第20話


 穏やかな風が流れ、一定のテンポの音が気持ちを落ち着かせる。

 真っ青な空と、真っ青な海がかなたの水平線で交わり、緩やかな曲線をなす。

 渡り鳥が浜で遊び、餌をついばむ。


 隼人たちは海に来ていた。

 浜に腰掛け、ひと時の安らぎを味わう。


 相沢は2人のことが心配だった。

 原因不明の苦しみを味わう隼人と、自らの過ちに悩むノーク。


 相沢は二人を海に連れ出したのだった。

 二人とも今は落ち着いてはいたし、むしろ元気だったかもしれない。


 ノークはさっそく波打ち際に飛び出し、遊んでいた。

 相沢は、隼人も一緒に遊べばいいと思っていたけど、隼人に限ってそれはなさそうだった。

 代わりに話題を振ることにする。


「いつもあんな風になるの?」


 隼人はやはり向きを変えずに口を開く。


「たまに」


「苦しいの?」


「分からない。弱くなって、震える」


 隼人の言葉は断片的で、相沢には今一つ理解できなかった。

 ただ、放っておける状況じゃないとだけは理解できた気がする。

 それは、相沢が経験したことのないことだからかもしれない。

 だけど、苦しんでる人は見捨てれない。


 今の隼人は落ち着いているように見えた。

 海風で髪をなびかせ、波音に聞き入っているように見える。

 こうすることで少しでも安らぐならと思えるのだった。


「あ、そうだ隼人君」


 相沢が思い出したように話す。


「ペルソナっていつでも使えるの?」


 それに対して、隼人は首を振るのだった。


「分からない。けど、内から沸き起こってくる気がする」


 やはり断片的だった。つまりはこういうことかもしれない。

 自分で自由に付け替えることはできなくて、何か感情が沸き起こった時に使えると。

 それと同時に、こういう時にもペルソナ使ってくれると話しやすいと思える相沢だった。


 だけど、相沢は気付いてなかった、隼人が落ち着いてるからこその話し方だということを。


 ほどなくしてノークが貝殻をたくさん集めて戻ってくる。

 相沢はそういう姿を見てノークは子供だなって思う。


「お二人さん、いい雰囲気ですね

 式はいつですか?」


 先ほど、子供っぽいと思ったことを訂正したくなるほど、今度は馬鹿丁寧な話し方をしてくる。


「な、なに言ってるの」


 ノークの茶化しに、相沢は素直に顔を赤らめ慌てるのだった。

 そして、冷静を取り繕うように、こう話す。

 実際にそうだったこともあり。


「まじめに話してただけよ」


「またまた、隠さなくてもいいんですよ」


「な、何も隠してない」


 相沢には身に覚えがないのにも関わらず、顔を赤らめてそっぽを向いてしまう。


「顔赤らめてら

 ヒューヒュー」


 しばらくノークに茶化され、何かしら怒りのようなものが湧いてくる相沢だった――――

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