開けてパクパクと食べるのだった。
食べた後は、皆口の周りにソースをべったりとつけて、だけど幸せそうだった。
そして、またしばらく先へと進むと、カルダが何かに気になったようで立ち止まる。
そこは、斧やら剣やらが置かれた、武器屋のようだった。
カルダはそれらをまじまじと眺め、その一つに目を止めると、またじっと見始める。
「これ、買っていっていいか?」
そう聞かれても、という顔で相沢は答える。
「結局あなたのお金だし、好きにするといいと思うよ
あなたのお金というのは少し語弊があるかもしれないけど……」
最後の言葉は、口の中でぼそぼそと発せられたもので、実際には言葉になっていなかったかもしれない。
カルダは商品を受け取ると、それはもう、子供の様に嬉しそうにそれを持つのだった。
それは、両手に持つダガーのようだった。
「これからまた戦闘も考えられる。一つくらいはあったほうがいいだろう
小さなナイフ一つでは心もとない」
「お前らも一つどうだ、丸腰では心もとないだろ」
「私たちはいいわ」
そう発した相沢だったけど、ノークの目は輝いていた。
男の子って……そう思う相沢だった。
ノークは結局、丁度手に収まる小さなナイフを買ってもらい、満足するのだった。
「大事にするんだぞ」
「当たり前だ」
そう言って、二人は腕をクロスさせるのだった。
相沢は、呆れるけど、だけどどこかしらその光景をうらやましいと思えるのだった。
「そう言えば、隼人は静かだな」
カルダは隼人のことがふと気になり、目を向けてみるも、相変わらずだった。
「隼人、笑ってみろ」
「カルダさん無茶よ」
案の定隼人は何の反応も示さない。
「無茶じゃないさ
隼人、楽しいときは笑うんだ
で、飯食ったらうまいって言うんだ」
「大袈裟でもいい、思ってなくてもいい、一度でいいから言ってみろ」
そう言われて隼人はコクリと頷いた。
カルダの言う通りではあった、だけど、当の隼人は心の底から楽しいと思ったことがなかったし、
食事をおいしいと思ったこともなかったのだ。
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