第3話
「隼人君、帰ろ」
一人だけ女の子が残っていたようで、隼人にそう促すけど、隼人に帰るつもりは全くなく、
帰りたければ一人で帰ればいい、そう思っていた。
「隼人君?」
隼人は構わず、前に進み、目の前にある椅子に備えられた人形を手に取る。
恐怖なんてものはなかった、ただそこに椅子がありその上に人形があるそれだけの事。
その人形は手の中でぐったりとして、特に変わった様子はなかった。
椅子に戻すと、隼人は振り向き、ここにはもう用はないというように、ドアから出ていこうとした。
カタカタカタカタカタカタカタカタ
地震?
部屋が揺れ、人形が揺れ、それらがぶつかり合う音があたりに響く。
見回すと、天井では蛍光灯が揺れ、じりじりと音を立てていた。
「きゃっ」
地震に驚いたのか女の子が声を上げる。
だけど、その顔は目が見開かれ驚きに満ちていた。
隼人はその驚きの原因を確かめようと、体の向きを変え、さっきの椅子に向き直ると
浮いていた。
さっき手にしていた人形が、ふわふわと椅子から浮き、その顔はニタリとしていた。
「ようこそ……ドールハウスへ」
かすれてはいたけど、音程の高い声があたりに響く。
どうやらその音源は宙に浮く人形のようだった。
「ここは、人間界と異にするドールたちの住まう場所」
そのウサギの人形は口をパクパクと動かし、目を細めて語り掛ける。
その話に呼応するかのように、周りの人形達もカタカタと動き出し
そして口々に話し出した。
「人間だ」
兵士風の人形が少し驚いたような口調で話す。
「人間だ……救われるかもしれない」
華やかな花嫁風の人形がそれに続く。
「助けてほしい……助けてくれ」
それに同調するように、他の人形たちもざわめく。
「霊の正体は君たち?人の都合で捨てられた人形に人間が怯えるなんてね……」
隼人は素直にそう思い、周りの人形たちを見回す。
周りの人形は、そんな隼人の目に怯えたように顔を背けまたヒソヒソと話し出す。
それを制するように中央のウサギが口を開く。
「おいらたちの世界は少し困ったことになっている。君に救う気はあるか?」
ウサギは、隼人を試すようにそう言うと、隼人の後ろの扉を指さしてまた言葉を続けた。
「後ろの扉の先がおいらたちの世界。そこで一つ手を貸してほしい」
ウサギは表情を変えずに言い切って、隼人が逃げるかもしれないと思ったのか
言葉をひそめて次のように話す。
「最も君に選択権はないけどね
分かってると思うけど、この世にやり直しなんてものはないんだよ」
隼人はそれを聞いても表情一つ変えない、だって当たり前のことだから。
振り向くと、女の子が立っていて、その後ろの扉はいつの間にか、金色に輝いていた。
「ここから帰りたくば、その窓から飛び降りるといい」
ウサギはそういうと、扉と向かい側の壁に備えられた
人一人がやっと通れる大きさの窓を指さす。
隼人に迷いはなかった、この世界にうんざりしていたし
大切な人もいない、そこから出ることができるなら願ったりだ。
「まぁ待ちたまえ」
扉を抜けようとする隼人をウサギが呼び止める。
まだ話は済んでいないというように。
「おいらたちの世界のバランスは今崩れようとしている
それを君に食い止めてほしい」
隼人はそこに立ち止まってウサギの言葉に耳を傾ける。
「君の仮面、つまりはペルソナの力でね」
隼人には聞きなれない言葉だった。
今まで生きてきた中で、何度か耳にはしたけど
その意味までを理解しているわけではなかった。
「仮面?ペルソナ?僕にはそんなのないよ」
なんのことか理解できなくて、隼人はそれを否定する。
そんな隼人を嘲笑するような言葉をウサギは口を少しゆがめて話す。
「何を言っている。つけているではないか」
ウサギの言葉は今一つ理解できなかったけど、
仮面をつけてるといわれ、顔に手を触れて確認してみると
隼人は確かに仮面をつけていた。
「これが、仮面?」
隼人は仮面に触れて、誰に言うともなく口にする。
「それはペルソナを具現化したものに過ぎない。
ペルソナの力は他にある。
その力は仮面を付け替えることで発動する。
なに、話しても分からないだろうから、自分の目と耳で確かめるといい」
よくわからない、意味深な言葉だけが、頭を流れる。
いつの間にか僕に近づいていたウサギは、淡々とした口調でそう告げると
もう行きたまえというような態度をとる。
隼人はウサギをちらりと見ると、振り向きもせず言った。
「僕には興味ない、ただこの世界から離れたいだけ」
ウサギはフンと鼻を鳴らし、輝く扉を指さす。
「行きたまえ、頼んだぞ」
隼人は表情一つ変えることなく扉を抜ける。
隼人を見送った後、ウサギの表情は気難しい顔へと変わる。
果たして彼の軟弱な心がどこまで耐えられるか――――
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