みんなー!異世界転送の時間だよーー!!

ちびまるフォイ

大人になって失われるもの

「さぁ、みんな! 今日も元気に遊ぼうね!」


「「「 はーーい!! 」」」


「それじゃあ、最初のお歌はみんなが大好きな歌。

 離婚して別れた妻の大切さを歌った

 『らんらん星のごりんらん棒』だよ!」


「「 わーーい!! 」」


ポップな音楽が鳴り始めると子供が歌い始めた。

歌に合わせてマスコットの「チャンピ―」がおどり始める。


テレビカメラがとらえていたのはここまでで、

会場から歌のお兄さんと子供たち、チャンピーは忽然と姿を消した。


歌のお兄さんたちが目を開けるとやってきたのは一面に広がる草原。


「ひろむちお兄さん、ここどこー?」


子供ならではの適応力を発揮し、慌てるどころか楽しんでいる子供たち。

チャンピーの中の人は野太い声で「どこだここ!?」と騒いでいた。


「みんなー! どうやら僕たちは異世界に来てしまったみたいだ!

 みんなのお歌の力と、チャンピーのふしぎな踊りと

 お兄さんの現実逃避したい力が合わさった結果だね!」


「わーい! イセカイ! イセカイ!」

「習い事もいかなくていいの? やったー!」


歌のお兄さん(最近、歌のお姉さんとギクシャク)は、

目の前にそびえるまがまがしい塔を指さした。


「ごらん、いかにも悪そうな塔があるね。

 みんなであの塔にいる悪い奴をぶっ倒しに行こう!」


「どうしてー?」


「実はあそこはチャンピーの実家なんだよ。取り戻さなくっちゃ」


「マジか!?」


チャンピーはキャラを忘れて、二児の父親としての声をのぞかせた。

歌のお兄さんは子供を誘導することにかけては天才で、

あらゆる設定を盛り込むことに定評がある。


かくして、大した目的意識もないままに世界を救う旅に出た

歌のお兄さんとその子供たちと、マスコットのチャンピー。


道中の村にやってくると歌のお兄さんは外で待機し、

子供をお店の方へと進ませた。


「最高級のゴールドの剣かい? いくらもってるんだい」


「うんとね、これで買える?」


子供の小さな手にはわずかな銀貨が握られていた。


「えぇ……? 君、値段わかってる?」


「買えないの?」


銀貨にはわずかに貯金箱を砕いた後の破片がついていた。

この銀貨を集めるのにどれだけ苦労したのだろう。


「ええい! もってけ! 今日はサービスだ!!」


「わぁい! おじさんありがとう!」


などという手口で容疑者の歌のお兄さんは着々と冒険の道具や武器をそろえていった。


成長期真っ只中の子供たちはめきめきと戦いを覚え、

異世界を攻略に攻略を進めていった。


「みんなー! この調子でどんどん世界に恩を売っていこうねーー!」


「はーーい!!」


子供を率いる軍勢は噂になるほど力をつけていた。

しかし、魔王の塔直前になってついに戦死者が出た。


「ぐあああ!!」


「チャンピー!!」


これまで敵の眼前で戦うこともなく踊り続けていたチャンピーがやられてしまった。

子供たちは三日三晩なきつづけた。


「みんな、元気を出して。チャンピーが大好きだったお歌

 『ビットマネーで大儲け』を歌ってあげよう」


「……」


「どうしたの? みんな、チャンピーとお別れ寂しいのかな?

 チャンピーはみんなの心の中にいるんだよ。

 お空でみんなのことを見守っているからずっと一緒だよ」


「……チャンピーいないならもういい」


「えっ」


これまで何の役にも立たないと思い込まれていたチャンピー。

でも、そのふさふさの着ぐるみとコミカルな動きは子供の心をつかんでいた。


子供たちは歌のお兄さんに従っていたのではなく、

チャンピーがいるところに集まっているに過ぎなかった。


「もう帰りたい」

「なんかもう飽きちゃった」

「お歌つまんなーい」


「ま、まずい……! 学級崩壊の音が聞こえる!!」


歌のお兄さんはチャンピーのマネをしてみたものの効果なし。

それどころか死者を冒涜していると子供たちの好感度はダダ下がり。


「帰りたいーー! なんでこんなところいるのーー!」


「やばい! いったいどうすればいいんだ!!」


追い詰められたお兄さんはせめて絵で引きつけられないかとスケッチブックを手に取った。

お世辞にもうまいとは言えない絵だったが、実体化するなり子供の目をくぎ付けにした。


「わぁ! お兄いさんすごーい!」

「どうやったの!? どうやったの!?」

「これなんて動物?」


「これはね、えーっと……ミンミーだよ」


足が12本、頭が2つで鋭い牙をはやしている凶悪な造形のマスコットは

近くにいるモンスターたちを捕食していた。

子供たちの目にはモザイク加工されているので保護者も安心。


「お兄さんすごい! もっと見せて!」


「もちろんだよ。でも、敵がいっぱいいる所じゃないと意味ないから

 みんなであの塔まで向かおうか」


「「 うん! 」」


再び冷めきった関係を温め直したように子供たちはお兄さんの下へ集った。

訓練された子供たちと、凶悪なクリーチャーを扱う召喚士はついに魔王の下へと到達した。


ギラギラと輝く装飾品に、人間から徴収したであろう財宝の前に魔王は堂々と座っていた。


「よく来たな人間。貴様たちのことは知っている。

 訓練された冒険者がこんなにもいるとなると、さすがの我も勝てぬ」


「ずいぶんあきらめが早いんだな」


「フフフ、客観的なだけだ」


魔王の前口上が始まるも、子供たちは飽きたのか「ながーい」とか文句を言い始めている。

飽きさせてしまうと戦闘意欲も失われるので歌のお兄さんは巻きで戦闘をしかけた。

聞こうが聞くまいが、倒してしまえば一緒だ。


「さぁ、みんな! 『魔王なんて怖くないさ』の時間だよ!

 みんなでお歌を歌ったついでに魔王をやっつけちゃおう!!」


「フハハハ!! 愚か者め!!」


魔王は魔法を唱えると、子供たちはみるみるおしゃれ小学生へと変化していった。


「貴様、いったい何をした!?」


「たしかにお前たちと戦えば我に勝機はない。

 だが、お前たちの戦力を失わせることなどたやすい!!」


「し、しまった!!」


天使のようだった子供たちは今や化粧すら始めるおしゃれっぷり。

写真をインスタにアップしたり、男子はゲームをはじめていた。


「み、みんな! 魔王はもう目前だよ!

 チャンピーの仇を取るチャンスなんだよ!

 みんなで歌を合わせて魔王を倒そう!!」


「なにそれ?」

「つーか、なんで従わないといけないわけ?」


「みんなお歌が大好きだったじゃないか!」

「それ子供の話だし」


「魔王を倒せばこの塔を遊び場にできちゃうよ!!」

「ゲームあればよくね」


「お兄さんがいくらでもモンスター出すから!」

「なにその絵、こわっ」


子供たちは荒み切った十代へと変わってしまい、

さながらやさぐれた子役のような状態になっている。喫煙すら射程圏内。


「くそ! 俺たちはあきらめない!!

 歌のお兄さんである以上、子供たちを歌の力で引き戻してみせる!」


「だったらこれはどうかな?」


魔王は再び魔法で子供たちを成人させてしまった。


「まだだ! まだあきらめない!!

 成人しても友達と一緒にカラオケを行くこともある!!

 みんな歌の力を信じているはずだ! 俺はあきらめない!」


「ハハハ! この期に及んでもなお、歌の力で率いられると思っているのか!

 だったら、もっと絶望させてやろう!」


魔王はまた魔法を唱えて、元子供たちを中年へと変えてしまった。


「これならどうだ!!

 もはや歌なぞに興味を示さない年齢まで成長させてやったぞ!!

 もう貴様に仲間どもを指揮する力なぞない!!」


歌のお兄さんがついに歌うことを諦めたことで、魔王は勝利を確信した。

お兄さんは魔王の後ろにあるギラギラの財宝を指さした。




「あ、魔王倒せばたくさんお金が手に入りますよ」



最初は興味もなかったソレに向かって、大人たちは一致団結して魔王を倒した。

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