無法地帯 (3)

 マフィアの牛耳る町の外れ、キノコの森の傍ら、我らが『サジタリウス』号は鎮座していた。周囲の背景が背景だけにこの不釣り合い感は逆に威圧感を放っている。

「お土産話、期待してます」

「ジニア、さん。あまりハメを、外すな、ヨ」

 一先ずはズーカイとゾッカを『サジタリウス』号に残し、俺達は肝心の物資調達へと向かうことになった。

 あの二人なら大体のことには対応できるだろうし、例え変な輩に囲まれても大丈夫だろう。ほんのついさっきまで数千もの追尾を振り切ってきたばかりだし。

 一方でこっちのメンツも下手な面倒ごとを起こしそうな懸念を覗けば、危険なこともないはずだ。というか、ジニアから目を離さないようにしないとな。

「んで、こっからどんだけ歩くんだよ」

 いきなりダルそうな声でジニアがぼやく。

「まずは街の中央に向かいます。そこら辺にマーケットが密集しています。我々の足なら秒で着きますが……流石に目立つので二十分くらい時間を掛けましょう」

 一体どういう会話だ。いや、まあ目立ちたくないからそうなってしまうのだが。

 全速力で走り抜けて無駄に体力を消耗するのも億劫だ。順当にとぼとぼと徒歩で行く方に落ち着こう。

「用心に越したことはないな」

 一応辺りを警戒してみる。

 石造りの家屋が建ち並び、古めかしさが目に付く。何度も修繕を繰り返された跡も残っており、見た目以上に歴史がありそうだ。

 人の気配はあまり感じられない。見える範囲に建っている全ての家に住民がいるというわけでもないらしい。

 ただし、いくつかの視線は察知できた。どうやら既に品定めされている様子。

 ちょろそうな相手だと思われたら突っかかってくるかもしれない。

「くれぐれも武器はしまっておいてくださいね」

 ザンカがこっそりと釘を刺してくる。さすがに気付いているか。

「ありゃ子供か?」

 正面、向かいの家の窓に視線を向けてジニアが言う。気配を殺して隠れているつもりなのだろう。しかし、丸わかりだった。

 カーテンの向こう側から三人分くらいの小さな視線がこちらを覗き見ている。

 手元に構えている武器は、ナイフだろうか。

 このまま近づいていったら飛び出してくるかもしれないな。

「囲んできているぞ」

 正面の気配はそのままに、小さな気配が左右に移ってきている。この数は十人くらいだろうか。まさか本当に掛かってくるつもりなのか。

「ジニアさん、子供のあやし方って知ってます?」

「へっへっへ、加減しときゃいいんだろ」

 愉快そうにジニアが笑ってみせる。

「今だぁ!!」

 やや後方から子供の叫ぶ声が聞こえた。どのタイミングを読んでいたのやら。

 声を合図に、隠れたつもりだったのだろう子供達が一斉に姿を現す。

 中にはちょっとませた玩具を構えている奴もいた。

「お前さ、こういう危ないもの、何処で拾ってきたんだ?」

 目の前のソイツに問いかける。

「ふぇっ? えええええぇぇっ!!!?」

 果たして、何が起きたのか理解できたのだろうか。

 とりあえず俺は、銃口の先を突きつけられていたので、ソイツを構えている奴のいる屋根の上に飛んできただけだ。

 片手でパシっと、物騒なものをはたき落とす。銃はそのまま屋根から転がっていき、重力に導かれて地面へと落下していった。

 たったそれだけのことで尻餅をついて動けなくなってしまった。

 なんだ、本当に子供じゃないか。男の子のくせに情けない。

「え? 今、そこにいたのに……え? ど、どうやって? お、おばけぇぇ!?」

 人の顔見てビビるな。そこまで脅かしているつもりはないんだが。

 他の所からも悲鳴が上がってきていた。

「ひぇぇぇぇ!! 捕まったぁぁぁ!! た、たす、助けてぇぇぇ!!!」

「おいおい、あんま暴れんなよ。なんもしねえって」

 見ると、向こうの家の屋根の上でジニアが子供を羽交い締めにしたまま持ち上げていた。足が地面につかなくてジタバタしている。ちょっと乱暴じゃないか?

 必死にもがいて可愛そうに。相当怖がっているじゃないか。

「おいたはダメですよ。悪い人だったら死んじゃってたかもしれないですよ」

「ごごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃ!!!」

 ザンカの方も大体似たような感じだ。

 いずれも怪我はさせていないようだが、突然のことに頭の処理が追いついていないようで、すっかりビビってしまっているみたいだ。

「そいつらを離せ、ゲス共!」

 屋根の下、地上の方からの声。

 別に何をするつもりもなかったので、とりあえず屋根から飛び降りる。

 ジニアとザンカも同じだったようで、直ぐに降りてきた。

「……ッ! あたいの子分らが迷惑かけたな!」

 見ると、声の主が震えた声でこちらを見上げてきた。

 短髪だったので一見すると男の子にも見えなくもなかったが、女の子だった。

 三人同時に降りてきたのはちょっとまずかったのでは。びっくりして泣きそうな顔をしているぞ。

「お前がリーダーか?」

「そうさっ! あたいがここの縄張りのリーダーさ!」

 見栄を張っているようだが、足がガクガクしてるぞ。

 そういえば最初に合図を送っていた声だ。他の子供に比べると一回りも年上に見えた。とはいえ、俺達からしてみたらそこまで大差はない。

「勝手に縄張りに入って悪かったな。俺達は何も危害を加えるつもりはないんだ」

「へ、へんっ! 信じられるか! 大人は直ぐウソをつくんだから!」

 うぅむ、まいったな。話が通じないようだ。

「お嬢さん、あなたの名前は?」

「聞いて驚け! あたいはツェリー! 宇宙を股に掛ける盗賊団のリーダーさ!」

 えっへん、と自信たっぷりに胸を張る。

「えっと、解析。違いますね。あなたの名前はブロッサ。元々は惑星『エラトス』の出身で、奴隷商に売られてこの『カリスト』にやってきたとの記録があります」

「ぷぇっ!?」

 おいおい、驚きのあまり生気の抜けた顔してるぞ。

「なななな!? なんであたいの本当の名前を!? ずっと秘密にしてたのに……ってか、そんなのどうやって? え? え? ええええぇっ!??」

「それはブロッサさん、あなたがコードを持っているからですよ。コードはただの識別番号ではありません。あなたの生きてきたこと全てが記録されているんですよ」

「そ、そうだったのぉ!?」

 いちいちリアクションがオーバーな奴だな。

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