第二章
第14話
隼人は、道にうずくまっていた。
その体は震え、目は見開き、まるで凍えているかのように。
隼人の中で何かがはじけていた。
本来なら人目をはばかりたいところではあるけれど、
それは突然にやってきた。
ペルソナの副作用。
それは、隼人の仮面がすべて剥がれ、コア、すなわち素の部分が露呈していることを表している。
それはもろく、触れれば壊れてしまいそうなくらいに弱い。
隼人は、動きたくとも動けなかった。
「隼人、君」
相沢が心配そうに声をかけるもその声は隼人の耳に届かない。
相変わらず隼人はわなわなと震え、まるで自分を保つことで精いっぱいのようだった。
相沢はそっと隼人の体に触れると、その振動が手にまで伝わってくるようだ。
だけど、経験したことのない状況に遭遇し、どうしていいかわかりかねていた。
それは、ノークも同じだった。
ただ、心配だという思いが先行し、何もすることができない自分たちが歯がゆかった。
小一時間、その状態は続いた。
それはおそらく、強いペルソナを使用した後にやってくるようだった。
その強さの反動、使用後はもろく崩れ落ちそうなくらい弱くなる。
これが桐原隼人の真の姿。
「ごめん、もう大丈夫」
しばらくそうしたのち、隼人はすっかり良くなったようで、血色もよくなり
隼人に限って笑顔はなかったけれど、また元の顔へと戻っていた。
それを見た、相沢とノークは安心した。
「ビビらせんなよ」
ノークはわざと大袈裟に明るくそう振舞う。
それは、そんなものなんでもないというように。
「隼人が困ってたら僕が助ける
一人で悩むな。これは約束だ」
それを聞いた隼人は無表情ながらも内心嬉しかった。
元気なときのノークほど心強いものはないと、そう思えるのだった。
「隼人、街外れまで競争だ」
ノークは、子供にしては生意気な口を聞く、だけど、隼人にそれを気にする様子はなかった。
「隼人が負けたら、ジュースおごれ」
「私が負けたら?」
相沢は、自分の名前が呼ばれなかったことを不服に思いそう尋ねてみる。
「相沢が負けたら、街100週だな」
「え……わ、私だけ?」
「はははははははは」
ノークは冗談ぽく、ほんとに楽しそうに笑う、まるでその暗い影を思わせないほどに。
いままで、無表情を決め込んでいた隼人も、思わず口元を緩めてしまう。
相沢は、そんなノークと、隼人の男の友情のような関係に軽く嫉妬するのだった――――
◇
場面変わって、街中では、眼光鋭く、2つの目が光る。
その男は、帽子を深くかぶり、タートルネックを持ち上げ、顔を隠している。
黒っぽい服を着たそいつは、物陰から隙を伺っている。
露店の店主が、奥へ行ったのを見逃さず、すかさず飛び出す。
走り抜けて、ひったくるように、リンゴを一つ奪うと、そのまま人ごみの中を駆け抜けていく。
店主が戻った時にはもうすでに時遅く、露店の外にリンゴが一個転がっているのを見つけただけだった。
盗まれたことにも気づいていないようだった。
店主は腰を曲げ、リンゴを戻すと、また商売を始めるのだった。
「ちょろいぜ」
カルダは、川べりに腰掛け、片手でリンゴをお手玉して、勝利の微笑を作る。
川べりには、他に人はおらず、それを気にする人は誰一人いなかった――――
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